親知らずをぬく~これがビビりの選ぶ道~②
いよいよ、我が家から徒歩3分のところにいるゴッドハンドの元へ。
そこはこじんまりとした昔ながらの歯医者の構えだった。何の変哲もないこの構えの方が、むしろゴッドハンドのねぐらっぽいわー!と、変な興奮感に包まれながら、私は意気揚々とそこへ足を踏み入れたのだった。そして優しい受付のマダムに、かくかくしかじかと説明をしてから、待合室で待っていると、いよいよ診察室へ呼ばれたのであった。
ゴッドハンドはおじいさんだった。平たい防止をかぶり、白衣を着て、マスクをしていて、いかにも歯医者の出で立ち。というか、歯医者は誰でも大体歯医者の出で立ちか。だからまぁ見た目は普通。しかし、おじいさんながら目の力強さは現役感がみなぎっていて、ゴッドハンドぽいオーラを感じ取った。
受付での私の説明がゴッドハンドに伝達されており、ゴッドハンドは横たわる私の隣に座ると、
「ほーん、左上の親知らずあたりが痛いと。」
と言った。そして、
「あなた、野生のサルがなぜ虫歯にならないかわかる?」
と、唐突に私にたずねた。
え?野生のサル?あなたの隣に横たわるホモサピエンスのこの私の親知らずの話じゃなくて、野生のサルの歯の話ですか?そしてなぜ虫歯にならないかですか?えっとえっと、、
「…木の枝で歯磨きするからですか?」
ゴッドハンドは少し笑いながら、私の回答を否定し、
「加熱したものをたべないからだよ。」
と教えてくれた。
その後、ゴッドハンドの手書きのレジュメを数枚渡され、人間が虫歯になるメカニズム、それを予防するために必要なことが順次、驚愕レベルの早口で説明された。再生された音源を聞いているかのようである。そしてすべての説明が終わったあと、
「とゆうことで、君が適切に毎日虫歯の予防をしていれば、歯医者に来て余計な金を払うことはないってことだ。さ、口開けて。」
といい放った。
なにこのかっこいい始まり方ー!!!
ゴッドハンド認定!超認定ー!!!
まだなにもしてないけどー!
この時、口を開けながら、私は自分の歯医者選びの成功を確信し、横たわりながらも心の中でスキップをして、その辺を駆け巡ったのであった。よくやった私!おつかれ自分!ここで抜こう!そうしよう!
そしてそれから、ゴッドハンドは私の口の中を診察し、レントゲンをとり、診断を確定した。
「斜めに生えてきている親知らずととなりの歯の隙間に歯みがきがあたらなくて、そこに食べかすがたまって、炎症おこしてるね。風邪気味だったり疲れてると痛みを感じやすいよ。」
「お茶碗には食べかすが付くでしょう。それがあなたの歯にも付いてる。お茶碗の食べかすは、歯みがき粉付けてたら取れますか?取れないでしょう、磨かないとだめなんです。」
これまた驚愕の早口で、ゴッドハンドから診断が告げられた。
そして私は用意していた会心の一撃とでもいおう、あの質問を炸裂させた。
「親知らずは抜くべきですか?」
するとゴッドハンド、
「まぁ無理に今抜かなくてもいいと思うけど、邪魔なら抜いてもいいのではないですか。でもここでは抜けないから、その場合紹介状書くよ。」
え、ぬぅあんてぇぇぇえええええー!
「(゜ロ゜;ノ)ノ先生に抜いてもらえないんですか!?」
「うん、ここでは無理だね( ´_ゝ`)」
ゴッド!ジーザス!オシャカサマー!まさかそんな!ビビり、センセと心中するて、もう心はほぼ決めてしもてたのにー!たのにー、たのにー、たのにー。。。
そして私はゴッドハンドに、
「もうしばらく様子見ます。」
と静かに伝え、外の光に目を細めながら家路につくのであった。
一体ビビりはいつ歯を抜くのか。
つづく。
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