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読書感想文を読むお仕事

私は高校で国語の教員をしている。 夏休みのこの時期、読書感想文を読み、応募する作品を選ぶという業務がある。 年に一度しかないこの業務は、なかなかに骨が折れるけれども、私はとても好きだったりする。 どこが好きかというと、いろいろある。 まず1番好きなのは、生徒一人ひとりの人柄に触れられるところだ。 怒涛の一学期を終えて、「やっと少し生徒の個性が掴めてきたかな?2学期はどうなるだろうか」なんて思っている夏休み後半。出校日には久々に生徒の顔を見ることができ、読書感想文が手元にやって

    • 祖父とアイス

      私にとって祖父は、母方の祖父一人だ。 その祖父のことが、私は大好きだった。 幼いころからシャイで口下手で、成人男性と話すのが苦手だった私は、いわゆるおじいちゃんっ子のような可愛い愛情表現はできなかったが、それでも祖父のことは大好きだった。 ほかのいとこたちのように、可愛く甘えられる孫ではなかったのに、祖父は私のこともみんなと同じように可愛がってくれた。 さて、そんな祖父だが、とにかく、子供にアイスを食べさせたがるひとだった。 お盆にみんなで出かけると、必ずサービスエリアで「

      • パスケースと財布

        好きな芸人さんのエッセイに、「金銭的な豊かさと幸福度は比例しない。」ということが書いてあって刺さった。確かにお金を得ることで手に入る幸福も多いが、自分はお金を手にしても根本的な幸福度は変わらなかったし、相方は売れていなくても、お金がないときも、幸せだと言っていた。というようなことが述べられていた。 今の私にとって共感できる内容であったし、私より15年以上長く生きている人がそう思うのだから、この先も私はそう思って生きていくのだろうなぁと思っている。 これと似たような話で、最近

        • 母の煮物

          この一年の間に、母の煮物が食べられない期間があった。 なぜかというと、祖母の営む小料理屋を母が手伝いに行くようになったからだ。 店の余りものをもらってくるようになり、母は煮物を作らなくなった。 もちろん何十年とお店で出してきた祖母の煮物は美味しい。けれど、それは出汁と醤油の強いお店の味で、お酒に合うようにできたお店の味で、白米に合う家庭の食卓の味ではなかった。 3ヶ月、4ヶ月と母の煮物が食べられない日々が続き、私は子供のように母に頼んでしまった。「お母さんの作った煮物が食べ

        読書感想文を読むお仕事

          ロータスビスコフ

          喫茶店などでコーヒーのお供として出される、赤い帯にLotus Biscoffと書かれたビスケット。 焦茶色のその素朴なビスケットは、ザクザクした食感で、香ばしいカラメルの味がして、ほんのりシナモンが香る。 小学生ぐらいの頃から、おばあちゃんとの外食後にいつも寄る、ちょっとだけ高級な喫茶店で出されるそのビスケットが好きだった。 その喫茶店では、そいつをまとめ買いすることもできたが、それをするのはなんだか少し違った。お店で出されて、たまに出会えるから良いのだ。 28歳になった現在

          ロータスビスコフ

          星空とチョコレート

          バレンタインの1週間前に恋人にフラれたことがある。 その年のバレンタインは、ちょうど土日と重なっていて、そこでその人と遠出をするはずだった。直前の祝日でチョコレート菓子を作るために、レシピも調べて保存していた。材料だけはまだ買っていなかったのがせめてもの救いであった。 フラれた日の夜、信頼している友人のグループに、すぐメッセージで報告した。だって、1人で抱えるには苦しすぎたから。全員すぐに連絡をくれて、それぞれが美味しいご飯に誘ってくれた。私を励ます言葉は「美味しいもの食べに

          星空とチョコレート

          お昼休みにこんぺいとうをたべた

          月曜日の勤務はいつも気だるいが、その日は特に不調だった。なんとか業務をこなしていても、頭がぼんやりするし、集中力も上がらないせいで、周りの人にはバレない程度のミスを頻発していた。 今日は大事な仕事はやれないなぁ〜、なんとかやり過ごしつつ作業的な仕事をこなそうかしら。ああ…いろいろが遅れていく……。そんなことを思いながら午前中を過ごした。 無為な時間を過ごしていてもおなかはすくし、お昼休みはやってくる。 食後に必ず甘いものを口に入れたくなる体質の私。その日もお弁当を食べ終わる

          お昼休みにこんぺいとうをたべた

          初めて鍋を美味しいと思った日。

          好き嫌いなくなんでも美味しく食べられる、はずなのに、幼い頃から鍋がずっと苦手だった。 夕飯が鍋の日は全然箸が進まなかった。 うちの鍋はシンプルで豪勢だ。 昆布だしに、白菜、にんじん、大根といった定番野菜、鶏肉を入れて煮たったらひとまず完成だ。この鍋で豚肉のスライスをしゃぶしゃぶしながら食べ進める、中盤では牡蠣や鱈といった季節の海鮮も入れる。シンプルな昆布だしが、どんどん贅沢で美味しい出汁に仕上がっていく。そんな鍋をポン酢で食べる。 こうして書いているととても美味しそうな料理だ

          初めて鍋を美味しいと思った日。

          はじめに。

          将来、自分で書いて作ってみたいエッセイ集の構想があって。 練習がてら自分の食にまつわるエピソードをエッセイにして投稿してみることにしました。

          はじめに。