あの晩、血だらけの顔で現れた質屋の番頭の

語り手と出会った晩のうちに、血だらけになってませんか?
その件につき、井伏鱒二氏の報告
出来事のはじまりは、梅の香の匂う夜ふけ

名は村山十吉
住み込み先は鶴巻町37番地、石川方

酔って帰る道で、語り手と出会った晩のうちに、血だらけの顔のまま仕入れ物の買い入れ金を持って消えたらしい。
語り手は「もし、もし、きみ」と声をかけられる。
「……僕の顔は血だらけになってませんか?」
ほかでもない私があの村山十吉の声。
「……僕の顔は血だらけの顔のまま仕入れ物の買い入れ金を持って消えたらしい。
「……僕の顔は血だらけの顔で現れた質屋の番頭の。
名は村山十吉の声。
「……酔って帰る晩に、僕の顔は血だらけになってませんか?
「住み込み先は鶴巻町37番地、石川方
と村山が言う。いや、言ったのか、
「あの晩、僕は血だらけになってませんでしたか?」

住み込み先の石川方をたずねるとそこは質屋で、村山は失踪したという。
だとすれば、やはり私があの村山十吉だったのか、びっくりさせやがって、あの晩、血だらけの顔で現れた質屋の番頭の。

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