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助手席の雨雲|#ショートショートnote杯

「クーちゃん、今日の田舎のお仕事、頑張ろうね」
 僕は、何度も急ハンドルを切ってガタガタする悪路に車を走らせつつ、助手席の小さな灰色の雨雲に声をかけた。彼は、はずみで飛ばされないようリードで繋がれ、風船のように浮かんでいる。
「株式会社ウーバークラウドです」
 車を降りて農家の人に挨拶する。
「雲が来てくれた! 三日ほど頼むわ。今年は雨少なくてよ」
 僕は、クーちゃんを連れて干からびた畑に降りる。雨を降らすのが僕らの仕事だ。
 ところが、クーちゃんは、青い顔をしてぐずり、雨を降らそうとしない。
「気分悪いの? 困ったなあ」
 すると、空がみるみる暗くなり、ピカッゴロゴロ! 
 何度も雷が鳴り、大雨も降ってきた。僕等は慌てて畑を出て木の下に入る。クーちゃんの顔色がますます青くなった。僕は空を見上げた。
「お父さんでしたか、助かります。この子車に酔ったみたいで。叱らないで下さい」
 雷鳴は止み、篠突く雨だけが畑に降り注いでいた。


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