小劇場界隈を半年歩いてみて思うこと。
今となってはきっかけすら覚えていないが、演劇というものを観てみたいと思った。
映画やドラマのように既に出来上がったものを観るのではなく、今、まさに目の前で展開されるライブ感が欲しかったのだと思う。
どちらかと言わなくてもインドア派の私がそんなことを思いついたのは、未だに驚きだけれど、いいかげん、家の空気を吸うことに飽きていたのかもしれない。
演劇、舞台といえば、素人ながらに思いつくのは劇団四季であったり、宝塚であったり。
ただ、なんとなく、自分が求めているのは、そういうものではなくて、もっと小規模、客席数にして50席程度のものだと思った。
なんでそう思ったのは未だによくわからない。
分からないけれど、とにかく、そういうものを探してみた。
たいていのことはGoogle先生に聞けば教えてくれる現代にあって、小劇場界隈の探索は思いのほか、難航した。
難航したが難航中も楽しかった。
チラシステージを経てCorichにたどりついた時は、ちょっとした感動すらあった。
演劇のタイトルも、劇団の名前も、フライヤーも。
あって、ないようなあらすじも、何もかもが新鮮だった。
どれもこれも観てみたい。
悩ましくも楽しい時間だった。
私が人生初の観劇に選んだのは「遠吠えの、一歩」さんの「ワンダーランド、跡地」。
勝手がわからず、とりあえず、かなり早い時間から待機して一番乗り。
何となく最前列は選ばれし者の席であるような気がしたので、一番乗りにも
関わらず、それなりに後ろの方の端っこに慎ましく座る。
なんとなく演劇のイメージとして、舞台の上で、ちょっと、あるいはかなりオーバーアクション気味に演技して、観ているこっちも疲れちゃうようなのもあったんだけれど、実際にはそんなことは全くなかった。
非常誘導灯も消され、闇の中に浮かび上がる舞台。
そこで繰り広げられる世界への没入感は、映画なんかとは比べ物にならなかった。
後ろの席だったので、舞台全体を見ることは出来たが、登場人物が複数いるときはどこにフォーカスしてよいか分からない。映画やドラマならフォーカスすべきところを、カメラが勝手に映してくれるが、演劇は私自身が、それを決めなくてはいけない。
それは言い換えれば、同じ演目でも、観る人によって印象が変わるということ。主役にフォーカスするもよし、脇役にフォーカスするもよし。
どうしよう、どうしようと戸惑いつつも、その可能性の大きさに興奮した。
終演後は感動のあまり頭の中が真っ白。
アンケートがあったので書いたが、確か、
「良かったです。とにかく良かったです!」
みたいなことを汚い字で書くのがやっとだった。
40半ばにして、さすがにこの感想はないだろうと思いつつも、何しろそれくらいしか思いつかなかったので、後ろ髪を引かれる思いで、劇場を後にする。
ロビーではまさかの役者様がお見送りをしており、うわ、すげー、すげー!
と思いながら帰宅。
帰りの電車の中で反芻しながら、頭の中にずっとあったのは、あの小学生みたいな感想のこと。
「あぁ、この人、頭悪いんだな」
と思われるのは別にどうでも良かったが、これだけの感動を頂いておきながら、あの感想はあまりにも失礼なんではなかろうかと自問する。
結局、帰宅後、メールで無駄に長い感想文を送らせていただいた。
それ以降、半年以上過ぎた今に至るまで、観劇後の感想とお礼は、メール、
もしくはCorichに投稿する形でお伝えさせて頂いている。
ちなみに。
役者様に面会ができるということを知ったのは、これよりも後のこと。
それを知った時は、ちょっとびっくりはしたけれど、ご挨拶できるんなら、そりゃしてみたい!とは思った。
しかし。
しかし、である。
いざ、面会の時間になると、明らかに役者様とお話をしているのは、お友達やお知り合いの方ばかりで、観劇の素人が割って入るのはあまりにもきつい。
以前、立ち寄った観劇三昧さんの下北沢店で、スタッフの方にそんな世間話をした時に
「役者さんは知らない人からの挨拶の方が嬉しいと思う」
と言っていただいたことがあり、その言葉に勇気を頂いて、最近では、一瞬の隙をついて奇襲的にご挨拶をちょろちょろさせて頂いているが、隙が見出せないときは、ひっそりと劇場を後にするようにしている。
小劇場の場合、大抵、終演後のロビーは人でごった返しているし、その中を所在なげにうろついていても迷惑だろうと、あまり粘らずに退散するようにしているが、そうしたご挨拶のことも含めて、界隈の流儀というものが未だに良くわからない。
チケット予約の時の役者様扱いで予約をするのと、普通の扱いで予約する違いも良くわからない。
分からないなりに、最近は役者様扱いで予約をさせて頂いたりもするけれど、応援している役者様が複数出演される舞台などでは、結局、どなたも選ばず普通の扱いで予約をしたりしている。
まぁ、まだ小劇場歴半年程度のド素人なので、色々とそのうち分かってくるものなのかもしれないけれど、小劇場界隈で演じる側として奮戦されている皆様には、可能な限り、感謝をお伝えしていきたいなと思う。
半年間、界隈を歩いてきて、感じるのは劇団の皆様の「演劇をやりたい」というその熱量。
殆どの方が、普段は学生さんであったり、会社員であったりして、その傍らで演劇に携わって下さっているらしい。
個人的には、それだけでも、すごいことだと思う。
商業的にみても、なかなか苦しい面も多々あるようだけれども、それでもなお、演じる側にあろうとするその熱量には頭が下がるし、だからこそ、作品からそういうものがビシビシと伝わってくるのかもしれないし、心を大きく動かされるのかもしれない。
この半年間で、界隈の皆様には、どれだけ大きな力を頂いたか計り知れない。
大袈裟ではなく、人生の岐路で、道を示していただいたこともある。
小劇場に通うようになって、間違いなく、私の人生は深みを増した。
観る側としては、まだまだ、精進も足りないし、感じ取れていないこと、伝えきれない思いは数多くあるけれど、いつかは、素晴らしい演劇を創っていただいた皆様に恩返しができればと思う。
小劇場に関わる全ての方、いつも、本当にありがとうございます。
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