燃える雨雲|ショートショート
「クーちゃん、急なお仕事でゴメンね」
僕は助手席で眠そうに浮いている雨雲に声をかけた。田舎の集落で断水したのだ。
「市役所の委託で参りました」
そう言いながら民家を一軒ずつ回り、水を供給するのが今日のタスクだ。
「給水車は夜に来ますから」
玄関先で婦人の差し出したバケツに雨を降らす。
次のお宅では、お婆さんが足を引きずっていたので、浴槽に案内してもらった。
最後のお屋敷では庭で待つ裸の男。
「遅えぞ。シャンプー中に断水しやがって」
と、泡だらけの髪を指した。
「これだから役人は……」
と、不満げな男。雨雲は彼の頭に一生懸命豪雨を浴びせる。
「もうおしまいか」
「一軒につき三分だけなんです」
「だったら来るな! 使えねえ雲なんか」
僕は、ドキッとした。クーちゃんが赤くなり、再び雨を降らし始めたのだ。
「おお、お湯かあ。え、熱い、あちちち、やめろ!」
全裸で逃げ惑う男を、雨雲は全力で追い回す。僕は好物の綿あめを手になだめようとした。
~~編集後記~~
爪毛さんのお題に答えさせていただきました。
アイデアは完全にいまえだななこさん――アイデアマシーンいまえださん――からパクらせて頂きました。いまえださんの下の作品がなければ、私一人の考えでは生まれませんでした。感謝と陳謝の両方を申し上げます。
雲のクーちゃんシリーズ行けるのでは? なんて二匹目のドジョウを狙っております。一匹目はこちら!
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