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指が無いオジサンの話

二十歳前後の学生時代の話。

大学に通いながら週6でハウスクリーニングのバイトをしていた。中学一年からの新聞配達が初めてのバイト経験だったが、その後の高校三年間もバイトしていたから週6のバイトも特に辛いと感じる事はなかった。

むしろその小さな会社はとてもアットホームであったし、社長以下みんなすごく温かくて、辛さを感じた事は一度も無かった。

真夏の清掃や深夜の冷え込みの中で水を使う作業はもちろん楽では無かったが、当たり前の話なので気にならなかった。

バイトを始めて一年ほど経過した頃のある日、事務所に行くと知らないオジサンがいた。

「合田(ごうだ)です」と挨拶してくださったオジサンは、聞くと私の母親と同じ年齢(当時で42歳)で、社長の自宅の近くに住んでいるらしく求職中だったところを社長に誘われて入社したらしかった。

髪は少し伸びた角刈りで、着古されたTシャツと緩めのジーンズを履いていたのを覚えている。

ふと見ると合田さんの右手の薬指と小指が欠損しているのが見えた。

角刈りで求職中で指が欠損…  私の中で合田さんの前職は非合法なジョブであり、2回もやらかしてケジメをつけさせられた人になっていた。

それから毎日一緒に働くことになったが、仕事はなかなか上達しないが人としてとても優しい人だとわかった。

ある日どうしても我慢できず聞いてみた。

「合田さん、指どうしたんですか?」

すると予想外の話をしてくれたのだった。

まだ合田さんがティーネイジャーだった頃、花火や爆竹が好きだったらしく大量に購入して分解していたらしい。

その火薬を集め、塩ビ製のパイプに詰めて大きな花火を作ろうとしていたところ大爆発したのだと、合田さんは懐かしそうな目をして話してくれた。

その際に指が2本吹き飛び、挙句当時は中核派が警戒されていたため、そのまま警察に連行されて激しめの取り調べまで受けたと言っていた。

あれから30年が過ぎ、合田さんも今は70を越えているだろう。バイトを卒業してからご縁がないが、時々ふと合田さんのことを思い出す。

今も花火を集めているのだろか。


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