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何もしないくせにケチだけはつける人

前回の「マンション大規模修繕に群がる "輩"」繋がりで、今回は修繕委員会の実情と、ネガティブ発言をして頑張っている人のやる気を削いでしまう人について書いてみます。まあ、この手の人はどこでも出没しますけどね。

大規模修繕に向けて立ち上げられた修繕員会は、専門性を有する区分所有者に広く参加を呼びかけて有志を募ります。
例えば建築士や電気工事士、カラーコーディネーター、インテリアコーディネーター、リフォーム関連の仕事などに携わる人です。
そのほかにも、建築関係の仕事ではないけれど、日ごろから共用部分に不満があって是非ともこの機会に変えたいという人も参加します。私はこの口でした。

しかし一旦委員会メンバーになると、少なくとも2週間に一度は平日の夜に集まって2~3時間の会議に参加しなくてはならず、現役でバリバリ仕事をしている多忙な人の参加は物理的に不可能なので、本当に参加してほしい人にはなかなか加わってもらえません。 
加えて、望まれる人が参加しない理由はもう一つあって、実はこちらの方が深刻です。

マンション内には少なくとも3人の一級建築士がいました。でも誰一人修繕委員会に参加しません。
自分の資産の一部でもあるマンション共用部。普通に考えれば、ボランティアとは言え建築士なら積極的に関わりたいと思うはずなのにと不思議でした。

たまたま知り合いだったそのうちの一人にこの疑問をぶつけたところ、こんな答えが返ってきました。
「一級建築士と知ると何でもかんでも押し付けようとする。しかも無償で。気を取り直して頑張ったところで、気に入らなければ "プロのくせに" と平気で批判する。最悪なのは、裏でバックマージンをもらっているに違いないとひどい言葉を浴びせられる。」

この人は一回目の大規模修繕の際に修繕委員会に参加して散々嫌な思いをした経験者です。
ちなみに業界では有名人で各地を回って講演会を行うほどの実力者ですが、専門家然とした話し方をするせいか、鼻持ちならないと感じる住民もいたようです。

暴言を吐いたのは委員会メンバーではなく一般の区分所有者。工事説明会を兼ねた臨時総会での出来事でした。
バックマージン云々の暴言を吐かれた時には思わず「ここの工事で取れるバックマージンの金額なんて私の報酬に比べれば微々たるもの。そんなもののためにこんな面倒なことやるわけないだろ!」とブチ切れたそうです。

この話を聞いて、建築関係に従事しているプロがだれも委員会に参加しない理由が分かった気がしました。
でもこういう人たちも定期総会や臨時総会には必ず出席するので、決して大規模修繕の動向に興味がない訳ではなく、気にはなっているんでよね。


これと言った専門家のいない、ほぼ素人集団で大規模修繕委員会はスタートしました。
私はというと、気になっていた共有部の破損や劣化した箇所、修理が必要な箇所などを全て洗い出し、交換部材の候補となる製品や価格、納期、入手方法などを調べ上げてせっせと委員会の会議資料にまとめ上げました。

提案する製品を探す際は、今現在のイメージに限りなく近く大多数の住民に受け入れられる最大公約数的なデザインのものをと、それはそれは細心の注意を払い、かつコストパフォーマンスに優れたものをチョイスしました。

一つの製品を選ぶために、例えばロビーの壁に取り付けてあるブラケット照明の場合だと、大手数社のウェブカタログに掲載されている数百点の商品の中から一点一点吟味して最終的に候補を数点に絞り、その数点の中から委員に選んでもらえるようお膳立てをしました。
一つの製品の資料作りに数十時間を費やすることもザラでしたが、これを数十点、次々に提案していきました。

他の委員でこんな手間の掛かることをする人は誰もいません。
「それでいい、私は便利屋に徹する。とにかく今よりも資産価値が上がるように共用部分を変えることができれば!」 この思いが私のモチベーションの全てでした。

細心の注意を払ってチョイスした甲斐あって、大方の委員には受け入れられて提案は次々に承認されていきました。
それでも「安っぽい」「イメージと合わない」など主観的な理由で反対意見を言う委員はいましたし、私がその商品を推している理由を説明しても、「結局はあなたの趣味でしょ!」と片づけられる場面もありました。
まあ、そういう人に限って前向きな発言をすることはほぼないので大勢に影響はありませんでしたし、そう言われることも想定内でしたが。


ある時、外壁の色をどうするかが議題になりました。
私も是非コンペに参加したいと思い、当時の新築マンションの外壁色を片っ端から研究し、古臭さを払拭できる配色を提案しました。
最終的に施工業者、委員会メンバー、私、の3案で住民投票することになり、その結果私の案が多数決で決まったのですが、この時ばかりは嬉しさよりも「本当にこの色でよかったんだろうか」としばらく思い悩みました。

なんせ三百数十世帯の資産に影響する外壁。しかも全員が賛成してくれたわけではない配色です。
これからの十数年間、不快に思いながら過ごす住民もいるだろうなと想像すると重苦しい気分になりました。


数か月後に工事が完成し、偶然敷地内で出会った委員の一人が近寄ってきてこんなことを言いました。
「この外壁の色、気持ち悪いって言ってる人がいるよ」

さすがにこの時はものすごく落ち込みました。
やっぱりそうきたかって。

あれから9年経ちましたが、今でも外壁の色は気になってしょっちゅうマンションを見上げてしまいます。

次の大規模修繕の時期は数年後ですが、もう委員会に参加するつもりはありません。

心無いケチをつけられたせいでやる気を削がれた人、多いんだろうと思います。


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