見出し画像

オインクゲームズのコンポーネントデザイン

※本記事は、2016年に公開した「Board Game Design Advent Calendar 2016」1日目の記事を再掲したものです。

画像49


オインクゲームズのボードゲームのコンポーネントは、アートワーク重視だと思われがちです。しかし、実際はプレイアビリティを最も重視してデザインしています。その結果、逆算的にあれらのユニークなコンポーネントたちが生み出されているのです。もちろん、あの独特のサイズの箱に収めなければならないという制約はあるのですが、その中で最大限、プレイしやすいコンポーネントとは何かを考え抜いて作られているのです。今回は、そのデザインについて少しご紹介します。(弊社代表である佐々木隼がデザインした仕事を、それをよく隣で見てる筆者が紹介します)

視覚的に伝えるデザイン

コンポーネントという特殊で小さな物体の上には、本やWebのように大量の情報を載せられるわけではありません。そこで、必要な情報や、伝えたい様々な事柄を、視覚的に表現する手法がよく使われます。

画像49


まずは「藪の中」の容疑者タイルを見てみましょう。実はこのタイル、よ〜く見るとある模様が描かれているのが分かります。

画像48


分かりやすく拡大してみました。右向きの矢印が描かれているのが分かります。

画像48


一方、第一発見者マーカーには左向きの矢印が描かれています。

これらは、単に絵として面白いから入っている訳では無いのです。この矢印は、これらのコンポーネントを使う際に、右隣の人に回すのか、左隣の人に回すのか、を示すために存在します。もちろん、これだけを見てルールが完全に分かるというものでは無いですが、ルール間違いを防いだり、ルールを思い出しやすくしているのです。特に、ここは右回りと左回りを間違えやすい部分であるので、関連するコンポーネントにこのような鍵を入れておくことで、手に取った時にすぐに思い出せるようにしているのです。

画像48


続いてペナルティチップを見てみましょう。この模様にも意味があります。5つのドットが描かれているのが分かるでしょうか?このドットは、ペナルティチップ5枚で脱落というルールを示しています。これも、「何枚で脱落だっけ?」となった時にすぐに思い出せるよう、サマリーの役割として入れているのです。ルールに出てくる細かい数字は忘れやすいので、その時に一々ルールブックを見直さなくても済むようにという配慮です。

画像48


続いて、「海底探険」の財宝チップです。このゲームでは、レベル1〜4の財宝チップを、写真のように、順番にすごろく状に並べる必要があります。

画像48


実は、試作の段階では、こんな感じで全て統一された形のチップでした。もちろんこのままでも十分遊べるのですが、並べ方が分かりにくいという問題がありました。そこで、頭を悩ませた結果…

画像48


こうなりました!

レベル1のチップにはドットが1つ・三角形・薄い青。
レベル2のチップにはドットが2つ・四角形・少し薄い青。
レベル3のチップにはドットが3つ・五角形・濃い青。
レベル4のチップにはドットが4つ・六角形・かなり濃い青。

図柄、形、色のそれぞれで段階を示すという、これ以上ないぐらいのトリプルコンボです。非常に見分けやすく、並び順も視覚的に分かります。深いレベルになるにつれ濃くなる色によって、深海の感じも表現されています。

一番左にあるのはブランクチップですが、これは丸型にすることで、多角形のチップとは種類が違うということを示しています。また、二本のラインによって作られたX柄で、バツであったり、使用済みであったり、そういう「ブランク」と紐付くイメージが得られるようになっています。

画像48


チップの背面も、得点の大きさに応じて、金・銀・銅を色で表現し、価値の違いを感覚的に得られるようになっています。

画像48


次に紹介するのは…「死ぬまでにピラミッド」の試作コンポーネントです。

画像48


死ぬまでにピラミッド」はピラミッドを建造するゲームなのですが、タイルの置き方に制約があり、右のような置き方は出来ますが、左のように、三角形のグリッドから外れるような置き方は出来ません。

これを言葉で伝えるのはなかなか骨が折れますが、このコンポーネントでは、縞模様の横線を入れることによってそれを解決しています。すなわち、線が斜めになるような配置はできないのです。これによって、先ほどのルールを、視覚的に、多くを語らずとも伝わるようにデザインしているのです。

画像48


最後にちょっと変り種を紹介します。これは「トロル」のトロルカードです。カードごとに数字が違いますが…よく見るとトロルの目も違います。数字が小さいトロルは鋭いので目も鋭い、数字が大きいトロルは鈍臭いので目も怖くなさそう、と、そういう訳です。

画像48


時にはこういう遊び心も散りばめられています。

カード裏のデザイン

ボードゲームではよく使われる素材である「カード」。一般的に、数字が書いてある面を「表(フェイス)」、そうでない面を「裏(バック)」と呼びます。カードというと、表ばかりに目が行きがちですが、ここでは裏に注目してみましょう。

画像48


オインクゲームズの色々な裏面を集めてみました。(どれが何のゲームかすぐ分かったあなたはすごい!)

カード裏には重要な役割があります。それは、表を隠すことです。当然のことながら、裏から見て表がわかるような絵柄ではいけません(ルールにもよりますが)。手札にたくさんのカードを持つようなゲームでは、並び順やカードの上下が重要な情報になり得る場合があります。そのような場合は、カード裏に線対称なグラフィックを使用し、カードをどのような状態で持っていても上下左右が判別できないようにする必要が出ることもあります。

見落としがちなのが、カードが透ける問題です。ボードゲームで使用するようなカードは、トランプ紙で作るのがベストです。トランプ紙とは、一見普通の紙のように見え、薄いのですが、表・中・裏の3枚の紙を貼り合わせて作られている紙です。中の紙はグレーになっており、これによって裏から見ても表が透けないようになっています。あなたのお手元にある紙製トランプも、上手いことやると三枚おろしに出来ます。

しかし、様々な事情で、トランプ紙が使えない場合もあります。実は、初版の「小早川」がそうでした。

画像48


さて、この小早川のカード裏の謎の模様、一体何なのか考えたことある方はいるでしょうか?

画像48

実はこれ、表の全ての絵柄を重ねたものなのです!

画像48

画像48


こうすることで、万が一カードが透けても、裏の絵柄と重なって表が何だか分かりにくくなるようにしているのです。こうして、あの奇妙な模様が生まれました。

画像48


カード裏大集合の写真をもう一度見てみましょう。ほとんどのカードに、白い縁があるのが見えるでしょうか?実はこれにも意味があります。

画像48


カードは、めくったり、シャッフルしたりといった動作によって扱われることが多いため、ダメージを受けやすいのです。特に、カードの縁はダメージを受けやすく、マークド(傷や汚れが付き、それによって表が判別可能な状態)になるきっかけになります。そこで、このような余白を設けることで、縁の傷を目立ちにくくしているのです。

特に、紙の色が白の場合に、濃い色でカードの縁まで印刷してしまうと、少しの傷でも、紙とインクの色の差によって傷が目立ちやすくなってしまいます。

ユニバーサルなデザイン

デザインにおける「ユニバーサル」とは、人々が持つ様々な背景や能力の差の如何を問わずに使用できるようにすることを指します。ボードゲームも色々な人が集まってプレイするので、例外ではありません。オインクゲームズも、可能な限りユニバーサルなデザインを心掛けています。

例えば、です。ボードゲームにおいて、色は重要な情報になることが多く、似た物を分類するのによく使用されます。しかし、現実には、色覚には大きな個人差があり、特定の色の識別が難しい人もいます。そのような方々が、色を判別できないようなコンポーネントをデザインしてしまうと、プレイに支障をきたすどころか、全くプレイできないものになる恐れがあります。そこで、デザインで解決する必要が出てきます。

画像48


色が付いた様々なコンポーネントを集めてみました。

まず大切なのが、色の選び方です。ある色覚において、判別しにくい、すなわち似た色に見えてしまうような色は避けます。例えば、明度の同じ赤と緑は判別しにくいと言われているので、同じ種類のコンポーネント内で使用するのは避けます。オインクゲームズのコンポーネントも、可能な限りそのような色選びをしています。

加えて、色以外の手がかりがあると尚良いです。色の判別が困難でも、それを見て判別が出来るからです。「海底探険」の探険家コマ(写真上段)のように手がかりを入れるのが難しいものもありますが、「マスクメン」の強さマーカー(写真中段)のように、明らかに違う顔と分かるようにしたり、「トロル」のどろぼうカード(写真下段)のように、ただのラインでなく、違うシェイプのラインで色を入れるようにすることで、形を見ることでも違いが判別出来るようになるのです。

画像48


余談ですが、「トロル」のどろぼうカードは、「ハゲタカのえじき」などと同様に、各プレイヤーごとに同じセットが配られます。そこで、カードを手札として持った時に、自分から見ても、他の人から見てもプレイヤーカラーがすぐに分かるように、カードの表と裏、どちらにも同じ色のラインが入っています。

画像48


これは「ツインズ」のカードの数字部分を拡大したものです。よくよく見ると、数字の下の辺り、白黒の帯と色面の境目に、それぞれ違うシェイプが描かれているのが分かるでしょうか。これも、先ほどと同様の理由で入っているものです。色ごとに違う形を付けることで、識別できるようにしているのです。こういう細かな模様にも、それが存在する理由がきちんとあるんですね〜。

他にも、ボードゲームならではのユニバーサルデザインがあります。皆さん、手札を手に持つ時、どういう風に持ちますか?

画像48


こうですか?

画像48


こうですか?

実はこれ、ファンの向き(カードを広げる方向)が違います。大抵の場合、右利きの人は左手にカードをファンするので前者のような形になり、左利きの人は右手にカードをファンするので後者のような形になります。(写真は撮影の都合上、両方とも左手で持っていますが)

ファンの向きによって、カードの左側が見えるのか、右側が見えるのかが変わります。この時、カードのどちら側か一方にしか情報が書かれていないと、決まった方向にファンした時しかそれが見えず、いつも逆方向にファンしている人にとってはプレイしにくいものになってしまいます。

そこで、オインクゲームズが(プレイ中にファンして持つような)カードをデザインする際は、可能な限り左右両方に同じ情報を入れています。こうすることで、カードの持ち方に関してユニバーサルなデザインとなっているのです。

画像48

画像48


トロルのカードも、両側から数字が見えるデザインで、ユニバーサルです。

画像48

画像48


マスクメンも、左右対称なデザインで、ユニバーサルです。(数字や記号がないので気付きにくいかもしれませんが)

画像48


ライツのカードは上下も気にしなくていいようになっています。徹底してますね!

画像48

画像48


ちなみに、一般的なトランプは片側にしか数字が書かれていないので、ファンの方向に関してユニバーサルではありません。

画像48


ユニバーサルについて見てきましたが、最後に「ナインタイル」のお題カードを見てみましょう。このゲームでは、その性質上、お題カードを見るプレイヤーは周囲360度どこに座っているか分かりません。スピード勝負のゲームなので、座る位置によってお題カードの見やすさが変わってしまうと、不公平なゲームになってしまいます。

そこで、お題カードに描かれている模様は、上下左右どこから見ても同じ形になるものだけがチョイスされています。

画像48


これは逆側から見た写真ですが、同じ形になっているのが分かると思います。これによって、ゲームの公平性を担保しています。

図柄は完全にアブストラクトな図形にすることもできましたが、「ドーナツ」「花」「ライム」などニックネームを付けられた方がプレイ中の会話が盛り上がるだろうと考え、なんとなくそれっぽく見える柄になっています。

大きさと厚みのデザイン


コンポーネントをデザインする上で、その大きさや厚みも重要なデザイン要素になります。それらが適切に考えられたものでなければ、非常にプレイしにくいものになってしまうからです。

画像48


様々な大きさのコンポーネントを集めてみました。これを見ると、ある程度の法則があるのが分かるでしょうか。例えば次のような理由に基づいて大きさが決められています。

得点チップのように、手元に大量に置く必要があるもの小さい
(ツインズの得点チップ、藪の中の犯人ですマーカーなど)

テーブル上に大量に並べる必要があるもの小さい
(海底探険の財宝チップ)

カードやタイルで、束ねてシャッフルするようなものは大きい
(藪の中の容疑者タイル、インサイダーの役割カードなど)

みんなからよく見える必要があるもの大きい
(マスクメンの強さマーカー、藪の中の第一発見者マーカーなど)

特に、ナインタイルのタイルは扱いやすさが求められるので、箱に収まるギリギリのサイズまで大きなものになっています。

画像48

画像48

画像48


次に、厚みが分かるように並べてみました。これもコンポーネントによって様々で、例えば次のような理由に基づいて厚さが決められています。

カードのように、大量の枚数を重ねたりシャッフルするもの薄い
コインやタイルのように、テーブルの上に置くものは厚い(手に取りやすくするため)
大きさが大きいものは薄くても良い
大きさが小さいものは厚くする

厚みというのは、コンポーネントの扱いやすさにかなり関わってきます。例えば小さいコンポーネントがペラペラだと、手に取りづらく、プレイ中にストレスになります。あまり目が行きにくい部分ですが、どのような素材で、どのぐらいの厚さにするか考えてデザインすることで、快適なプレイが出来るようにあります。

タイルのように厚みのある素材で、表と裏の区別があるコンポーネントを作る際は、抜き方向に気をつける必要があります。

画像48

これは藪の中のタイルですが、表面(数字の書いてある面)は端が鋭利な切り口になっているのに対して、裏面(黒い面)は端が少し丸みを帯びているのが分かると思います。これは、印刷後の抜き加工(紙を指定の形状に切り抜く加工)が、紙の片面から刃をプレスして行われることに起因します。刃を入れた面は丸みを帯び、逆の面は鋭利になります。藪の中のタイルの場合、裏面から刃を入れてタイルを抜いたということです。これが抜き方向です。

画像48

画像48

画像48

画像48


なぜ抜き方向が大事かというと、表と裏の区別があるコンポーネントは、裏から抜いてエッジを丸くした方が、傷が付きにくくなるからです。これはカード裏のところでも触れたのと同じ話で、マークドになりにくくなります。逆方向に抜いてしまうと、端に傷が付きやすくなり、マークドになりやすくなるのです。

大きさと厚みについて話をしてきました。最後に触れたいのが、箱への収納です。大きさと厚みが完璧でも、箱に収まらなければ本末転倒です。

画像48

画像48

画像48

画像48

オインクゲームズのコンポーネントは、プレイ後にある程度、何も考えず雑に箱に入れても(よく「ざらっと入れる」と表現してます)収まるように考えています。きちんと整理しないと箱に収まらないようでは、片付けに時間がかかってしまいストレスです。さっと取り出して、楽しく遊び、さっと片付けて次のゲームが遊べるよう考えているのです!

さいごに

画像48


オインクゲームズのコンポーネントデザインについて色々と紹介してきました。デザインと聞くと、ゲームデザインであったりデジタルの UI デザインの話を思い浮かべる昨今ですが、ボードゲームのコンポーネントにもそれならではのデザインが沢山あるのです。まだあまり言語化・体系化されていないような分野ですが、みなさんのコンポーネントのデザインを考えるきっかけになれば幸いです。

冒頭にも記しましたが、今回紹介したのは全て弊社代表の佐々木隼の仕事です。



















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?