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報復とは「しかえし」のこと

黒海とアゾフ海を結ぶケルチ海峡、そこにはロシアのタマン半島とクリミア共和国のクリミア半島との間にかかるクリミア大橋がある。2015年に建設工事が開始され、2018年に開通した。これが、先日爆破されたのは周知のとおりです。即座にロシアはウクライナに「報復」のミサイル攻撃を開始した。

今回の爆破とそれに対する「しかえし」の報道を見たとき、即座に浮かんだ言葉があります。それは「主権線」と「利益線」です。この言葉は、明治の元勲山形有朋が明治20年代に主張したもので、その「外交政略論」(1890年(明治23))でこう述べています。

「国家独立自衛の道二つあり。一に日く主権線を守禦し他人の侵害を容れず、二に日く利益線を防護す自己の形勝を失はず。何をか主権線と謂ふ、彊土是なり。何をか利益線と謂ふ、隣国接触の勢我が主権線の安危と緊しく相関係するの区域是なり。凡国として主権線を有たざるはなく、又均しく其利益線を有たざるはなし」

つまり、主権線とは国土(領土)のことであり、利益線とは、主権線の安全に密接な関係のある隣接地域のことです(加藤陽子『戦争の日本近現代史』)。これは日清戦争(1894-95)の前ですから、当時の主権線は対馬海峡と朝鮮半島の間にあり、利益線は朝鮮半島を指しています。

もどって、クリミア大橋。

ロシアからみた主権線はタマン半島です。ロシアによるクリミア併合は2014年ですから、対岸のクリミア半島は山県有朋のいう「主権線の安危と緊しく相関係する」利益線にあたります。その間にかかるクリミア大橋の爆破は、ロシアから見れば主権線への攻撃にあたります。

今回、ロシアが編入した東南部4州、ルハンスク、ドネツク、ザボリッジャ、ヘルソン、それにクリミアも加えた旧ウクライナ地域での戦争と、今回のウクライナ大橋とは、利益線・主権線の解釈からいけばロシアへの影響度がまったく違うものと考えます。

クリミア大橋の爆破はウクライナがおこなったものかどうかはわかりません。ですが、主権線というロシアの琴線にふれたこの事件は、これまでとは違った「しかえし」をひきおこすのではないかと危惧しています。