大石始

文筆家。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。主な著書・編著書に『盆踊りの戦…

大石始

文筆家。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。主な著書・編著書に『盆踊りの戦後史』『奥東京人に会いに行く』『ニッポンのマツリズム』『ニッポン大音頭時代』『大韓ロック探訪記』など。最新刊は2022年11月の『南洋のソングライン 幻の屋久島古謡を追って』(キルティブックス)

マガジン

  • みちばた郷土菓子

    • 15本

    緊急事態宣言下の東京で、僕らは各地の郷土菓子のおとりよせを始めた。 ただし、郷土菓子といっても高級な銘菓ではなく、各地域の暮らしのなかで親しまれてきたローカル色の強いもの。音楽でいえば有名な民謡歌手が歌った迫力満点のものではなく、道端のおばあちゃんがふと口ずさんだ鼻歌のようなもの。なんの制限もなく各地を旅しているときだって、道の駅でついつい手が伸びてしまうのは、東京では見かけることもない手作り菓子ばかりだった。 いつまで続くか分からないけれど、それぞれの郷土菓子が作られた土地について思いを馳せつつ、おとりよせ日記を気ままにアップしていこうと思っている。ひとつひとつの菓子をラップで包んでくれた方々に、いつの日かお会いできることを願いつつ。写真/大石慶子

記事一覧

地域の物語と記憶をつなぐもの——地域映画『まつもと日和』を観て

さきほど長野県松本市を舞台とするドキュメンタリー映画『まつもと日和』(三好大輔監督作品)を観てきた。新宿ケイズシネマで行われている東京ドキュメンタリー映画祭の一…

大石始
4か月前
17

僕がやってるのは「シマ唄」ではなく、「シマの唄」なんですよ――奄美大島の「根っこ」を歌う森拓斗

2023年11月、僕は奄美大島にいた。38年前にこの世を去った里国隆という放浪芸人に関する取材をするためで、約1週間、国隆をよく知る親族や関係者に話を聞くべく島の北部と…

大石始
4か月前
58

戊辰戦争から生還した兵士たちが伝えた「白河踊り」(山口県萩市など)

文・大石始 証言:中原正男(『⽩河踊り 奥州⽩河からふるさとへ伝えた盆踊り』 著者)  あるとき『白河踊り 奥州白河からふるさとへ伝えた盆踊り』(書肆侃侃房)という…

大石始
1年前
10

宇部の気概と結びついた歌――「南蛮音頭」(山口県宇部市)

文・大石始 証言・資料提供:中本義明(宇部南蛮音頭保存会)  宇部の町に降り立つと、大きな煙突からもくもくと蒸気が立ち上る風景が目に入った。明治30年(1897年)に…

大石始
1年前
8

明がらす(岩手県遠野市)

原材料:米粉、砂糖、でん粉、水飴、小麦粉、くるみ、ごま、大豆(きな粉)、大豆油 製造・販売:まつだ松林堂 販売:まつだ松林堂 https://www.akegarasu.com/ 2022年11…

大石始
1年前
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秋田の過疎地に鳴り響く、祈りにも似たルーツ・ロック・レゲエ――英心&The Meditationalies

秋田に英心 & The Meditationaliesというバンドがいる。音楽的にはレゲエを軸にしているものの、あちこちに仏教的要素は入っていたりと、かなりの個性派であることは間違い…

大石始
1年前
19

『南洋のソングライン 幻の屋久島古謡を追って』を書き終えて――もうひとつの「あとがき」

 自分のことを語るのはあまり好きではない。インタヴュアーとして多くの人々と向き合ってきたためか、どうも聞き手としてのスタンスが身について離れないところがあるのだ…

大石始
1年前
20

Tribute to RAS DASHER――齋藤徹史(REGGAELATION INDEPENDANCE)、1TA(Bim One Production)インタヴュー

2021年4月、90年代以降の日本のレゲエ・シーンにおいて強烈な存在感を発揮してきたひとりのシンガーがこの世を去った。彼の名はRAS DASHER。90年代前半にはMIGHTY MASSAを…

大石始
1年前
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地元と病室で育まれた日常のサウンドトラック——MaLの初ソロアルバム『Primal Dub』

インタヴュー・文/大石始  高田馬場の九州料理店「九州珠 (KUSUDAMA)」でMaLさんに会うことになった。MaLさんの出身地は東京の練馬区だが、この町に20年以上住んでい…

大石始
1年前
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ローカルとローカルを繋ぐスカのリズム――TOP DOCA(こだまレコード)インタヴュー

インタヴュー・文/大石始 写真/大石慶子 静岡から一枚のレコードが届けられた。封を開けると、インクのほのかな匂いが鼻をついた。シルクスクリーンで印刷されたジャケ…

大石始
3年前
11

まめぼっくり(鹿児島県奄美市)

原材料:ピーナッツ、黒糖 製造:西郷松本舗 販売:オーガニック&ナチュラル寿草 https://item.rakuten.co.jp/juso/sgm_001a/ 奄美大島を訪れると、僕らはまず「まめぼっ…

大石始
3年前
12

かんころ餅(長崎県五島列島)

原材料:干し芋、もち米、砂糖 製造者:川上文旦堂 販売:日本橋 長崎館 https://www.nagasakikan.jp/index.html サツマイモは米作には不向きな土地でも栽培できることか…

大石始
3年前
17

ほし餅(秋田県横手市)

原材料:もち米(秋田県産100%)、着色料(ラック、クチナシ) 製造者:佐忠商店 販売:秋田県物産振興会 楽天市場店 https://www.rakuten.co.jp/akitatokusan/ 餅は最…

大石始
3年前
12

笹巻き(山形県米沢市)

原材料:餅米(国産)、砂糖、きなこ(大豆)、食塩 製造:蔓寿屋 販売:道の駅米沢オンラインショップ https://shop.michinoeki-yonezawa.jp/ ツルで頑丈に縛られた笹の…

大石始
3年前
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「亥の子」(徳島県三好市井川町)

原材料:小麦粉(国産)、黒砂糖、水飴/膨張剤、赤色102号、青色1号、黄色4号 製造:島尾菓子店 販売:三好やまびこふるさと会 https://www.miyoshi-yamabiko.jp 製造…

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4年前
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「とじこまめ」(熊本県菊池市)

原材料:小麦粉(熊本県産)、大豆、きび糖、米粉、しょうが粉末 製造:渡辺商店 販売:自然派きくち村ネットショップ http://www.kikuchimura.jp/ ネットショップでは「…

大石始
4年前
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地域の物語と記憶をつなぐもの——地域映画『まつもと日和』を観て

地域の物語と記憶をつなぐもの——地域映画『まつもと日和』を観て

さきほど長野県松本市を舞台とするドキュメンタリー映画『まつもと日和』(三好大輔監督作品)を観てきた。新宿ケイズシネマで行われている東京ドキュメンタリー映画祭の一環として上映されたもので、最初に書いてしまうと、これが実に素晴らしい作品であった。

現代において地域の記憶や記録とどのように向き合うことができるのか。本作が投げかけるそうした問いかけは、ここ数年、僕にとっても重要なテーマであり続けている。

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僕がやってるのは「シマ唄」ではなく、「シマの唄」なんですよ――奄美大島の「根っこ」を歌う森拓斗

僕がやってるのは「シマ唄」ではなく、「シマの唄」なんですよ――奄美大島の「根っこ」を歌う森拓斗

2023年11月、僕は奄美大島にいた。38年前にこの世を去った里国隆という放浪芸人に関する取材をするためで、約1週間、国隆をよく知る親族や関係者に話を聞くべく島の北部と中部を慌ただしく行き来した。死から時間が経過しているため、証言者を探し出すのはなかなか苦労したものの、それでも島に行くまではまったく知らなかった証言を得ることもできた(取材の成果は現在制作を進めている国隆の評伝としてまとめる予定だ)

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戊辰戦争から生還した兵士たちが伝えた「白河踊り」(山口県萩市など)

戊辰戦争から生還した兵士たちが伝えた「白河踊り」(山口県萩市など)

文・大石始
証言:中原正男(『⽩河踊り 奥州⽩河からふるさとへ伝えた盆踊り』 著者)

 あるとき『白河踊り 奥州白河からふるさとへ伝えた盆踊り』(書肆侃侃房)という一冊の本を手に入れた。その本では山口県各地で白河踊りという盆踊りが行われていること、しかもヤットセ踊りやヤンセ踊りなど類似するものも含めれば、かなりの数の白河踊り系統の盆踊りが踊られていることが詳細に記されていた。
 では、「白河」と

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宇部の気概と結びついた歌――「南蛮音頭」(山口県宇部市)

宇部の気概と結びついた歌――「南蛮音頭」(山口県宇部市)

文・大石始
証言・資料提供:中本義明(宇部南蛮音頭保存会)

 宇部の町に降り立つと、大きな煙突からもくもくと蒸気が立ち上る風景が目に入った。明治30年(1897年)に創設された沖ノ山炭鉱を原点とする総合化学メーカー、宇部興産の発電設備の煙突だ。宇部は同社の企業城下町として発展してきた背景があり、そびえ立つ煙突はそのことを誇示しているようにも見えた。
 その町の日常風景において何が中心に存在してい

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明がらす(岩手県遠野市)

明がらす(岩手県遠野市)

原材料:米粉、砂糖、でん粉、水飴、小麦粉、くるみ、ごま、大豆(きな粉)、大豆油
製造・販売:まつだ松林堂
販売:まつだ松林堂
https://www.akegarasu.com/

2022年11月、岩手県遠野市を訪れた。岩手の地に足を踏み入れるのは10年近く前に盛岡を訪れて以来。東北の寒さに怯えるあまり、かなりの冬支度をしてきたものの、11月の遠野はそれほど寒くはなかった。東京から持ってきた分厚

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秋田の過疎地に鳴り響く、祈りにも似たルーツ・ロック・レゲエ――英心&The Meditationalies

秋田の過疎地に鳴り響く、祈りにも似たルーツ・ロック・レゲエ――英心&The Meditationalies

秋田に英心 & The Meditationaliesというバンドがいる。音楽的にはレゲエを軸にしているものの、あちこちに仏教的要素は入っていたりと、かなりの個性派であることは間違いない。

僕は数年前までミュージックマガジンの年間ベスト・レゲエ部門を鈴木孝弥さんと担当していたが、英心 & The Meditationaliesのファーストアルバム『からっぽ』を2015年度(日本)の1位に選出した

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『南洋のソングライン 幻の屋久島古謡を追って』を書き終えて――もうひとつの「あとがき」

『南洋のソングライン 幻の屋久島古謡を追って』を書き終えて――もうひとつの「あとがき」

 自分のことを語るのはあまり好きではない。インタヴュアーとして多くの人々と向き合ってきたためか、どうも聞き手としてのスタンスが身について離れないところがあるのだ。友人たちと酒を呑んでいてもいつのまにか聞き手に回ってしまうし、いい年をして「僕の話なんか誰も聞きたくないんじゃないか」という中二病めいた思いが拭えないこともまた、自分語りが苦手な要因ともなっている。
 2022年11月に刊行された著作『南

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Tribute to RAS DASHER――齋藤徹史(REGGAELATION INDEPENDANCE)、1TA(Bim One Production)インタヴュー

Tribute to RAS DASHER――齋藤徹史(REGGAELATION INDEPENDANCE)、1TA(Bim One Production)インタヴュー

2021年4月、90年代以降の日本のレゲエ・シーンにおいて強烈な存在感を発揮してきたひとりのシンガーがこの世を去った。彼の名はRAS DASHER。90年代前半にはMIGHTY MASSAを中心に結成されたルーツレゲエ・バンド、INTERCEPTORに森俊也、LIKKLE MAI、井上青、秋本武士など後にシーンの核を担うことになる面々と共に参加。90年代半ば、MIGHTY MASSAが始動させたニ

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地元と病室で育まれた日常のサウンドトラック——MaLの初ソロアルバム『Primal Dub』

地元と病室で育まれた日常のサウンドトラック——MaLの初ソロアルバム『Primal Dub』

インタヴュー・文/大石始

 高田馬場の九州料理店「九州珠 (KUSUDAMA)」でMaLさんに会うことになった。MaLさんの出身地は東京の練馬区だが、この町に20年以上住んでいることもあって、今のMaLさんにとってはこの町が地元なのだという。
 店にやってきたMaLさんは杖をついていた。2021年6月、彼は全治9か月の大怪我をし、2か月半もの入院を余儀なくされる。昨年末にリリースされた『Prim

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ローカルとローカルを繋ぐスカのリズム――TOP DOCA(こだまレコード)インタヴュー

ローカルとローカルを繋ぐスカのリズム――TOP DOCA(こだまレコード)インタヴュー

インタヴュー・文/大石始
写真/大石慶子

静岡から一枚のレコードが届けられた。封を開けると、インクのほのかな匂いが鼻をついた。シルクスクリーンで印刷されたジャケットは、たった今印刷所から上がってきたばかりという艶やかな光沢を放っている。レコードに針を落とすと、温かなスカのリズムが鳴り始めた。

こだまレコードの『こだまレコード1』。このLPは2015年から2019年にかけて同レーベルからリリース

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まめぼっくり(鹿児島県奄美市)

まめぼっくり(鹿児島県奄美市)

原材料:ピーナッツ、黒糖
製造:西郷松本舗
販売:オーガニック&ナチュラル寿草
https://item.rakuten.co.jp/juso/sgm_001a/

奄美大島を訪れると、僕らはまず「まめぼっくり」を買う。ひとつのパッケージに入っている量はわずかだが、一度食べ始めると二袋、三袋とリピートしてしまい、気がつくとレンタカーのダッシュボードには空き袋がいくつも転がることになる。

まめぼっ

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かんころ餅(長崎県五島列島)

かんころ餅(長崎県五島列島)

原材料:干し芋、もち米、砂糖
製造者:川上文旦堂
販売:日本橋 長崎館
https://www.nagasakikan.jp/index.html

サツマイモは米作には不向きな土地でも栽培できることから、かつては多くの人たちを飢餓から救った。とりわけ耕作地が限られている島嶼部では威力を発揮。たとえば、平地の少ない屋久島では古くからサツマイモ(屋久島ではカライモと呼ぶ)の栽培が盛んで、朝昼晩三食が

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ほし餅(秋田県横手市)

ほし餅(秋田県横手市)

原材料:もち米(秋田県産100%)、着色料(ラック、クチナシ)
製造者:佐忠商店
販売:秋田県物産振興会 楽天市場店
https://www.rakuten.co.jp/akitatokusan/

餅は最強のエナジーフードだ。古来から米粒には稲の霊力(稲魂)が宿ると信じられ、それゆえに米粒を凝縮した餅や酒は特別な存在とされてきた。民俗学者の神崎宣武が「『まつり』の食文化」(角川選書)のなかで

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笹巻き(山形県米沢市)

笹巻き(山形県米沢市)

原材料:餅米(国産)、砂糖、きなこ(大豆)、食塩
製造:蔓寿屋
販売:道の駅米沢オンラインショップ
https://shop.michinoeki-yonezawa.jp/

ツルで頑丈に縛られた笹の葉をほどくと、光り輝く餅米が姿を現した。砂糖の入ったきな粉を振りかけ、ガブリとかぶりつくと、大昔に食べた何かに似ている。記憶のはるか彼方から味覚をたぐり寄せていくと、そうだ、祖母が作ってくれた七草粥

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「亥の子」(徳島県三好市井川町)

「亥の子」(徳島県三好市井川町)

原材料:小麦粉(国産)、黒砂糖、水飴/膨張剤、赤色102号、青色1号、黄色4号
製造:島尾菓子店
販売:三好やまびこふるさと会
https://www.miyoshi-yamabiko.jp

製造元である島尾菓子店の所在地をGoogleのストリートビューで見てみると、味わいのある古民家が立ち並ぶ通りの一角に、その菓子店はあった。店の中までは見えないが、掲げられた看板には「みのだようかん・生

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「とじこまめ」(熊本県菊池市)

「とじこまめ」(熊本県菊池市)

原材料:小麦粉(熊本県産)、大豆、きび糖、米粉、しょうが粉末
製造:渡辺商店
販売:自然派きくち村ネットショップ
http://www.kikuchimura.jp/

ネットショップでは「和菓子」に分類されているものの、ラップを開けたときの香りが和菓子のそれではない。小麦粉の香りが強いのか、どちらかというと、わさび醤油でもつけて酒のつまみにしたい感じだ。ひときれつまんで頬張ると、きび糖のほんの

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