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被害額600円で実刑に?(占有離脱物横領) 傍聴小景#55

ニュースなどで「執行猶予」という言葉を聞くことがあると思います。「懲役2年、執行猶予4年」みたいに。

執行猶予について軽く触れますと、もちろんこれは有罪の判決です。本来、刑務所に2年入る必要がありますが、4年間一般社会にて様子を見るというもので、その間になにか犯罪を犯して執行猶予がつかない禁錮刑以上の罪が確定すると、元々の懲役2年に新たに犯した犯罪の懲役刑がオンされた期間、刑務所に入ることになります。
ですので、刑務所に入る大変さはもちろんですが、相当な長期間入らなければならなくなるので、特に執行猶予期間は身を慎まないといけないのです。

では2回目の罪で執行猶予付き判決が出たらどうなるかというと、前の刑の執行猶予は残ったままなので、刑務所に行かなくて大丈夫です。とはいえ、そんな慎んで生活をしなきゃいけない期間に再度の犯行を犯すというのは心証としてものすごく悪いので、再度の執行猶予がつくことはほとんどないのです。

ただ、絶対につかないわけではありません。被告人の過失の程度が低めで結果もさほど大きくない交通事故とか、精神疾患がある、そしてもう一つ被害結果がかなり小さめでこれで実刑にするのもなぁというものです。

でも、これらも絶対ではなく、判決が出るまで僕もドキドキだったりします。


はじめに

罪名 :占有離脱物横領
被告人:20代の男性
傍聴席:平均9人(計2回)

被告人は大柄な男性。幼さが残るわけではないのですが、なんとなくの肌つやなどから20代とは容易に想像できる感じ。
傍聴席で母らしき方が泣いており、息子の初めての裁判でどうしたらいいのやら、と困惑しているくらいかと思ったのですが。


事件の概要(起訴状の要約)~窃盗ではないんです~

被告人は、駅周辺の路上にて落ちていた、他者の交通系ICカードを拾い持ち去った。

たまにあるんですよね、この犯罪。
現金ならまだわかる、と言ってはダメですが、なんでこんな足がつきそうなもの盗るんですかね。ちなみに、この内容であれば「窃盗」でなく「占有離脱物横領」という罪名になります。


検察官が提示した証拠等

・ICカードには960円の残高があった
・被告人は手元に40万円を持っていたが、「電車代に使えるかも」と乗車に使用
・その他コンビニでそのカードで買い物をした

・被告人は居酒屋で飲酒したのち、駅で今回の横領したカードとは関係ない件で駅員に絡み、駅員が通報。駆け付けた警察官が所持品を調べたところ、カードの生年月日と合わず事情を問い正したところ最初は「友人のもの」と言っており、その友人の名前を聞いたが答えられなかった

・令和元年に窃盗、占有離脱物横領の罪名にて、懲役2年、執行猶予4年の判決を受けており、事件当時は執行猶予中であった

・カードを拾った際、執行猶予中だとはわかっていたが、「気の緩みで、使うくらいいいだろうと思った」と供述した

冒頭の通り、今回は執行猶予中の犯行の話です。
「使うくらいいいだろ」って、それが良ければ、もはや何がダメな行為が思いつかないのですが…。40万円を持っていながら、というか40万円が手元にあるという状況もなかなかに不思議ですが、その状態での横領ということで心情も悪そうです。

960円で、といったらいけませんが、この行為で執行猶予が取り消されるとなると、令和元年からずっと何を我慢してきたんだと思ってしまいます。

そんな思いが、ずっと執行猶予期間、監督をしてきた母親から語られます。


証人尋問 ~「母さんの育て方が間違ってたの?(号泣)」~

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