ハムレット34-35 Ⅰⅳ

たとえ雅びなほど清らかであろうと、並ぶ者無きほどそれを積み上げようと、口さがなき世の俎上(そじょう)で屈せざるざるを得なくなる…その僅かな引け目の為に…清くあればあるほど口に含んだ酒が不面目な酔いを招いてしまうんだよ…謂わば…
ホレイシオウ 殿下、あそこを!
(亡霊、入ル)
ハムレット (驚愕し、絶句の様。徐ろに)慈悲深き天使が我らをお護りになられているのだからな!
…おまえが善なる聖霊だろうと、邪(よこしま)な悪霊だろうと、天から風をそよぎ寄越そうと、地獄から烈風を吹かそうと、あるいは、邪悪な心積りだろうと、慈しみある心積りであろうと、とにかく、おまえは現れた、僕らの言葉を待つ如くな―
おまえを、ハムレットと呼んでやろう。国王、父上、デンマーク王でもいい。何なりと、呼んでやろう。さあ、おまえの番だ、応えるんだ。もどかしさで僕を狂わせないでくれ。何故なんだ? 厳かに弔われたおまえの骸(むくろ)が、棺に納まったはずなのに、蠟引き布を引き破り、こうして御登場して来たというのは。どうしてまた、安らかにおまえを葬ったはずの墓が、あの重い大理石の顎の口を開き、おまえを吐き出さねばならぬのだ? どういうことなのだ? 屍(しかばね)たるおまえが、鎧を決め込んで、またぞろ月影に照らされんと舞い戻り、恐ろしげな夜の帷(とばり)を張り巡らすというのは? 僕らが盲(めしい)の如く得体の知れぬものに慄(おのの)いて、気を震わせねばならぬのは…答えてくれ、どうしてなんだ? 何故だ? どうしろ、と言うのだ?
(亡霊、頷いて、手招く)
ホレイシオウ 手招いていますよ。従いて来いと言うのでしょうか? 殿下にだけ伝えたい、と…
マーセラス 御覧下さい、。恭しく殿下を手招いていますよ。 …行ってはいけません。
ホレイシオウ そう、絶対に。

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