芸人は○○と○○に分かれる

こんにちは、ブンボーガーです。

今回は、芸人を10年くらいやって感じたことのひとつを書いてみようと思います。
こういう文章を書く人に対して思うところがある方もいるかもしれませんが、興味のある方には読み流していただけたらと思います。


僕が芸人をやっていて、また芸人さんを見ていて思ったのは、「芸人には2つのタイプがいる」です。

結論から言います。「経営者タイプ」と「従業員タイプ」に分かれます。

もうこれだけで説明は充分かと思いますが、たとえばコンビの芸人さんを例にとってざっくり分けますと、
「ネタを書いていて、コンビの方向性を決めている」のが経営者タイプ。
「相方の言うことに合わせている」のが従業員タイプです。

コンビの場合は9割型この「経営者タイプ」と「従業員タイプ」で組んでいると思います。少なくとも僕にはそう見えます。

元々それぞれに「経営者気質」「従業員気質」でいた人たちがコンビを組むこともあると思いますし、コンビを組んでから2つのタイプに分かれたパターンもあると思います。というかあります。
ケースによっては、「前のコンビでは経営者タイプだったが、経営者タイプの相方とコンビを組んだので従業員タイプになった」みたいな例を目にしたこともあります。

売れている芸人さんだと、コンビで売れ始めてからピンでもネタや仕事などをやり始める人は経営者タイプだと思います。
その「相方がピンで仕事を始めたので暇になってきた」みたいな話をする方はだいたい従業員タイプです。従業員タイプの人が遅れてピンのネタや仕事をやりはじめることもあります。

経営者タイプと従業員タイプのコンビはだいたい仲がそんなに良くないです。これは一般企業でも多数派の形なのではないでしょうか。

もちろん例外もいますが、経営者タイプの芸人さんは「相方がもっと頑張ってくれたらコンビはもっと前進するのに」と思っています。
極端な人だと「自分が2人いたら手っ取り早く売れるのに」と思っています。売れないんですけど。

基本的に、近いお笑い感を持った人はいても、細かいところまで同じ価値観・思想の人というのはいません。
経営者タイプの人間は自分の経営思想を強くプッシュするので、結果的に相手に飲み込ませる形になります。
従業員タイプは、やさしかったり特に相方ほどの思想はなかったりして、相方の思想を受け入れることになります。
だいたい組んですぐにこの位置に収まります。

実際の会社でもそうですが、社長やリーダーはモチベーションが高く、従業員は比較するとモチベーションが低いことが多いです。
理由は、「自分の考えていることを実行に移している立場」の人は、やっていて充実感があるからです。
やりがいを感じていますし、それがどのような結果に繋がろうとも受け入れる気持ちでいます。実際に受け入れられるかは別として。
いずれにしてもトライ&エラーに対して前向きです。

従業員タイプは、「相方の判断に従う立場」になるので、どうしても相方と比べると温度差が出てしまったり、モチベーションがついてこないことが多いです。
これはみなさんもよく経験していることだと思いますが、同じ行動をするとしても「自分で決めたことをやる」のと「人に決められたことをやる」のでは、充実感が違います。

その上、相方の考えに100%同意できていなかったりすると、やはり行動量が減ったり、サボる方向に向かいがちです。少なくとも経営者の相方を納得させられるレベルの行動の質になる可能性は低くなります。

ただ、従業員タイプにも主導権を握らせればいいのかと言われるとそうでもなかったりします。従業員タイプには経営センスが無い人が多いので、従業員タイプの思想や提案は多くの場合で的外れになりがちです。ここもまた問題ではあるのですが。

そうなると、コンビのポイントというのは「経営者タイプがいかに自分が経営者であることを自覚して、従業員のポテンシャルを高めるマネジメントをするか」が課題となります。

一般的な組織でもそうだと思うのですが、たしかに高いレベルを求めることも大事なのですが、頭ごなしに押しつけるだけで一人の人間を導けるほど甘くはありません。
特に芸事の世界ならなおさらです。

ある有名漫才コンビの主導権を握っている方(かた)が、
「限られた時間で練習をするなら高いモチベーションで質の高い稽古をやらないと意味ない。厳しくすればいいというものではない」
という趣旨のコメントをしているのを見ました。素晴らしいと思いました。

相方の方も「稽古は厳しいが苦ではない」とコメントしていました。
結果的にそのコンビはM-1の決勝に複数回進出しています。
元々の2人のポテンシャルに加えて、経営者側のマネジメント力がうまく機能しているのだなと感じました。

じゃあ、「2人とも経営者タイプだったら2倍推進力のあるコンビになれるのではないか」という仮説が出ます。
特に従業員タイプと組んでいる経営者タイプはそう考えがちです。(自分が2人いたらいいという思想にも近い)

しかし経営者タイプの2人がコンビになった場合、だいたいぶつかり合ってケンカ別れになります。経営者はやはり我が強い一面があるので、思うようにいかないと険悪になりがちです。
僕も過去に何度か経営者タイプ同士でコンビを組んだ例を見ましたが、舞台でめちゃくちゃウケてすぐに解散します。

「船頭多くして船山に上る」ではないですが、主導権はやはりどちらかが握るべきというのがセオリーではないでしょうか。
しつこいようですがこのあたりもまた一般的な組織と似ていると思います。


同級生コンビという方々がいます。
学生時代から知っていて、コンビを組んでいる。
大物芸人さんたちもそうですが、今の若手の芸人さんで売れている人たちも一定数このタイプです。

このタイプのコンビが成功しやすいのは、やはり「人間対人間」の部分でお互いを理解して歩みを合わせられるところにあると思います。
どちらかが主導権を握っていたとしても、人間的なパワーバランスとしてはフラットだったり、お互いにお互いを好きという割合が他のコンビより多いように感じます。

とはいえ、あの内村さんですら「南原が弁当を食べている音すら嫌だった」「その後普通に戻ったが、コンビ仲に必要なのは適切な距離感」とコメントしていたのを聞いたことがあります。
それくらいコンビというのは特殊な関係性なのでしょう。僕は3年しか経験していないのでわからない部分も多いですが。


話を戻しますと、基本的には「経営者タイプ」は必要です。たまに「経営者タイプ」が存在しないコンビがテレビに出てきなと思ったりしますが、仕事が続かないケースが多いです。
やはり「思想」「理念」「ビジョン」みたいなものがないと難しいのではないでしょうか。

そうなると、相方が「従業員タイプでありながら経営者タイプの視点も持っている」というのが理想だと思います。
「役員タイプ」というか、ヒラ社員ではなく、経営的な視座も持った上でリーダーの決定を尊重するスタンスを持った相方が最もコンビに推進力を与えると思います。

「言われたことだけやればいい」「毎月最低限の(役割の)ノルマをこなせばいい」という姿勢ではなく「自分の役割でできることは何か」「相方に出来ない部分で売れるために何かできないか」を、相方の経営思想に則ってアクションできる人が理想だと僕は思います。

まぁ、それが出来れば苦労しないのですが。
経営者タイプも我が強すぎてパワハラ気質になってしまったり、相方の優秀さに気づけないパターンもあるので、ここは本当に人間力を試されると思います。
そもそも売れる前の芸人なんて精神的にも肉体的にも金銭的にも追い込まれているので、お互いがある程度普通の人よりもタフでないといけない等もあります。


と、ここまで短い経験と狭い視野の中で知った口をききましたが、芸人を「ビジネス的に」分析するなら、こういう切り口もありますよねという話でした。

コンビの芸人さんを見て「このコンビはどっちが経営者かな」と考えてみたりするとおもしろいかもしれないですね。

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