3分間の思い出

「スカジ、誕生日おめでとう!」
 私の執務室にグラニの声が響く。
 名前を呼ばれた本人は特に気にすることなく、事務作業をしている。
「ちょっとー! 少しくらい反応してよ!」
「はぁ……聞こえてるわよ。グラニ」
「はい、これ」
 グラニは人懐っこい笑顔を向けながら、包装された箱状のものをスカジへと手渡した。
 これはチャンスである。斯く言う私もスカジのプレゼントを用意していたのだが、如何せん渡すタイミングが分からず、今まで過ごしてしまった。第一、いつも秘書業などせず私をぼーっと見つめてくるだけのスカジが、珍しく事務仕事をしているものだから尚更だ。
「なにかしら?」
「クッキーだよ! バグパイプやサイラッハと一緒に作ったんだ」
「そう、ありがとう」
「……」
「なに? まだ何かあるの?」
「いや、スカジってちゃんとお礼言えるんだなーって。成長したんだね!」
「失礼ね。私だってお礼くらい言うわよ」
「そうかなぁ。いつもなら『いらないお節介はやめて、迷惑よ』みたいなこと言うのに」
「あなた、私のことなんだと思ってるのよ」
 なんやかんやで会話が盛り上がっている。スカジを喋らせることにおいて、アビサルハンターを除いてグラニの右に出る者はいないだろう。
 しかしあまり会話に熱中されると、私がプレゼントを渡すタイミングがない。こうなれば、強引にでも話しかけるか。
「なあ、スカーー」
「あ、ドクター! アーミヤが呼んでたよ。管理室に来てって」
 二人に話しかけようとプレゼントに手をかけた瞬間ーーグラニに話しかけられた。なんというニアミス……思わず手に取ったプレゼントをポケットに突っ込んでしまった。
「あ、ああわかった。スカジも来るかい?」
「行くわ。今は私が秘書だもの」
 これは、中々プレゼントを渡せない予感がする。
 とまあ、実際私の予感は当たった。
 廊下に出てすぐ、マンティコアに呼び止められた。彼女から呼び止められるのは珍しいのだが、どうやら用があったのはスカジの方だった。
「あの……これ」
 スカジの誕生日を知ってか、プレゼントを用意してきたようだった。
「……」
「……」
 二人は見つめあい、会話はないのだが、なんだか仲の良さそうな雰囲気がある。いつの間に二人は仲良くなったのだろう?
 そういえば、宿舎が一緒になった時仲良くなったと、マンティコアが言っていたような……なにはともあれ、スカジに友人ができるのはいいことだ。
 暫く歩くとスペクターとグレイディーアに出会った。
「ドクター……会いたかったわよ」
 ズズイ、と私に擦り寄ってくるスペクター。グランファーロから帰ってきてからはかなり社交的になった。ダンスは踊るし、歌も歌う、他のオペレーターとも仲良く会話しているし、経過良好だ。
 しかし私に寄ってきたというのに、その目線は私ではなく、その後ろへ向いている。
「ちょっと、近いわよスペクター」
「ごめんなさいね。スカジ」
 スカジがスペクターを押し出し、私とスペクターの間に立つ。
「だって、ドクターと一緒にいるあなたって面白いんだもの。ちょーっとだけイタズラしたくなっちゃうわ」
「からかうためだけに来たなら、もうちょっと離れて頂戴」
「ふふふ、まあ、用があるのは本当よ。はい、これ」
 グレイディーアがスペクターになにか手渡し、スペクターはそれをスカジに差し出す。それも小さな箱だった。
「お誕生日おめでとう、スカジ」
「おめでとう、スカジ」
「……ありがとう、二人共」
「隊長と二人で決めたのよ。陸ではあまり上品な物がないから、選ぶのに苦労したのよ?」
「こら、スペクター。ドクターの前でそういう言い方はおやめなさい」
「ごめんなさい、ドクター。悪気は無いのよ。ふふふ……それはそうと。ドクターもスカジに何か渡すものがあるんじゃないの?」
 スペクターの言葉にハッとする。そういえば、私もスカジにプレゼントを渡すつもりでいたのだ。危ない危ない、危うく忘れるところだった。
 スカジが期待の眼差しで私を見てくる。安心してくれ、スカジ。その期待に十全に応えられるプレゼントを私は用意してきたのだ。
「はい、スカジ。誕生日おめでとう」
「……! ありがとう、ドクター。開けてもいい?」
「いいよ」
 スカジは丁寧丁寧に袋を破り、中のものを見て目を見開く。
「驚いただろう。それは私がマッターホルン、グムの監修のもと作り上げたインスタントラーメンだ」
「ドクター、流石にカップ麺はスカジに対してどうかと思うわ」
「そうかな? 流石に私のように口の中に麺を入れてお湯を注ぐ、なんてやり方はスカジ、いやレディには厳しいだろうから、ちゃんとそこに配慮しカップタイプにしたんだよ」
 グレイディーアとスペクターから冷ややかな目線を感じる。私はそんなにおかしいプレゼントを贈っただろうか?
「お湯を入れて三分だ。その三分の間、今日のことを思い出すといい。プレゼントは物自体も大切だが、やはり思い出が一番心に残るものだ。外勤中、食べるといいさ。体も温めてくれる」

「そうね。ふふ、ありがとう。ドクター。大切に食べるわ」



あとがき
スカジの誕生日記念に即興で作りました。
キャラクターの口調が結構粗雑かもしれませんがご容赦を

スカジ!!!



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