![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/73825668/rectangle_large_type_2_c89084d2bfe6225b6e98c9d788806e0f.jpeg?width=1200)
遠い人になる前に
亡くなった母親は晩年、認知症になった。離れて住むわたしが時折田舎の家に帰っても、どこか他人行儀なのが少し気にはなっていた。「あんたは誰?」と言われて、はじめて重大さに気がついた。
心に棲む世界が現実とは別にあったようです。タイムマシーンのように何年も前に戻ったような感じ。徐々に昔へ、近いところがだんだん薄れていき、若かった刺激のあった時代に居心地よく棲んでいる。そんな会話になっていった。
「今日もお寺まで散歩に行ってきた」
「途中、Aさんところで長話しになって遅くなった」
つぎは
「でゼンマイを摘んできた」
「ミカンをたくさんもらったので重かった」
最後には
「今日は神戸に行ってきた。おばさんも元気だった」
「ところで、あんたはどなた?」
お寺の話のころから遠くに歩き始めていたのかもしれません。
遠い人になってからしか気づけなかった。難しい病気だとはわかっていても、少しでも早くきがついていればと。
家人にこの話をして、兆候を見逃さないようにとお願いしなければ。