見出し画像

『中卒歓迎』第2話



では、これより本プロジェクトの第一ステージを開始します。

ここから先の言動はみなさんの採否に関わりますので慎重に。
 この第一ステージの通過および失格は、すべて私の裁量と独断によって行われます。私はこの新規プロジェクトのディレクターとして、全権限を与えられています。





ピリッと張り詰めた会場。試験官に注目が集まる。


(あの人。まだ若そうだよな)


(見るからにエリートって感じ)




では、みなさん。全ての私物をバックの中にしまってください。



(なになに?)




早くしまってください。スマホもです。スマホの電源を切り、すべてバックの中にしまってください。その他、検索機能があるデバイスもすべて電源を切ってバックの中に。





(どうして?どうして?)




すべてバックの中に入れましたか?さて、この先は生き残りです。私に『失格』と宣言されたら即、カバンを持ってこの会場から退出してください。




(おいおい。急だな)



 (まじか?)



幸次郎がスマホを鞄に入れる




スマホもかよ・・・




「スマホもかよ??」何か問題でも?




・・あれ? 俺の声、聞かれてる??





ステージに立つ試験官があきれ顔




もちろん聞いてます




こんなに遠いのに?


マイクで話してますからね。
…ん?まさか君…






幸次郎の声が裏返る





え?!これ!マイク!?




入館証に付いたマイクで録音していますが…気づきませんでしたか?




幸次郎が慌てながら。





知るわけないじゃないですか!



知るわけがない…と


ええ!




みなさんの入館証。クリップの部分がマイクになっています。マイクを通して皆さんの会話、独り言はすべて記録されています。このプロジェクトの運営事務局も、常時モニターで監視しています。


幸次郎が入館証を触りながら




おいおい





なるほどね。





唯人。お前知ってたの?




唯人がマイクを手で抑えながら小声で。


募集要項に書いてあっただろ!すべて録音するって





え!




最前列の男が立ち上がる。




ちょっと質問よろしいですか?




お名前は? 





田中淳です




田中さん、質問どうぞ





失礼ですが・・・。こういうのコンプライアンス的にどうなのですか?


どう、とは?


プライバシーの侵害ではないですか?




プライバシーの侵害?



この会場内の音声と映像をすべて記録することが・・・ですか?




そうです。会場内の会話を承諾なく録音するなんて。もしかして、さっきの休憩時間もですか?



はい。休憩時間もこの会場内の会話はすべて録画、録音してますが





盗聴じゃないですか





盗聴?




張り詰めた空気が漂う




田中さん。ちなみに、このプロジェクトが極秘だということは?



それは知ってます。御社の採用ページに書いてありましたから。




では、弊社ホームページを見て、このプロジェクトが極秘だと言うことは知っていると





はい。知ってます





極秘のプロジェクトですから、外部に内容が流出しては困ることはわかりませんか?




だからと言って、無断で録画・録音していいわけじゃありませんよね!




なるほど…



試験官が、仁王立ちで会場をにらみながらワイヤレスマイクで事務局と話している。




今、事務局から連絡がきました。
本日の録画・録音について『聞いてない』、『盗聴だ』という声が複数上がっているようです。そこで、念のためにみなさんに確認です





本日、この会場内のすべての音声、映像は、録画、録音されます。このことを今まで知らなかった方はおられますか?もし、おられましたら挙手をお願いします。



多くの手が挙がる





愛理が後ろを振り向いて、人数を数えている。



33人か





違う愛理。41人





数えてたの?





特技だっていったじゃん





しっかし、41人もいるんだね





マイクのピーっという音。




同感です。「41人も」です





あ、そっか!リアルで聞こえてるんだ





今、41人の方が、本日の録画・録音について、知らなかったということがわかりました。



今、挙手された41人の方。ご起立願えますか?




ガラガラと椅子を引き、立ち上がる41名の男女。




では、今、ご起立いただいた方は全員失格となります。即、ご退出を。入館証を後ろの男性に渡して、お気をつけてお帰り下さい。


え!?なんで!!




おい!おかしいだろ?




理由を説明してください!





理由?私は先ほど、第1ステージは開始されたと申し上げました。そして、通過と失格は私の裁量と独断であると。





失格にする理由を聞いているんです!




それも私の裁量と独断です。



そんな!!




最初なので特別に失格の理由を説明しておきます。
ちなみに、失格となる理由がわかる方は、おられますか?




はい





理亜が手を挙げる。


(え!理亜!?大丈夫?)




ではどうぞ。そちらの後ろの女性。




募集要項に違反することが判明したからです。





具体的に




本日この会場内のすべてが録画・録音されることは、募集要項の事前承諾事項に書いてあります



それで?





「すべての項目に承諾された方に限り、応募を受け付けます」と




それで?





「後日、募集要項に反することが判明した場合は失格となります」




そうです。念のためですが、彼らが『募集要項に反した』と言い切る根拠は?




それは…




というのは、承諾したことを忘れていただけかもしれませんよね?あるいは、書類を出した後で承諾したのかも





あの、、さっき『録画していることを知らなかった人』に挙手させたのでは?




そうですが




すべての項目に『承諾した人』だけが応募できるんですよね?さっきまで録画されてることを知らなかったんだから、『承諾してなかった人』になりませんか?それに、忘れてただけならあんなにキレます?




(え!理亜?すご!理亜じゃないみたい)





真っ当なご指摘です。あなたは募集要項をよく読んでおられますね。お名前は?




無田(なしだ)理亜です。




41名の方。無田(なしだ)さんのご指摘に反論できるならどうぞ。まともな反論なら失格を撤回しても構いませんが…
どうですか?



(この流れじゃ出るわけねぇって…おっさんの圧パねぇよ)






唯人が、人差し指を口に当てて




シッ!




あ!そっか!聞かれて、、




そこのあなた!はいそう。あなた!






(ホラみろ!幸次郎…オワッたか)







自分ですか…





そうです。今、私をおっさんと呼んだあなた。立って。





はい・・



あなたは挙手はされていませんでしたが…


はい


あなたの発言には、看過できないものがあります



すみません・・・




謝る必要はありません。看過できないと言っているだけです。ルール上


ルール?





お名前は?




鷺宮幸次郎です



さぎみや? なるほど君が




アイパッドを確認する試験官。





鷺宮さん、さきほど、本日の録画ついて「知るわけないじゃないですか」と、発言されていませんでしたか?




・・・。




モニタリングルームから指摘が入ってます。本当に、全ての項目を承諾した上でこの会場に入られましたか?



あ。はい・・




愛理の怪訝な視線。



(うそつけ。あのばか)





あ、あの!入館証のクリップがマイクになっていることを知らなかっただけなんです。まさか、こんな小っちゃいものがマイクだなんて…。録画されること自体は知ってましたし、承諾してます!






本当ですか?





もちろんです!




ワイヤレスマイクでモニタリングルームと連絡を取っている試験官。
IPADを見ながら相談している様子



緊張して棒立ちの幸次郎



今、事務局があなたの録音を確認しています。



試験官がiPadを見ながら話している



鷺宮さん、事務局が確認してる間にひとつお伺いしますが、あなたは大卒ですね?




はい!T大法学部卒です!現役で合格してます!





(聞いてねえよ…)


(なんだよアイツ…学歴マウントかよ)



T大卒の高学歴だから、応募資格に該当しないはずはないと?



そんなことは思ってません!



募集要項なんか読まなくてもいいと?
T大卒なら書類は軽くパスですか?



いえ…



就職はあなたにとって重要ですか?



もちろんです!





重要な就職のための第一歩である募集要項を確認しない人は優秀といえますか?



言えないと思います



T大卒でも?



はい…



鷺宮さん、君は承諾していたんだね?



はい



(さぎみや?)


(もしかしてアイツ、鷺宮物産の…)



今回の録画録音は注記事項として末尾に記載していたものです。わずかしかない募集要項を確認しない人が商売で成功するはずはありません



はい…



これが41名を失格にした理由です。反論がないならご退出を




ぞろぞろと退出していく失格者たち





繰り返しますが、ここからは生き残りの戦いです。甘い考えは一切通用しません。




ワイヤレスマイクで事務局と話す試験官



わかりました。鷺宮さん、席についてください





は、はい!(やべえ…)






無田理亜さん。あなたも座って





はい





試験官が、アイパッドを見ながら





無田さん、あなたは・・・




はい?






あなたは・・・中卒ですか?





あ。はい…




私もです

(続く)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?