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アークティック・モンキーズはなぜすごいのか!?シリーズ①<プロローグ:アークティック・モンキーズはどういうバンドなのか>

アークティック・モンキーズは2005年10月に1stシングルをリリースしてデビューしたバンドだ。このバンドを全く知らない人のために簡単な紹介から始めようと思う。

アークティック・モンキーズは10代でデビューしたイギリスはシェフィールド出身の4人組のバンド。ボーカル、ギター、ベース、ドラムというオーセンティックな編成のバンドである。ギター・サウンドに乗せてヒップホップの影響下のフロウを活かしたボーカルで唯一無二のバンドとして有名になった。トップ画像はデビュー当初のものだが、再度見てほしい。まだまだ幼さが残る面構えの4人組だ。彼らは後に大きな偉業を成し遂げていく。

まずはデビュー年である2005年、つまりは2000年中盤はどのような年であったのかを主観と客観を織り交ぜながら振り返っていこうと思う。

そもそも2000年代はレディオヘッドの『キッド・A』から幕を開けたというのは有名な話。バンドがエレクトロ・サウンドに関心を寄せ始め(ここ日本も例外ではない)、いわゆるギターを中心としたロックンロール・サウンドを鳴らすバンドの勢いはやや停滞気味であった。しかし2001年にアメリカよりザ・ストロークス『イズ・ディス・イット ?』がリリースされるやいなや、世界中からロックンロール・バンドが続々と現れることに。それほどまでにザ・ストロークスの出現は衝撃的だった。『キッド・A』と並べて聴くとわずか1年でこの変化はちょっとすごい。尚、『キッド・A』の余波はアメリカに広がっていき、後のシーンに繋がっていくのだが、それはまた別の話。

ハイカットのコンバースとスキニー・デニムで演奏する5人組は今見ても本当に美しい。確か一部海外メディアでは当時「君の家のエレクトロニカ機材は売り払ったかい」といったような文言を残している。ロックンロール・リヴァイヴァルの再来だった。そしてアークティック・モンキーズはその中の一角だったと言っても良いし、その範疇に収まるようなバンドではないとも言える。

そもそもアークティック・モンキーズの何がそんなに新しかったのか。まずひとつにデビューまでの過程がある。当時、ファンがネットにアップした彼らの音源がきっかけであったこと。もはや音楽の発信地としてインターネットが主流となった今、なにも驚きはないかもしれないが当時無名も無名、昨日まで街の小さなヴェニューで演奏していた「10代」のバンドがインターネットから世界を通じてレーベル<ドミノ>と契約に至ったことは当時大きなニュースだった。当時の謳い文句は「UKでオアシスに次ぐ最大のバンド」といったようなものだった気がする。次にアレックス・ターナーが書くリリックとそのフロウ。彼らはロックンロール・バンドからの影響はもちろんのこと、ヒップホップからの影響も色濃い。矢継ぎ早かつ自然と楽曲に乗っかるアレックス・ターナーのボーカリゼーションもまた、初期アークティック・モンキーズの特徴であり、当時は大きな衝撃だった。そして歌詞の内容もザ・ストリーツの影響も相俟ってとてもリリカルに青春群像劇を描き切っている。歌詞については別の機会で後述したい。


しかし上記のことを踏まえたとしてもやはり一番の肝はソング・ライティングとアレンジの妙にあると断言したい。ソリッドなリフと50~60年代のガールズ・グループの影響を受けたような甘いメロディは一気に多くの人々を魅了させた。そしてここで強く言いたいのは、アークティック・モンキーズがリフ主体のソング・ライティングで現れたことである。リフを中心に組み立てるソング・ライティングはリズムにフォーカスしたものとなり、メロディ特化のソング・ライティングとは一線を画している。それに最高のフロウとグッド・メロディが乗っかったものだからこそアークティック・モンキーズは特別たり得た。

ここで90年代ブリットポップ全盛のときのバンドたちを振り返ってみよう。彼らの特徴を言い表すならば「コード進行主体のグッド・メロディが書けること」だった。例えば、そのシーンの代表格であるオアシスやブラーは印象的なリフがあまり存在しない(勿論、名曲は多い)。


そしてブリットポップ終焉後もそれは後遺症のように残り、ザ・ストロークス以降のロック・バンドの中でリフ主体のソング・ライティングはザ・ホワイト・ストライプスやザ・ハイヴスなど一部で、ザ・リバティーンズでさえコード進行のソング・ライティングがメインだったように思う。


そんな中、稲妻のようにするどいリフで突如として現れたのがアークティック・モンキーズだ。勿論、「コード進行主体でグッド・メロディを書く」というソング・ライティングを否定するつもりは毛頭ない。その類の名曲は多くあるし、今後も引き継がれていくスタンダードなものだろう。しかし、ロックンロールのソング・ライティングとして「リフで曲を書く」という伝統があることも忘れてはいけない。ローリング・ストーンズやザ・キンクスを思い出して欲しい。ザ・ビートルズでさえそうだ(ドラマ『GET BACK』を観て欲しい、ジョン・レノンがしきりに「リフで曲を書くんだ」というシーンが収められている)。したがって2000年代リフ・ロックの決定打としてのアークティック・モンキーズ、という見方も出来るだろう。


またそんなアークティック・モンキーズのリフ主体の曲を強化させた優れたリズム隊がいることも忘れてはいけない。ドラマーのマット・ヘルダースは後にイギー・ポップの制作に参加させられるほどに出世し、1st発表後脱退してしまったがベースのアンディ・ニコルソンの隙間を縫うようなベース・ラインも鮮やかだった。

デビュー当初のインタビューで彼らはこんな発言を残している。「僕らは常に前に進もうとしてるし、常に違うことをやろうと思ってる」。そう、この発言通り彼らはデビュー作から現在に至るまで(今のところ6thアルバムまで)同じような作品を作っていない。そういう意味で彼らはデビュー時から何も変わっていないのだ。

以上が2000年代中盤とアークティック・モンキーズについてのまとめ。最後に彼らの初期のライブ音源を貼っておこう。リフを中心に組み立てられた曲に仕上がっていることが一目でわかる。演奏が始まる前に「Don't beleave a hype(ハイプは信じないで)」と言っており、自分たちのおける状況に対し自覚的だったことがわかる。次回は1stアルバムの重要曲について解説していこうと思う。今後はトップ画像をその時期のアークティック・モンキーズのスタイル画像にしていくので、見た目の変遷も楽しんでいただければ幸いだ。

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