兄弟殺し

人物の配置が立体的。
街路の境界を越えると殺人者シュマールがナイフを抜いて待つ平面になる。
パラスが三階からおりてきて、光景の次元が一つ減る。
殺人者シュマールの待つ未来へむけて、
ヴェーゼの事務所の玄関の鈴が鳴って夫がもどってくる。
首の右を刺し、左を刺し、三度目は腹中深く刺す。
月明の夜である。
川鼠を刺すと今のヴェーゼと同じような音が出る。
金利生活者が三階の窓からおりてきたので、光景の次元が一つ減っている。
川鼠を刺し、左を刺す。
ヴェーゼ夫人が帰りの遅い夫を待っていたが、
五軒ほど先の斜めむかいでヴェーゼが街路の境界を越えたか越えないかというところ。
川鼠を刺し、左を刺し、三度目は腹中深く刺す。
月明の夜、首の右を刺す。
ヴェーゼと同じような音が出る。

殺人は以上のように行われたことが証明されている――カフカ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?