貴方に沸いた殺意④

「被害者は、田辺利隆、田辺美由紀。これは怨恨かな。」
警察官の橋本紀之は額の汗をハンカチで拭いながら呟く。真夏で汗が滲み出ているのだ。
「被害者が既に亡くなってからも複数刺していることが分かる。やはり何か恨みでもあったのだろう。」
「そうですね。これだとすぐ犯人分かりそうですね。指紋も拭き取られていないですし。」
新人の江ノ口智也が言う。
「それにしてもほんとに暑いですね。干上がりそうですよ。」
江ノ口は太陽を手で覆いながら橋本に声をかける。
「ほんとだよ。この暑さだと死体も腐りやすいしな。まあ今回は早くに見つかってよかったけど。」
田辺利隆の母が通報してきたのだ。今日は、田辺家へ訪れる予定だったらしい。
「じゃっ犯人探しますか。」
そうだな。早く終わらせよう。」
僕は焦っていた。早く後処理をしなければ。震える手を抑えながら台所へ向かい、血を洗い流す。だが、血が僕の手にへばりついてなかなか取れない。僕は気が動転していたのだろう、ドタバタと家を出て行った。自分の指紋を拭き取らずに…。はあはあはあ、、、やっと、、はあはあ、着いた…!颯は自分の部屋へなだれるように入った。自分がやったことがフラッシュバックする。僕はなんてことをしてしまったんだ…!そうだ、このままだとすぐに警察に見つかってしまう。逃げなければ……!僕は全財産をカバンに無造作に詰め込み、周りをキョロキョロしながら部屋を出て行った。さあこれからどうしようか。
 
 
 
 
 
「昨夜○○県△△市□□町で事件が起こりました。被害者は田辺利隆、田辺美由紀。警察は殺人事件とみて捜査を行っています。」
煎餅をボリボリと食べながら佐藤美智子はテレビを見ている。
「可哀想にね。早く犯人見つかればいいのにね。」
と夫に言う。
「そうだなー。」
夫はあまり興味がなさそうに返事をする。佐藤美智子は煎餅を全て食べ終わるとテレビのチャンネルを変え、バラエティー番組を見てゲラゲラ笑っている。そんな時だった。バンバンバンと玄関のドアを激しく叩く音が聞こえた。
「もう、なんなのよ、うるさいわね。」
と言いながら玄関へ足を運ぶ。ドアを開けるとそこには颯が青ざめた顔でつっ立っていた。
「あら、颯。どうしたの?こんな真っ昼間に。」
「…………………………」
颯は黙ったままだ。
「とにかく家に入りなさい。」
颯は重い足を動かしながら家へと入っていった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?