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遺棄期間は1年。父の死を知った長男の最初の意外過ぎる一言(死体遺棄、詐欺) 傍聴小景#77

裁判ライター1本で食っていくために色々と試行錯誤しておるわけですが、現実はそう甘いものでもありませんで、細かいアルバイトなどをいくつかしている私。

その一つが葬祭関係の仕事なのです、詳しい内容までは言いませんが。

そこの社員さんと雑談をしている中で、ふと今回のテーマでもある「死体遺棄」について疑問に思っていたことを聞いてみたところ…。
レアケースだからということもあってか、聞く社員さんごとに答えが違うこと違うこと。
でも、裁判という観点で、自分の仕事について振り返ることもあまりなかったようで、みんな頭を捻りながら色々と考えてくれました。やはり、多くの方、多くの仕事において、裁判と完全に無縁というケースはほぼないでしょうから、なんとか頑張って多くの方の目に裁判コンテンツを触れてもらえるようになりたいなと思う訳です。

はじめに ~目についてしまう「死体遺棄」の罪名~

罪名:・死体遺棄 ・詐欺
被告人:50代の男性
傍聴席:平均11人(全3回)

被告人はやせ細った男性で、目つきはやや鋭く感じます。
裁判官からの「仕事は?」の問いに、声は大きくはないですが「無しですわ」と答える様子は、若干投げやりのような印象を受けます。

「死体遺棄」の裁判があると、可能な限り傍聴をしようとする僕
決して明るい気持ちになるような罪名ではないですが(明るくなる罪名などありませんが)、当初死体遺棄という犯罪は、「殺人を犯した人が山や海に捨てること」「もう一つ」しかないと思っていました。今回はその「もう一つ」の方ではあるのですが。

ところが、実際傍聴してみると、家で一緒に暮らしていた唯一の家族が亡くなって、頼る知人もなく、放心状態でどうしたらいいかわからず放置という事例が多いことに気が付きます。とても悲しい事件なのですが、それぞれの家庭の深刻な悩み、生活する上での横の繋がりなど考えさせられることが多いのです。

まぁ、今回は、死体遺棄と聞いて想像されやすいケースの話なのですが。


事件の概要(起訴状の要約)

被告人は自宅にて一緒に住んでいた86歳の父が死亡したことを確認しながら、それを各種届や葬祭などを行わず、約13ヶ月もの間、自宅にて放置した。
また、それに際し、年金事務所に生存しているかのように偽ったため、合計68万円もの年金を不正に受給した。

年金を不正受給するために、家族の死亡を届けなかったパターンです。やっぱ、こういうケースもありますよね。

というか、逆に今まで傍聴してきた死体遺棄裁判でも、死後数ヶ月というのはざらにあったのに、年金について触れられている裁判はなかったのは何故なんだろう。振り込まれた年金に手をつけなかったからなのかな
裁判ってこういう細かいことを考えてもそれが正しいか分かることは稀なのですが、それでもあーでもない、こーでもないとやる時間が楽しかったりするのです。
そして、それによってまだよく分かっていない、年金の仕組みを理解しようとしてみたり。


採用された証拠類 〜白骨化した遺体を発見したのは〜

検察官証拠
被告人は高校卒業後、塗装工などとして働いていたが、40代途中から無職となり、父の年金で生活をしていた。母と兄がいるが、兄は結婚により家を出ていき、母は10年ほど前に亡くなって以降、父と二人暮らしとなる。

自宅で父が死亡したことを確認したが、働く気がなく、口座は自動管理(?)のため年金でそのまま生活しようと思う。

遺体からは異臭が放たれるようになったので、芳香剤を撒いてごまかしていた。兄からは「おとんは元気か?」などとメールが来ていたが「大丈夫です」などと返していた。

(住宅の?)明渡執行人が明渡のため訪問した際に発覚した。遺体はすでに白骨化されており、周囲には虫が湧いていた

働く気のない子と二人暮らしの親が自宅で亡くなり、そのまま放置される。今回の場合は40代まで働いていたという事情はありますが、ニートの高年齢化問題は度々目にするので、気が気でないという方もいらっしゃるかもしれません。

現場を発見した明渡執行人という方がどういう立場の方はわかりませんが、どこまで予期出来ていたのでしょうか。場合によってはお仕事柄、たまにあるくらいの感覚だったりするのでしょうか。そうでないと、さすがにいきなり白骨化死体を見せられるのはキツ過ぎますって。


証人尋問 ~「ぎゃー」と叫ぶ証人~

さて、父の年金で生活していたわけですから、当然現在の被告人の資力に期待はできません。仕事についてもやる気が出るのかということで、生活の再出発には身内などの助けを借りたいところ。
結婚で家は出たものの、残された肉親であるお兄さんになんとか頼りたいところであります。

前回の裁判で、証人尋問を申請していた弁護人が口を開きます。

弁「証人尋問の予定だったのですが、実は連絡が取れておりませんで。病気とも聞いておりまして…」

あらら、証人不出廷のようです。それでは、身寄りもなく、今後の生活の立て直しの証明って大変そうだなと思っていたところ、傍聴席の僕の後ろに座っていたオッサンが、手を挙げて

「あ、今、来てますけど」
と。

どうやら弁護士さんは、証人に日にちをメールだか書面で伝えていたものの、それ以上の連絡が取れず、この日を迎えてしまったようです。こういうケース、ありそうで意外となかったりする。

それにしても、証人も度胸ありますよね。事前に裁判で何を話すか気にならないのかなぁ。よくも、ここまで静かに裁判を傍聴していたものです。

「あ、今、来てますけど」とさらりと言えるように、なんか飄々とした感じの証人さん。
僕の後ろに座っているのでどんな雰囲気か耳だけが頼りですが、証人出廷の用紙に捺印をする際に「よっこらしょ」と言ったと思ったら、うまく押せなかったんでしょうね「ぎゃー」とか叫ぶ始末。後ろで起きた惨劇を見たいやら、いいから早よせいやと思ったり。
面白いのは、このnote的には歓迎なのですが、果たして情状証人として上手く作用するのか気になるところです。


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