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水深800メートルのシューベルト|第4話

「おい! 何病気のフリなんかしてんだよ。立てよ、もやし野郎」
 悪魔の強がる怒声が頭の中で響いた。僕は、ここの空気を全て吸い尽くそうと、半ば自暴自棄に、体が自動で呼吸をするに任せた。足、唇、それに体中が痺れて、床についている尻の感覚もなかった。それに反して両腕の筋肉は異常に張り詰めていて、そこがピリピリと痛い。速いひと呼吸のわずかな時間の隙間から、激しく打ち鳴らす心音が自己主張している。お前はもう終わりだと。僕は、その声に逆らう勇気もなく、ぐったりと首が床に落ちるままにする。

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