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#004 新型コロナウイルス感染症パンデミック社会における肺がん患者・家族といかに寄り添うか・・・EGFR遺伝子変異陽性進行肺腺がんの1例から


 新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、がん診療にも様々な課題をもたらしています。
 病気の治療をするためにやってきた医療機関で、新たな病気を持ち帰ってしまうかもしれないというジレンマ。
 病の床に臥す家族を励ますために、一刻も早く帰郷したいのに、そのことによって郷里に新型コロナウイルスを持ち込んでしまうかもしれないと悩む家族。
 本当は家族に寄り添ってほしいのに、入院中の患者さんを院内感染から守るために面会制限を行わざるを得ない病院側の苦悩。
 結果として、孤独に闘い続けるしかないがん患者さん本人。
 新型コロナウイルス感染のために亡くなった著名人が、死してなお家族との面会を阻まれる現実を目にして、誰もが愕然としました。
 これは決して、画面の向こう側だけで起こっていることではありません。
 私の職場でも、新型コロナウイルス感染患者を受け入れている病院の外来を受診したのちに肺炎を発症し、新型コロナウイルス感染「疑い」としてPCR検査結果が判明するまで個室隔離をされ、その間に息を引き取ってしまった入院患者さんがいらっしゃいました。
 「疑い」であっても、PCRの結果が「陰性」と判明しない限りは「陽性」と同じ扱いで、厳重に隔離されます。
 結局、この患者さんは、家族の誰にも見守られず、N95マスク、ゴーグル、個人防護衣に包まれた異様ないでたちの我々医療従事者に囲まれ、隔離室の中でひとり天国に旅立ちました。

 今回取り上げる患者さんは、新型コロナウイルス感染症の国内第1波から第2波の期間中に関わった方です。
 当初の関わりはセカンドオピニオン・個別相談でしたが、結局私自身が診療実務をお引き受けすることになり、治療はもちろんのことご家族との距離の保ち方、新型コロナウイルス感染に関わる安全管理と家族面会をいかに両立するかということに心を砕きました。 
 患者さんは既に亡くなってしまいましたが、ご家族のご厚意でかなり詳しい診療経緯までこの場でお示しできることになりました。
 PS不良、自力内服不能の患者さんにEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用することの是非など、新型コロナウイルス対策以外の点でも物議をかもす診療内容ですが、とりわけ今回の記事においては、新型コロナウイルス感染症パンデミック社会におけるケアの在り方について、これを読まれる方の気付きの一助になればと願います。


ID:20-016

① 年齢:80代 
② 性別:女性
③ 職業:無職
④ 喫煙:なし
⑤ 合併症:なし
⑥ 出身地域:非公開
⑦ 居住地域:非公開
⑧ 症状:意識障害、嘔吐
⑨ PS:4
⑩ 病理:腺がん
⑪ 他臓器転移:肺内多発、胸膜播種、悪性胸水、脳転移、髄膜癌腫症
⑫ 診断時病期:cT1cN0M1c、IVB期
⑬ 胸水:あり
⑭ 遺伝子変異:EGFRエクソン21 L858R点突然変異陽性
⑮ PD-L1:不明
⑯ 経過:公開
⑰ 質問:公開
⑱ 管理人の回答:公開

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