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解散したバンドが好きだ!-フーバーオーバー

そこに生きていた人や作品を作った人の足跡があるのにもう二度と更新されることの無い場所は、まるで墓標のように美しく見えるのです。既に亡くなってしまった方のブログや、最終更新日がもう何年も前になりこれから動きそうもない好きだったTwitterのアカウント、そして日の目を浴びたもの、浴びなかったものともに解散してしまったバンドが残していった楽曲の数々。更新されることがこの先無いということは、現在進行形で続いているコンテンツのように並走することが出来ないので、それを追いかけるには過去に戻っていくしか方法がありません。誰かが過去に残した足跡を辿っていくのは、もう届かないところにあるものを追いかける一種のロマンのようなものを感じさせます。

フーバーオーバーというバンドが大好きです。どちらかというとマニアックで、あまり知名度が高かったほうでは無いですが、全体としてポップでキュートで軽やかな印象なのにフラストレーションが爆発するような詞から切ない恋愛を謳った詞まで、その表現の幅の広さは唯一無二のバンドと言えるでしょう。好きになってからすぐに2012年で解散してしまったことを知ります。

最初にフーバーオーバーの曲を聞いたのはベビーシナモンのCMでした。現在のキャラクターの名前である「シナモロール」は2003年に変更された物なので、改名以前のCMとなると相当昔になりますね。青背景にシナモンのぬいぐるみが耳をバタバタさせながら首を振るという謎のCMのシュールさと、フーバーオーバーの平成初期感漂う楽曲『ベビーシナモン』が絶妙にマッチしていて、何となく癖になって頭に残り続けて、他の楽曲を聴いてみることにしました。

一通り聴いてみて、やはり楽曲の雰囲気の流れがバンド活動が進むと共に変遷していっているように感じました。アルバムごとに大分異なります。最初期のアルバム、『Art.No.5』ではポップで明るい楽曲と切なく胸を締め付けるような楽曲が混在しています。『フェンダー』のようにギターをジャカジャカ鳴らすようなアップテンポで盛り上がる曲が来たかと思えば、『袖のないブルーのワンピース』では何度も「君は一人で大丈夫」というフレーズが繰り返されて段々と記憶の中の反響のように、回想のように聴こえてきます。大丈夫という歌詞がこんなに切なく聴こえる曲があると。その後に続く『ペーパーローヒール』は『袖のないブルーのワンピース』のアンサーソングではないか?と勝手に考察しています。

続いてリリースされた『A型センチメンタル』や『0.025%』ではフーバーオーバーの持ち味である明るい可愛らしさが際立ち、ポップな作風が確立されます。『まみむめも』や『雷模様』などの人気曲にそれらが現れていますね。時々落ち着いた印象の曲がスパイスとなっています。

解散前夜にリリースされた『夜明けの晩』は、暗い雰囲気のアルバムだと言われることが多いように思います。『北緯38度』などがその代表ではないでしょうか。MVでは金属を溶接する際に着けるマスクや糸がモチーフになっており、かなり不思議さを醸し出しています。曲調はダウナーな感じですがカッコイイです。過去のフーバーオーバーのように、駄々っ子のような不貞腐れた可愛さや青春の爽快感を全面に出しているのではなく、比較的大人びたミステリアスな曲で構成されており、格好良さを重視したような曲が続きます。特に『擬似逮夜』は疾走感のあるギターが好きです。ベストアルバムを除いて、このアルバムを最後にバンドは惜しくも解散してしまいます。

フーバーオーバーの新しい曲を聴くことはもう叶いませんが、初めてこのバンドの楽曲を聴いて刺さる人はフーバーオーバー無き今でも居るはずです。今ここに無いものだからこそ、メンバーはどのような人達だったのかとか、この詞は何を言わんとしているのかだとか、答えが永遠に分からないことを想像して楽しくなれるのです。

「あの時の気持ちと同じ

ここに無いものだから なおさらに

追い掛けてしまうのね」

フェンダー/フーバーオーバー



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