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全力で推したい鬼|#ショートショートnote杯

 お腹を水で膨らませた子供が、賽の河原で小石を積んでいる。
「何をしてる?」
 赤鬼のドスの利いた声。
「塔を作っているの。お父さんとお母さんの供養にするの」
 子供は背の高さ位になった小石の山に更に石を載せようとした。
 ガシャ!
 鬼の金棒が触れ、山は崩れた。
「何すんの。来年にはできたのに」
 鬼は笑う。子供は悲しげに、また石を拾う。

 何か月か経ち石が再び背の高さにまで積み上がった。鬼はまたやって来て、山を壊した。子供は怒って鬼を押すがびくともしない。その弱さに鬼は呆れた。
「お前なんで死んだ?」
「溺れたの」
「苦しかったか?」
 子供は無言で石を摘まむ。

 さらに数か月後、またも石が積み上がる。
「しつこいんだよ」
 鬼は山をただの砂利の塊に戻し、子を殴りつけた。
 それでも小石を掴んでいる手を見て、鬼は怒声を放った。
「帰れよ! 顔も見たくねえ!」

 病室で子供が目を開けると、医者は驚嘆の声をあげた。
「奇跡だ。昏睡から覚めるなんて」

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