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三吉橋 三島由紀夫「橋づくし」の風景

東京中央区役所の屋上から撮ったという写真がM新聞に載っていた。三叉の橋「三吉橋」。街灯が道を照らし、橋の下を首都高速が交差している。

朝散歩ルートの事前知識に、三吉橋をとりあげた三島由紀夫「橋づくし」を図書館で借りた。赤い表紙の昭和33年再版本で、旧かなづかいだった。

『それは三叉の川筋に架せられた珍しい三叉の橋で、向う岸の角には中央区役所の陰気なビルがうづくまり、時計台の時計の文字板がしらじらと冴えて、とんちんかんな時刻をさし示してゐる。橋の欄干は低く、その三叉の中央の三角形を形づくる三つの角に、おのおの古雅な鈴蘭燈が立つてゐる。鈴蘭燈のひとつひとつが、四つの燈火を吊してゐるのに、その凡てが灯つてゐるわけではない。月に照らされて灯つてゐない灯の磨硝子の覆ひが、まつ白にみえる。そして灯のまはりには、あまたの羽蟲が音もなく群がつてゐる。』

「橋づくし」の舞台は夜半どき、M新聞の写真も夜。鈴蘭燈火の明るさとは比ぶべくもないだろうし、周りも明るすぎる。だが、首都高を走るクルマのライトを、露光を長くとって線にし、その流れを埋め立てられた築地川に見立てた。

「区役所の時計(動いている)」「橋の低い欄干」「四つの鈴蘭燈」はリニューアルされてはいるが、そのままだった。早朝なのでクルマもなく、三方の入口出口を行ったり来たり、しばらく眺めていた。

写真家は高速道路を川に見立てた。文豪は「橋」を236字で表現した。
勉強になった早朝散歩「三吉橋」でした。