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おいしくいただきました。

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日々の食べた、飲んだ、話した記録を フィクションとエッセイを織り交ぜながら 書いていきたいと思います。
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#フード

3. 怒れる女。

彼女は怒っていた。 乾杯をして互いの労をねぎらって、 さて何かすぐに出そうなものでも頼むかあというタイミングから、 すでに絶好調に怒っていた。 聞いてほしい話がある時、 彼女は良い話でも悪い話でも「ちょっと聞いてもらってもいいですか?」と話し出しが敬語になる。 良い話のときは口もとを緩ませながら(とても可愛い)、 悪い話のときは頬をぷくぷくさせながら(これまた可愛い)、敬語になる。 この日は言わずもがな後者だった。 これは長くなるぞと思い、 とりあえず沢庵納豆とブツマ

2. 好きの呪いを甘く解く。

学生の頃に好きだった男の結婚式。 呼ばれた女は過去に彼が好きだった女とわたしだけだった。 彼にとって、わたしは一体なんだったんだろう。 たらふくご馳走を食べて、 おなかはもうはちきれる寸前だったけど、 わたしはわたしを甘やかしたくて寄り道をする。 意味もなく高円寺で途中下車をして、 見たこともない、ぶあついマカロン。 トゥンカロンと言うらしい。 体には悪そうだけど、 今のわたしにはこれが絶対必要な気がした。 引き出物の紙袋の中に投げ込んだ席札がふと目に留まる。 「これ

1. たとえ美味しくなくても。

「おすすめのお店は?」 と聞かれると、困る。 つい、ひとからおすすめされて行ったお店を紹介してしまったりする。 わたしはそこまでグルメではないし、 料理だって出来る方ではないので、 隠し味だとか細かいことになれば、もうさっぱり分からない。 ただただ、楽しく食べることが好き。 だから楽しいと、美味しさに補正がかかってしまう。 何なら美味しくなくても、楽しかったら許せてしまう。 「まずっ!」と笑い合えることが嬉しい。 幸い、「まずっ!」の経験は殆どなく、 「おいしいねぇ、た