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「面白くない人は一人もいないんです。」エンニュイ インタビュー

佐藤佐吉演劇祭実行委員会が、参加団体の魅力を紹介するため稽古中のお忙しい所にインタビューを敢行!第四弾はエンニュイ主宰で脚本家・演出家の長谷川優貴さんにお話を伺いました!

佐藤佐吉演劇祭2024参加団体インタビュー
ゲスト:長谷川優貴(エンニュイ)
聞き手:内田倭史(佐藤佐吉演劇祭実行委員会)


内田:自己紹介をお願いします!
長谷川:僕は元々芸人をやってて、相方が就職するってなった時に、最初は解散しようと言われたんですけど、お互い小学校からの幼なじみだし、賞レースとかは目指さずにたまに単独ライブとかやればいいんじゃない?っていう話をして、それで今でもコンビを続けているんですけど、そんな中、なんか夢というか追いかけるものがなくなったなって悩んでた時に、ピースの又吉さんが、行けなくなったからって演劇のチケットを譲ってくれたんですね。それで観に行ったのがマームとジプシーの「COCOON」で、これはすげえなって思って。そこから演劇やってみようかなと思い始め、いろいろ観劇をしていたときに、チラシの束に(劇団)サンプルのワークショップのチラシが入ってたんですよ。そこに「自分の物差しをつくる」っていうことが書かれていて。お笑いのネタを作ってきたので、どうしても、フッて、ボケて、ツッコんで、とか、わかりやすくフォーマット化していくことに慣れていたので、演劇をするんだったら、もうちょっと自分の物差しを分解して柔らかくやりたい、と思っていた時期だったので、僕にあってそうだなと思い応募しました。新潟の越後妻有で一週間のWSがあって、そこで仲良くなった人とかと一緒にエンニュイを組みました。
そこから2017年に旗揚げして、コロナ禍になった時にいろいろあって全員バラバラになっちゃったんですけど、又吉さんに名前をつけてもらったから名前は変えずに、僕一人のユニットとしてやり始め、12ヶ月連続公演っていうのをやったりしていました。
内田:12ヶ月連続公演!
長谷川:全然12ヶ月連続でやらなかったです。連続って言ったっけ? みたいな感じで誤魔化して。
内田:(笑)。
長谷川:その時に知り合った人たちと、あともともと後輩だった芸人の市川くんが俳優になっていたりして、あ、この人たちとだったらできるかも、みたいなことを感じて、また始めました。
内田:今のエンニュイにはいろんな経歴のメンバーが集まっていますね。
長谷川:その時に知り合ったのが二田さんっていう俳優さん。あと元々ドラマトゥルクで入ってくれる青木君っていうのは越後妻有で知り合っていて、高畑君とは元々CHARADEっていう劇場を一緒にやっていました。zzzpeakerはミュージシャンなんですけど、DVDで観た飴屋法水さんの作品「コルバトントリ、」に出ていて、なんだこいつ俳優じゃないけどすげえ変なやついる!って衝撃を受けTwitterでコンタクトをとって、僕がやっていた即興ライブに出てもらってからの付き合いですね。そういうメンバーが集まっています。

稽古風景

やっている人のコンディションは毎日変わる

内田:どのように作品を作っていますか?
長谷川:結構その時その時で違う作り方をしていますね。台本が最初からある時も稀にあるんですが、基本的には、”こういうシーンが欲しい”みたいなのが最初にあって、エチュードしたりフリートークしたりして、それを録音して、そのままセリフにしています。その人の口から出た言葉がそのままセリフになるので言いやすかったりするんですよね。そうやって作った作品もリメイクを重ねるので、今はもう秘伝のタレみたくなってきてます。
内田:いいですね。続ければ続けるほど深みが増すというか。
長谷川:その中で最近スタンダードになってきたのは、結構本当にフリーな部分があるっていうところですね。
内田:作品の中に?
長谷川:そうです。ここはもう本当に自由でいいよ、みたいな部分があります。もともと基本的に台本上の言い回しとかは変えていいよ、とか、その時の気分で言いたくなかったら言わなくていいよっていうことにしてあります。その場で起きたこと全部つっこんでいいよ、とか。やっている人のコンディションは毎日変わるので。演劇を観ている時に思うのは、すごくいい作品でも、やっぱ人間だからちょっと噛んだりするじゃないですか?噛んだ時にそのまま進んでるのが、すごく気持ち悪いと感じて。そういうことを無視しない環境を作りたいから、真面目なシーンでも、相手が噛んだり変だったら「え?なんて?」って聞いたりする。本番中でも、これお客さんに聞こえてないかもって時あるじゃないですか?そういう時も、自分が聞こえてないっていうていで、「ちょっともう一回言って」とか言っていいよってしています。
内田:嘘をつかない。
長谷川:はい。これはちょっと芸人の作り方かもしれないですね。でもzzzpeakerとかミュージシャンだけどやりやすそうなので、なんかこういう作り方があってる人が集まってきてくれているのかなと思います。ライブ感を重視していると言うか。
内田:確かにエンニュイの作品を観ていると、客席とコミュニケーションとってくれてるなっていう感じがしましたね。
長谷川:あれもお客さん側の状態によって、すごい変な空気になるときがあります。
内田:集まるお客さんによっても変わるんですね(笑)
長谷川:基本的にお客さんが多い方が、盛り上がりますね。レスポンスが少ないと演者側もパワーアップしていかないというか、ノって行かないんで。毎回変わるし、元々再現しようとして作ってはいなくて、ライブ感とその人の良さを消さないってことを大切にしています。出る人がやりづらそうだったら、台本も変えます。作品重視じゃないですね。作品に命捧げる、とかはないです。みんなが乗り気じゃなかったら、全然変えてっちゃう。このまま行ったら出来そうかなってシーンでも、もし直前でしっくり来てなさそうだったら、このシーンカットしましょうってすぐ言います。

一人の頭の中だけで作ったものだと、優秀なものが出来上がるだけで、心を打つものは出来上がらない感じがします。

稽古風景

内田:創作の中で困った時、どう突破口を開けていますか?
長谷川:これはもう芸人の癖だと思うんですけど、稽古場ではレスポンスをぽんぽこ返しますね。あんまり悩む時間はないかもしれないです。結構他の現場のこと聞くと、演出家の方が悩み込んじゃって 1 時間ぐらい待つ、とかいうこともあるっていうのを聞くんですけど、僕はめっちゃ早く答えますね。その代わり、その後キャンセルするのが早いです。 やっぱあれなしにしよう、みたいな。流れが止まらないようにして、”ここは絶対こうして”って言うようなことは言わずに、とりあえずやってもらって、やってもらっていると何かヒントが出てくるので。それを待ちます。一人で脚本を書いている時は悩みますけどね。その時もとりあえず進んで、待ちますね。考えてるときって、何をしててもどこかで考えてません?
内田:潜在意識で考えてますよね。
長谷川:勝手に見つかっていくので、とりあえず稽古は進めといて、待ちます。まあ、でも出演者の方は台本できてないとちょっと不安になったりしますけど、でも一緒にもう見つけていく、みたいな感覚ですね。
内田:いいですね。待つ。
長谷川:とりあえずなんかこんなシーンありかもっていうのをパってみんなでエチュードしたりゲームしたりしながら考えていきます。
内田:即興の中で発見していけるっていうのはいいですね。
長谷川:出演者を不安にさせないように、一晩考えてきたっていうフリだけしてます。実際は、全然考えてないです。
内田:(笑)。
長谷川:だいたい何も考えずに行きますし。何やろう今日? みたいな。こっちも即興で、ヒリヒリ感があった方がなんかこう回ってくる。
内田:頭で考えてきたものより、その場で生まれることの方が良いものだったりすることはありますよね。
長谷川:そう。超えていかないじゃないですか、結局。一人の頭の中だけで作ったものだと、優秀なものが出来上がるだけで、心を打つものは出来上がらない感じがします

面白くない人は一人もいないんです。


内田:「きく」の中で言うと試合のシーンがめっちゃ好きでした。「リバーストーキングだー!」みたいなやつ。
長谷川:あれも「きく」をリメイクしていく過程で、なんかここにシーン入れたいよね、みたいな雑談から始まって、エチュードして録音して作りました。実況のセリフも高畑くんが毎回変えてやってくれるから、すごい面白かったです。だからそこの部分全く台本に書いてなくて、岸田國士戯曲賞の選定委員会からメールが来た時に、台本に起こさなきゃ!ってなってめんどくさかったです。
内田:そうやって作れるメンバーが揃ってるのはすごく良いですね。
長谷川:箇条書きみたいな場所があって、ここはこうするってだけ書いてあったりします。人によると思うんですけど、漫才を作る時はノートには書かなくて、頭の中で覚えてるのでやるだけだったんで、書くっていうことをあまりしていなくて。やっぱりセリフが書いてあると文字で覚えてしまうからなんか気持ち悪い感じがして。思い出す時に文字が出てくるじゃないですか?あれがあんまりない方が面白いのかなって。そこを崩すために最近は、台本を渡したら、一度本読みをして、次に立って本読みしてもらい、その後はもう脚本を置いてやってもらっています。そうすると、自分で解釈して喋ることになるので、めちゃくちゃその人らしさが出てきて、セリフを超えるんですよ。今ワークショップでは毎回それをやっています。そうするとみんな役と自分の中間みたいな人格になって面白くて、面白くない人は一人もいないんです
内田:いいですねそれ!
長谷川:意外とやってる人いないんですよね。ワークショップに参加してくれる人はみんなすごく楽しんでくれて、技術じゃないんだって感じてくれているみたいなので、いい形なのかなと思っています。
内田:僕も稽古に取り入れたいです。
長谷川:最初はやっぱり難色を示されるんですけど、終わったらみんなすげー楽しかったって言ってくれます。無茶ぶりに聞こえますけど、意外とやってみたらできちゃうので。スポーツみたいな感じですね。だから本番中も監督やってる感じです。ここでこういうこと言えたらいいな、と思いながら観てて、おお、言った!ゴールきめた!みたいな。僕は照明もやってるんですけど、照明もその時その時でノリで変えちゃいます。お客さんが暗い雰囲気に持っていかれてたら、いつも暗くするシーンをちょっと明るくしたりとか。
内田:確かに。お客さんは毎回違うから雰囲気も変わりますもんね。
長谷川:そうなんです。あと単純にアドリブでやってるんで、きっかけをスタッフさんに伝えてそれで固定しなきゃいけないのが嫌だっていうのもあって。
内田:じゃあもう自分でやろうと。
長谷川:一番稽古を見てて理解してる人がやった方がいいかなって思ってます。舞台上にしても、パスワークが大事なんで、あんまり新しい客演の人は呼ばなくなってきていますね。温度感を説明するのが難しいので、今は、もう分かってくれてる人だけでやってますね。
内田:チーム感がありますね。

稽古風景

とにかくラベル付けされるっていうのが嫌で

内田:今回の作品「口」はどんな作品ですか?
長谷川:2017年に第二回公演で『「」(かぎかっこ)』っていう作品をやって。ノータイトル、空白って意味だったんです。お客さんに、観たまんまの感覚でタイトルをつけてもらうっていうことがやりたくて。なんでそれを作ったかというと、その頃はみんな、僕が芸人だから”面白い作品”だと思って観にくるんですよ。
内田:笑えるものだと期待されるんですね?
長谷川:はい。逆に演劇として観てもらえても、アドリブの部分とか、そういう今のエンニュイみたいな雰囲気が雑に作られてるって取られちゃって。芸人で、演劇を作ったことないからこうなってるんだ、みたいに言われたりして。とにかくラベル付けされるっていうのが嫌で、ラベル付けをしない、そのまま、を作品にしました。その時、母親が亡くなった後だったんですけど、母親が最期、言葉を喋れなくなっていったっていう経験も含めて、まず言葉って何なんだ?みたいなところから作りました。次に『「」』の対となる作品として、第三回公演で「きく」をやったんです。母親との間で体験したことをひとに喋ったときに、聞いてもらえない感覚を作品にしました。
で、コロナ禍になった時にリモートを生かして創作できないかな、と言うことで、「」をくっつけて□(しかく)ってタイトルにして作品を作りました。そこでいろいろあって、メンバーがバラバラになっちゃったので、名前を変えて僕のプロデュース企画としてやることにしました。リアルタイムの字幕って誤変換するじゃないですか。そのときに一つの言葉に違う意味が出てくる感覚が面白かったりして。そういうものを入れつつ、対面で稽古するのが難しい時期だったので、 全部を四角で囲んで、6 人の出演者が四角から出ずに、上から垂れ下がってる台本を見て即興でそれぞれ違う物語をやっていくみたいな作品を作りました。今回の作品は、それと第 2 回公演を混ぜて、今のこの時代に合わせたセリフを入れて作っています。AI 生成とかそういうのをいっぱい使ってやろうかなって思ってます。
内田:うわ!楽しみです。
長谷川:ライブ感や勢いを大切にしているのもあって、話していると若い世代の人の方が感覚があう気がしますね。同じ世代の人たちの作品は、すごくしっかり作っていて、でももっと上の世代のは結構崩そうとしていた感じがして。お笑いも一緒ですけど、時代は回るんだろうなと思いますね。今回、若手をフィーチャーした佐藤佐吉演劇祭に呼んでもらえて嬉しいです。演劇界の錦鯉さんみたいな感じになりたいですね。
内田:ありがとうございました!

稽古風景

お話を聞いていくにつれ、自分もそんな創作がしたい!と気持ちが高まっていくインタビューでした。
長谷川さんのnoteでは創作日誌も公開されています。エンニュイの「口」は3月5日(火)〜10日(日)、王子スタジオ1にて!ぜひエンニュイのライブ感あふれるパフォーマンスを体験してください!

公演詳細

エンニュイ
お笑いコンビ「クレオパトラ」長谷川優貴主宰のクリエイションをする為に集まれる組合/場所
メンバーの経歴は様々
2017 年3 月旗揚げ公演「ゼンイとギゼンの間で呼吸する世界」上演
2019年長谷川のソロプロジェクトになる
​2022年11月 新たなメンバーと共に再スタート
劇団の名付け親は又吉直樹氏(ピース)
曰く、「『アンニュイ』と『エンジョイ』を足した造語であり、
物憂げな状態も含めて楽しむようなニュアンス」
佐藤佐吉演劇祭2024参加作品
エンニュイperformance
『口』
〇会場:王子スタジオ1
〇脚本・演出:長谷川優貴
〇出演:市川フー、zzzpeaker、二田絢乃、高畑陸 / 浦田かもめ、中村理
〇詳細はこちら
https://x.com/yennuinfo?s=20 (X)
https://en-geki.com/sakichisai2024/ennyui.html (演劇祭特設サイト)

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