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忘れたくない、夜。



もう会えないと思っていた人と、会えた。

記憶って曖昧だから、
書き残しておかないと薄れていってしまうから、
文字にします。



0時過ぎ、連絡したら会えるってことだったので彼女の家の下まで車を走らせる。
贈り物を渡したついでにドライブに誘ったら、彼女はふたつ返事でオッケーしてくれて、助手席に乗った。

どこに行こうかって話しながら適当に走る。
午前1時の、明治通りと水戸街道。
彼女は「オーストラリア」と言う。

彼女は三月の末からワーホリでオーストラリアに行ってしまう。

「ああ、本当に車で行けるくらいの距離ならな」
と頭の中で考えるが、声には出さない。

何気なしに、高速に乗る。
首都高のいいところは、目的地がなくても、ぐるぐる走ってられるとこ。
よく使う6号線も助手席に彼女がいるだけで、いつもと全然違う景色だった。
見慣れた合流も、隅田川も、その先に見える街並みも
知ってるのに知らないみたいな、初めて みたいな不思議な感じ。

会話は他愛もなくて流してる音楽のこと、家族のこと、友達のこと、ワーホリのこと、人生設計などなど、
重い軽いもなくて、居心地が良い。

車の少ない首都高は無理せず走れる。
遅いも速いもない、2人の会話みたいなテンポで。



レインボーブリッジを渡る時、彼女はここどこ?と言って、自分はレインボーブリッジだと答える。
この時間にはライトアップもしていないことを初めて知った。
それだけ夜が深くなってることを実感して、
また不思議な気持ちになった。

ワクワクするような、悲しいような。

少しだけ心の隅に、終わり を感じていることに気づく。


寂しげなレインボーブリッジを渡って湾岸線に出た。
自分のBluetoothを切って、彼女に音楽を流してほしいと伝えると、迷いながら良い音楽を流してくれた。

洋楽って何言ってるかわからないけど、伝えたいことは伝わってくるなぁと、改めて思う。

彼女は洋楽でも英語を勉強しているらしい。

英語喋れたらKID FRESINOも歌えるじゃん!?って話もした。ぜひ帰ってきたら歌ってほしい笑



葛西から中央環状線へ。


荒川に沿って高所を走ると、風が強く音で会話が遮られる気がして道順を少し後悔した。会話も音楽もちゃんと聴こえていたけど、この居心地が壊れる気がして。


自分の家の最寄りインターを越えて、池袋線へ。

南池袋のパーキングエリアに停めて、彼女はミルクティー、自分はほうじ茶を買って、すぐにまた走り出した。


池袋ってよく来る?みたいな会話から池袋の悪口を2人で言った。池袋が好きな人、住んでる人、ごめんなさい。



箱崎ジャンクションを抜けて、再び6号線へ。今度は下り。


なんとなく、一周したから堤通インターチェンジで下りることに。
首都高以外の高速道路だと「行き」と「帰り道」があるけど、首都高にはそれがない。気がする。

自分たちが産まれ育った東京中に繋がるその道に終わりも始まりもない。首都高ってなんてドライブに適した道なんだろうと、心から思った。良かった。


やっぱり帰り道はどうしても悲しくなるから。


明治通りを走りながら彼女に、もう帰る?と聞くとどちらともない返事をした。もう少しだけ走ることにした。

明治通りから水戸街道に入って、そのまま昔よくみんなで行った大慶園へ走らせる。

大慶園は深夜遅くの割に若者が多く、賑わっていた。バスケのハーフコートは全部埋まっていて、ゲームセンターもダーツもビリヤードにも人がたくさんいた。

みんながみんな楽しそうで、よく来てた頃を思い出した。こんなに若かったのか、と少し老いを感じる。


キョロキョロしながら歩いてると小さな段差で躓いた。
彼女は少し笑う。


なんとなく一周してダーツをすることにした。2人でするのは初めてだ。
古びた機械で、彼女は相変わらず弱かったが、
それでも楽しかった。純粋に。


何歳になっても、会えばこんな感じでゆるく楽しめればなぁと、彼女が投げる姿を見て思う。


数ゲームやって、自然に帰ることになった。


帰り道も相変わらず、心地いい会話と音楽が流れた。

空はまだ明るくない。それでいいと思った。昔みたいに朝日が出てきて帰るのと、
暗いうちに帰るのとでは訳が違う。


その違いがわかるのは、自分だけで十分だ。


彼女の家の前について、
ありがとう、また明日なんて言って彼女は下りた。
自分も、ありがとうと言って、迷いもなく走り出す。

翌日の約束があるから、別れる時も寂しいと思わなかった。


翌日が本当に最後だとしても、今日が最後じゃないとわかっているから、これでいいのだ。


その帰り道は、正直ほとんど覚えていない。
何を聴いて、何を考えていたかも。
ただ真っ直ぐ帰ってすぐに、寝た。



翌日の飲み会の話は、今はしないでおく。
なぜだかしなくてもいいや、と思う。
記憶が曖昧で、時間と共に少しずつ忘れてしまっても。


ただ、

このドライブの夜は忘れたくない、

心から思う。


特段大きな出来事もない、この平坦で静かな夜を、

小波だけの静かな海を思わせるこの夜を、

光が後ろに流れて、また次の光を追い越すだけの夜を、



私は死ぬまで忘れたくない。


そして、心からありがとう。





拙い文章を最後まで読んでくださって、ありがとうございます。







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