ハムレット132 Ⅳⅱ

第四幕第二場 城内、離れた一隅。
ハムレット、入ル。

ハムレット よし、仕舞い込んだ。
ローゼンクランツ、ギルデンスターン (奥より)ハムレット様! ハムレット殿下! ―
ハムレット 待てよ、声がするぞ? ハムレット、だって? 誰だ? 来るぞ―
(ローゼンクランツ、ギルデンスターン、入ル)
ローゼンクランツ 殿下、御遺体はどうなさいました?
ハムレット 一緒にして置いたよ、塵芥(ちりあくた)とね。同じ類(たぐい)だからね。
ローゼンクランツ 何処かお教え下さい。お運びして、礼拝堂に安置させていただきます。
ハムレット 期待しない方がいいよ。
ローゼンクランツ 何をです?
ハムレット 僕が君達の密命におめでたくお手伝いをしてしまうことをだよ。自分の計略を擲(なげう)ってね。そもそも、海綿の如き男にせがまれたところで、一国の王嗣子としてはそう応ずるより他は無いんだよ、残念ながらね。
ローゼンクランツ 私がその‘海綿男’であると?
ハムレット そうだよ。王の御寵愛、御褒美、玉座の威光、皆、吸い込むんだよ。と言ったところで、日が暮れて利するは国王陛下だけれどね。国王は猿のように顎でもぐもぐさせて置いてから、終いには呑み込んでしまうんだよ。君達が掻き集めたものを、御入り用になったら絞り出すという算段さ。それでもって、君ら海綿族はまたぞろ元の干涸らびた海綿に戻るという訳だ。
ローゼンクランツ 殿下、よくわかりかねますが…
ハムレット わからなくて、ほっとしたよ。悪口雑言さえも、馬の耳には…
ローゼンクランツ 殿下、御遺体を何処にお隠しか、仰っしゃらなくてはなりません。それから、陛下のお目に掛かりますよう。我々がお供致します。
ハムレット (呟くように)御国は王と一心同体(ひとつみ)なるもの― 然(さ)りながら、今、王は頭領(かしら)に非ず。王は、ただの…物。
ギルデンスターン 物ですと、殿下!
ハムレット 参上するとするか。隠れんぼで、皆、大忙しだ―
(ハムレットを先頭に、全て足早に、下ル)


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