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#3 スピード感ある開発の秘密-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載

本連載は、Nintendo Switch向けソフト「レッツプレイ!オインクゲームズ」の制作過程をまとめたインタビュー記事です。2022/4/1から4/29まで、全5回にわたって毎週金曜日公開で連載していきます。冊子版はゲームマーケット2022春のオインクゲームズブース、およびオインクゲームズ公式オンラインショップで発売予定です。今後も追加タイトルについての記事を更新していく予定ですので、気になる方はぜひマガジン登録を!

本記事は、#2 リアルを感じるUIデザイン-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載 からの続きです。

インタビュー その1 (スタータップス、海底探険、月面探険)

あらゆるケースに対応する実装から、中級者のCPU作りまで

-オインクゲームズのデジタル部では、今までいくつもゲームを開発してきていますが、ボードゲームをデジタル化するプロジェクトって、何が新しかったですか?

 (土)通常のデジタルゲーム開発では、開発しながらゲームのルールが大きく変わっていく恐ろしさがあるのですが…本作はゲームのルールが決まっていて、途中で変わらないのがよかったですね(笑)。演出を途中に挟んだりしやすいような、柔軟なルール側の書き方なんかは意識していたと思います。

(浦)ゲームのルールはあまり変わらなかったのですが、見た目にまつわる部分の作り直しはそこそこありましたね。なんせ、最初は2Dだったので。

 (佐)最初に出水田さんが作ったコンセプトは、2Dだったんですよね。その後3Dに変わった。

 (浦)最初はプロトタイプで、とりあえず対戦できるものを作っていきました。オンラインの対応も並行して進めていましたね。開発途中での大きな変更としては他に、iOSで出す予定だったものがNintendo Switchになったり、「スタータップス」一本で出す予定から、複数タイトル入れることになったりしました。 

(新)土江さんがゲームのルールとCPUを実装して、その他は浦さんがやってるみたいな感じで進めていましたね。

-実装する上で、難しかったところなどはありましたか?

 (浦)スタータップスのCPUがNintendo Switch で動かしたら5分くらい止まったとか、ありましたね…。スマホならけっこう普通に進んでいたのに、Nintendo Switchではすごく時間がかかってしまって。計算機としての性能が、スマホよりも低かったんです。逆にNintendo Switchで動くならスマホでも動くので、描画とかもNintendo Switchを基準に作っておけば大体動くなという形でした。ここは頑張るしかなかったですね。

 (土)計算量を減らして、工夫していきました。工夫すれば10倍早くなるみたいな世界なので、おもしろみはありますね。

(浦)あと、今回は、オンラインと、ローカル通信と、オフラインという3つの遊び方の対応が必要で、難しかったというのはありましたね。他には、コントローラー操作とタッチ操作の両方に対応するとか。シンプルそうなゲームに見えながら、通信方法や、操作方法などの組み合わせ数が多いのが大変でしたね。

 (土)コントローラーとタッチの両方に対応するのは、UIも大変でしたね。

 (浦)コントローラーでボタンを押すとコントローラーのカーソルが出てきて、タッチで操作してると出てこない、という設計ですね。

 (新)カーソルという概念があってもなくても動くようにするUIは難しかったですね。

 (浦)その他には、突然テーブルを出たりすると大変、というのがオンラインゲーム特有の課題としてあって。通信が切れたら即座にタイトル画面に戻したいけど、アニメを再生中だとバグる、みたいなのはありがちで。それに加えて、再接続ができるようにするのも大変でした。ちゃんとゲームのプレイの途中のテーブルに再接続すると、その状態から始められるようにしています。

 (佐)他の人から見たらずっといるように見えるわけです。いない間だけCPUになってる。

 (土)実は通信が切れているけど誰も気づいてないこともありますね。オンラインゲームとしての質を気にかけて作っているところがありますね。

(新)こういうオンラインゲームだと、手番の人が見ている視点と他の人が見ている視点が違うので、画面上でも細かく場合分けして作るのが大変だったというのもありますね。

「一人プレイモード」「一台のNintendo Switchで対戦」「オンライン対戦モード」「ローカル対戦モード」4つの遊び方に対応している。

-あらゆるケースやプレイヤーに対応できるように設計する部分が、大変だったのですね。今回一人プレイではCPUと対戦できますが、その設計はどうでしたか?

(土)最初に、誰向けのCPUを作るんだろうと考えた時に、すごく弱いCPUを作っても意味がないし、強いCPUを作って初心者の方が対戦して負けてしまっても仕方がない。中級者ぐらい…初心者がやったら負けるけど、ちょっとコツを覚えたら勝てるぐらいがいいなと思い、着地点をそれぐらいにしようと思いました。
「スタータップス」のCPUの仕組みについては…みんな手札が読めないので、ランダムに、こういうのを持っているとして展開を読んだら…というのを色々なパターンでやってみて、平均的にどういう手を打つといいかというのを計算する、というように動いています。最初に作ったCPUは、負けそうなものを最初に捨てる、という戦略によっていて、強かったのですが、相手をしていてちょっと楽しくない気持ちになるというか…また損切りしてるな、みたいな気持ちになって、一緒に遊んでいてあまり面白くなかったです。「スタータップス」は4人でやるゲームなので、負けない戦略をとると順位は上がるんですが、ゲームの展開が地味になってしまうんですよね。それで、損を避けるんじゃなくて、ラッキーな時に取りにいくような調整にしていきました。
「海底探険」についても、誰向けのCPUかと考えた時に、やはり初心者には勝てるけどある程度経験がある人には負ける、ぐらいにしようと思いました。CPUに勝てたらオンラインに行ってもよく楽しめるぐらいの、チュートリアルになるといいなと思いました。CPUがどんどん遺跡チップを取ってしまって自滅するのも嫌だなとは思って、どちらかと言えば手堅い戦略に寄せた方が対戦相手としています。もしかしたら、性格を分けて、無謀な性格のCPUがいてもいいのかなとは思います。

(新)けっこうスムーズに作れたんですかね。今までの経験が生きてるのかな。

 (土)ボードゲームのCPUは作りやすかったですね。アクションゲームより制限時間が厳しくなく、状況の数もそんなに多くない。制作スケジュール的は短かったので、なるべく早く作れるように、シンプルな設計を目指しました。

「スタータップス」「海底探険」「月面探険」はCPUを入れて遊ぶことができる。

スピード感のある開発のための、しくみ

-開発で、うまくいった部分はありますか?

(土)共通基盤を整えていたのが功を奏したと感じました。「とらきちのトラキッチン」をNintendo Switchで出した時に、共通して使えるような基盤部分を整えていった方がいいということになっていて、それが今回、ちゃんと開発スピードに寄与していたと思います。セーブデータを管理する部分や、サウンド再生周り、マスターデータ、UI周りなど…。

(浦)CI(継続的インテグレーション)周りの仕組みもうまくいきましたね。「とらきちのトラキッチン」からの引き継ぎで一番良かった部分でした。一定時間ごとにビルドをしてくれたり、勝手にiOSのビルドやNintendo Switchのビルドを作ってくれるもので。ここのセットアップが普通は時間がかかるのですが、今回は「とらきちのトラキッチン」の時に作ったものがうまく使えました。

 (新)特にリモートで作業しているので、自動でNintendo Switchビルドしてくれるのはすごい重要でした。

 (佐)オインクゲームズのチームでスピード感持って開発する時に、重要な基盤の話ですね。

 (新)めちゃめちゃ大事ですね。その他にも、今回、Adobe XDでUI 作成に特化したツールで作っているんですが、XD って本来プロトタイピングで使うツールで。XDでできたものを誰かに渡してUnity上で組んでもらう、というのが一般的な使い方なんですが…浦さんが作ってくれたツールは、XDで作ったデータをそのまま実データとして使えるようになっていて、それが素晴らしいんです。変換作業が自動で行われる。通常だと、その変換作業だけで数日取られてしまって…それによって様々なことが遅くなっていくんです。プログラマの手も止まるし、UIを変えて試すサイクルも遅くなるし。今回はXDのデータが最終データなので、すごく早く進められました。

 (佐)設計図書いたら家立ってるみたいなことですかね?

 (新)設計図から作ってもらう、という工程が省略できるってことですね。

 (土)右から左に書き写していくような作業を自動でやってくれる感じですね。

 (新) 文字起こしみたいなものです。自動化されてきてますけど、そんな感じ。それによって早くいろいろできたんですよね。

(浦)仕組みについてはこの画像がわかりやすいので見てください。

XDのデータをUnity上に再現するまでの作業を自動化することで、開発がスピードアップした。

-今回はKickstarterのキャンペーンで開発資金を集めましたが、どうでしたか?

(佐)やって良かったですね。これくらい注目度があるんだとか、待っててくれる人がいるんだなと思うし、普段のゲーム開発とは違う感じがあって面白かったですね。ちゃんと締め切りができる。お金が集まったからには作らなきゃいけない!とか。

 (土) β版のフィードバックに、熱を感じましたね。

 (浦) βテストはタイミングが良くて、フィードバックもあったし良かったですね。そこから実際に改善した点がいくつもあります。

 (新)モチベーションにもなりましたね。

(佐)もちろん、先に資金を集めるという部分で、大変な部分もありました。早めに公開できる情報を揃えなければいけないとか。あとは、バッカーの皆さんは一番に応援してくれて、一番大切にしなければいけないお客さんなので、そこの皆さんに確実に届けられるように、楽しみにしてもらえるように、そういった対応の部分は大変だったかなと思います。

β版からの修正点として、「スタータップス」の山札の残り枚数表示が見にくかったため、表示位置を修正した(左:修正前 右:修正後)。その他、オフラインプレイ時の改善もいくつか行っている。

様々な入り口から、離れていても一緒にボドゲができるように

-今後の展開はどう考えていますか?

 (佐)どう売っていくかは、すごく難しいと思っています。当初はボードゲームファンに向けて作りたいとか、ボードゲームやったことない人に面白さを理解してもらうイメージで考えていました最近は、ボードゲーム方面からの広め方に限らず、世の中的に受け入れられてきているような面白さのものを投下することで、全然違う層にいきなり届けるようなことも可能なのかもと思っています。例えば、「エセ芸術家ニューヨークへ行く」は、いまちょうど世の中的に受け入れられいる『Among Us』の面白さに近い部分もあったりして、その次を探している人にも刺さりやすいんじゃないかなとか。もともとある、デジタルで野良で遊ぶようなクラスタに受け入れられるように作っていける可能性もあるのかも、と思っているのが最近です。
とは言え「エセ芸術家ニューヨークへ行く」だけを切り離してそういうところに投下していくみたいなのは、ちょっと違うかなと思っていて。もう少し大きい目で見た時に、ボードゲームというもののあり方、みたいなことを考えていきたいと思っています。ゲームの一つの可能性として、あまり開拓されていない分野だとは思うので、いったんそこに飛び込んでいってどうなるか見てみたいという感じですね。普遍的な面白さはあると思うので、どう届けていくかは、手探りです。

理想的には、ボードゲームやりたいなーって思った人がすぐ友達とオンラインで遊べる環境が理想だと思うので、ハードは選ばずどんな入り口からも一緒に遊べるようにしたいですね。とはいえチームの開発力とか、メンテナンスしていけるかどうかという現実はあるので、その中でどう実現していくか。なるべくたくさんやりたいとは思いますね。
タイトルももちろん増やしていきたいと思っています。ボードゲームの遊び方として、まずいっしょに遊ぶメンバーがありきだと思っていて。メンバーが集まったら、そこからいろんなゲームを遊んでいく、という遊び方。そのゲームをやるために集まるのではなく、まず集まりがあって、そこから遊んでいく。そういう遊び方をデジタルでやれるようにしたいので、タイトル数はたくさんあった方がいいなと思っています。そういう意味ではオインクゲームズのゲームに限る必要はないのかなとも思っています。

 -遊んでくれる人へのメッセージがあればお願いします。

 (土)オンラインゲームとしてよくまとまったものが作れたと思っているので、友達を誘って遊んでみて貰えればと思います。また、担当部分で言えば、ぜひCPUとも遊んでみてもらって、練習してみてもらえれば嬉しいです。

(浦)このゲーム、タイトルを増やしやすいというか、今後どういう拡張のされ方をするか、わかりやすいタイトルだと思います。売れたら売れるだけ新しいゲームの追加開発がされると思うので、友達に勧めて、ぜひ一緒にやってもらいたいです!

 (新)オインクゲームズのゲームは、オインクゲームズでデジタル化するのが一番いいものができる!という気持ちでやっています。かつ、ボードゲームのデジタル化のお手本になるものができるといいなという気持ちもあります。βテスト遊んでもらった感想で、UIいいとか、アニメがいいとか言ってもらえたのは嬉しかったです。そのあたりは今後もクオリティを崩さず追加していければいいなと思っています。

 (佐)対面で遊べる機会が減ってしまっていると思うので、会わなくても一緒に遊べる、こういう面白いジャンルのゲームがあるよというのを知ってほしい。今までは、ボードゲームを知るのは、友達の家だったり、ボードゲームカフェだったりしたんでしょうが、そういう場にアクセスしづらくなっても、ボードゲームがどんどん広く遊ばれるようになっていってほしいと思っています。 

 (インタビュー:2021年8月30日)


#4 デジタルならではの「エセ芸術家」-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載 に続きます。


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