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アークティック・モンキーズはなぜすごいのか!?シリーズ②:<土曜の夜から日曜の朝までを描いた傑作1stアルバム『ホワットエヴァー・ピープル・セイ・アイ・アム、ザッツ・ホワット・アイム・ノット』>

ここからは各論に入っていこうと思う。大まかな総論は最後にし、曲の魅力がどこにあるのか個別で解説していきたい。重要曲と思うものを主観で選別した。これがみなさんのアークティック・モンキーズに触れる最初の入り口となれば幸いだ。

1.The View From The Afternoon

完璧なオープニング。ヴァースが始まると冒頭の重い歪みは途端になくなり、軽やかなギター・リフに乗ってアレックス・ターナーが歌い出す。「期待はいつだって君をわくわくさせる/夕方のエンターテイメントに失望するのが現実さ/でも今夜は期待できそうだ」。これは土曜日の夜に向けての煌めきを歌にしたもので、多くの人が経験したような気持ちなのではないだろうか。結局のところ失敗に終わるかもしれないとしても、キラキラした気持ちを抑えられない。そんな気持ち。楽曲構成としてはやはりリフがキメになっており、2ヴァース目以降コーラスらしき箇所が出てくるが、印象に残るのはやはり下降していくリフと微かなブレイクだ。というのも、この曲でギターが重く歪むのは歌がないリフの部分のみとなっている。リフを印象付けるための仕掛けなのかもしれない。ラストには冒頭のリフが再登場。構成もバッチリだ。ちなみにMVに出てくるドラムを叩きまくる青年はメンバーではない。

2.I Bet You Look Good On The Dancefloor

アークティック・モンキーズを有名にした1曲。もはや説明不要の誰もが知っているであろう有名なリフ。アルバム全編に言えることだが、極力リヴァーブを抑えたソリッドなリフに皆が夢中になった。この曲はダンスフロアで魅力的な女の子に出会ったことを歌ったもの。「君はダンスフロアでイケてるように見える/1984年のエレクトロポップでロボットみたいにしてたね」というラインが最高だ。ここには歌詞本編とは別の示唆がある。それはジョージ・オーウェルの小説「1984」だ。ロボットみたいな管理社会への示唆としても機能している(最高の小説なのでぜひ一読することをお勧めする)。こうした1つのラインに複数の意味を込めてくるところも舌を巻くしかない。構成としてはヴァース・コーラス形式のシンプルなものだが、全編に渡って強力なリフとドラム、そして歌のコンビネーションの応酬を堪能できる。

3.Fake Tale Of San Francisco

ベースとユニゾンするギター単音リフとそれに絡まるボーカルが絶品。グルーヴも跳ねていてノリやすく、スネアの「スコーン!」とした音色がまた気持ちいい。歌詞の内容としてはつまんないバンドをこき下ろすようなものだが、それを物語調に歌うことで具体性がグッと増し、その場の雰囲気までつかみ取れるような素晴らしいものになっている。例えばこんなラインだ。「素人みたいにマイクがハウリングして/若い娘の着信音が鳴った/彼女は躊躇なく出口に向かって外に逃げ去った/彼女の雄叫びが聞こえる/『助かったわ。あのバンドは独りよがりで退屈で仕方なかったの』」。この部分の言葉運びが美しく、詰め込まれてはいるものの流暢で、リズムを壊すものにはなっていない点が見事だ。箇所でいうと1分9秒あたりから。これはアレックス・ターナーがライブ・ハウスで働いていた経験から来ているとか。後半に差し掛かると演奏は激しさを増していく。そして最後のラインがこれまた笑える。「あんたに必要なのはバンド・ワゴンじゃなくて/旅行パンフレットだよ」。

4.Dancing Shoes

この曲もギターとベースのユニゾンリフが基調となってできている。ドラムもタム回しでじらしつつ、コーラスでスネアを全面的に開放しセカンド・ヴァーズからはハイハットを刻みつつディスコ風な叩きをしている。この曲はちょっと歌詞の内容がどうとでも捉えられるので私感で記載することにする。おそらく、ガールフレンドが自分という存在がいるにもかかわらず他の誰かからの口説きを待っている歌。ラストは激しいドラムとギターの叩き打ちの中こんな風に歌われる。「おい、マジかよ、なんだよ/未来の花嫁を見つけたってのに/一体何を考えてるんだ/そんなバカな言葉を返すなんて/君はいつまでも待つばかり」。ここまで4曲弛緩することなくアルバムは続く。

5.Red Light Indicates Door Are Secured

この曲は基本移動が電車や自家用車の日本に暮らす10代にはちょっとリアルに感じづらいかもしれない。タクシー乗り場でのなんてことないいざこざについての曲だ。「6人はだめだって?/しかも飲食物の持ち込み禁止?/だめだって言うにしても/もっと優しく言えただろうに」とか「おい、なんでもう既にそんな値段になってるんだ/まだ少ししか走っていないだろ」とか。楽曲はちょっとザ・クラッシュの"ガンズ・オブ・ブリクストン"を彷彿とさせるような雰囲気がある。というのも、この曲に関してはギターというよりベース・リフを基軸に作られたように感じられるからだ。若干ブリティッシュ・レゲエ風なギターで、怪しい雰囲気も醸し出している。34秒で一度演奏が区切られるところもかっこいい。2分23秒という尺も魅力的だ。本作で最もミニマルな構成な楽曲と言えるだろうが、不思議と飽きない楽曲。というのも、短い分細かな仕掛けが満載な点が理由として挙げられるだろう。ギターがブーストするタイミングも良いし、ドラムの展開の作り方もナイスだ。


6.Mardy Bum

"マルディ・バム"とは彼らが住んでる地方言葉で、イギリスの人でもわからない人がほとんどらしい。彼ら曰く「すねた奴」って意味とのこと。そしてこの曲は本作のハイライトのひとつと言ってもいい。すねて口論になった女の子に「前は冗談を語ったりしてただろ」とかを語りかけている曲。「キッチンでハグしたの覚えてるよね」とか。前半のメロウなパートでは先述のように女の子をなだめることに注力する。クリーンで乾いた軽いギター運びが心地よく、左右に振り分けられたギター・ストロークがジャストではなく、若干ずれているところもグルーヴを生むことに一役買っている。1分13秒で2回叩かれるスネアの配置も的確だ。そして後半の1分50秒からの逆ギレパートが圧巻である。「あぁ、遅刻した俺が悪かったよ/でも電車を逃して/道路だって混んでたんだ/もう君の議論には付き合いたくないよ/君は『どうでもいいよ』っていうけど/でもどうでもよくないんだよ!』」。完璧な歌詞構成だと今でも思う。ギターはささくれ立ち、ドラムは激しく打ちつける激情の約20秒。それが終わると「きっとうまくいかなかったんだろうな」と感じさせるようなセンチメンタルなギター・ソロが待っている。だって最後の歌詞も「そんな顔やめてくれよ」だからね。全編グッド・メロディの名曲。この曲にはとことん救われた10代を過ごした。

7.When The Sun Goes Down

代表曲の1つ。甘いメロディから始まり、イントロからは予想がつかない怒涛のリフ構成のロックンロールに展開するこの曲は、アークティック・モンキーズの良いとこどりと言っていい。半ば強引に構成されたこの曲はもはや力技だろう。しかしそれが破綻しておらず、良い具合に曲のメロディとマッチし、演奏に落とし込まれている点が見事だ。冒頭のメロディ・センスこそ彼らの50〜60年代のガールズ・グループからの影響と言える。歌詞でザ・ポリスの"ロクサーヌ"の引用があるなど遊び心も忘れちゃいない。内容としては街で見かけた気になる女の子が娼婦みたいなことをしていて、それを買おうとしている親父がいるがどうにもできない心情を歌ったもの。"ロクサーヌ"を引用するのも納得の内容だ。中盤はずっと激しいリフで構成され、最後には最初のイントロに戻ってくる。こうした冒頭に戻ってくる手法もこの作品の特徴と言えるかもしれない。


8.A Certain Romance 

最大の衝撃は最後に待っていた。名曲とはこのこと。イントロのギター・リフと激しいコード打ち鳴らしの後にある、優しいギター・メロディはどこかザ・リバティーンズを彷彿とさせる。彼らはザ・ストロークス以降の同年代(2000年代)のバンドからもしっかり影響を受けていることが窺える。イントロ終わりから始まるレゲェ風に刻んだギターと隙間を縫うベースラインが美しい。2回目のコーラス以降は新しい展開がされており、ヴァースを1回通したら最後、1分40秒間歌無しの演奏で乗り切るのだが、この部分が素晴らしい。ギターはよりエモーショナルにかき鳴らされ、ドラムもどんどんパワフルに展開していく。その中で鳴らされる単音のギター・メロディがなお一層美しく、本作エンディングに相応しい名曲だ。ここからはちょっとインタビューからの情報を参照したい。この曲には頻繁に「その辺にロマンスは存在しない」と歌っており、「その辺」とは具体的には「心の狭い連中」のこととアレックス・ターナーは発言している。アレックス・ターナーは「僕は行かない(I won’t go)」と歌っているが、これは「その辺」に行く気はないということ。しかし歌詞の後半にはこんなラインが待っている。「でもあの中には俺の友達もいるんだ/事実さ、奴のことはずっと昔から知ってる/奴らは無茶をしちゃうかもしれないけど/俺にはそんな怒りはこみあげてこないんだ/だから俺には無理/一緒にはやれない/嫌なんだって...」。ここから何を汲み取るのかは読者に任せたい。しかし、決して「彼ら」を軽蔑したり皮肉ってる曲でないことは明らかだ。自分とは道を外れた者たちに捧ぐ曲なのではないかと、そう思う。まるでザ・クラッシュの"ステイ・フリー"のそれのように。



今回は主に歌詞について言及してみた。というのも、このアルバムは歌詞が非常に重要なものだからだ。構成としては冒頭曲から最終曲まで「土曜の夜から日曜の朝まで」の作品になっている。アルバムを振り返ってみて気づいたことは、意外にもアークティック・モンキーズはニルヴァーナ以降の強弱法を多用していること。しかしその手法も1stを最後に封印するところが素晴らしい。時代は変わる。メロウな雰囲気と過剰なまでにボルテージを上げた演奏の織りまぜ、そして基調となっているのはやはりギター・リフで、それに負けじとまくしたてるボーカルと歌詞が本作の魅力と言えるだろう。ハイライトはやはり"マルディ・バム"と"ア・サータン・ロマンス"。この2曲だけでもいいから聴いてほしい。「人が俺をなんと言おうと、それは俺じゃない」というアルバムタイトルも完璧だ。次回は2ndアルバム『フェイバリット・ワースト・ナイトメア』について解説していこうと思う。


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