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人を傲慢にする”先入観”の恐ろしさと、それでも素直に感動できる尊さ

夕飯までのちょっとした時間、いつものようにYouTubeの登録チャンネルを観ていたら数時間前にアップされたばかりの ”よみぃ” のストリートライブを見つけた。

プロのピアニストでチャンネル登録者数189万人の ”よみぃ” は、ストリートピアノを演奏すれば必ず声を掛けられる有名人だけれど、今回は男子高校生に扮し、楽器もピアノではなく鍵盤数が少ない自前のキーボード。
果たしてこのシチュエーションで道行く人の反応は?という企画だった。

演奏開始直後に現れたのは、高校生にひとこと言ってやりたそうな男。
”よみぃ” が演奏中にもかかわらず、横に立って話かけ始めた。

「これなにしたいの?」
「全然わかんない。なにしたいのか」
演奏の邪魔でしかないこの失礼極まりない男に対して、それでもよみぃは丁寧に
「YouTuberって今人気なんですけど、YouTuberになりたいなって思ってこれでがんばってるんですよ」と演奏しながら応える。
「いや多分YouTuberは違う。やっぱりそれで稼ぐのは多分大変。YouTuberで目立つのは違うんじゃないかな」

相手が高校生と見るや、路上ライブの演奏中にもかかわらす説教を始めた男。
仕掛け人の ”よみぃ” は想定内とばかりに適当に相手してるけど、これがもし勇気を振り絞って今日駅前で初ライブしたばかりのリアルな高校生だったら、どんなに悔しい思いをしただろうと胸が痛む。

説教男の絡みはまだ終わらない。
今度は通りがかりの女子高生に向かって
「ねぇねぇ、こいつYouTuerで稼いでいくって。できると思う?」
あぁ、どこまで最低な奴なんだ!
そしてあろうことか "よみぃ" がセットアップしたカメラに脚を引っかけてしまい、思いっきり倒してしまった。が、謝っている様子はない。
「なんかYouTuberでやっていきたいらしいよ」
通りがかりの他の誰かに、まだこんなこと言ってる。
カメラが壊れていないか心配しながら元に戻す "よみぃ"。

「でもねぇ、結局生活安定して食べていけないと。多分生活できないと思うよ」
ストリートライブで頑張ろうとしてる見ず知らずの高校生に、こんなこと言うか? 他人事ながらこの無神経男に腹が立って仕方ない。
その後も説教は続き、最後は「YouTuberがアルバイトの時給を上回ることは絶対ないから」と持論を吐き捨ててやっと退散。

相手が自分よりも下とみるや、人はこんなにも傲慢になれるのか。
相手が素人の高校生っていうだけで、ストリートライブやったりYouTuberやることがそんなに腹立たしくて、邪魔しないと気が済まないのか。
成功を収めた普段着の ”よみぃ” が大勢のファンに囲まれて演奏していたら、とてもこんなことはできないくせに。 


さすがの ”よみぃ” も出鼻くじかれてテンション下がった様子だったが、気を取り直して演奏再開。
今度は ”よみぃ” 演じる「夢見る高校生」が人を感動させて投げ銭を得るまで頑張ろうと全力で演奏を始めた。

ところがいつもと勝手が違い、直ぐには立ち止まって聞き入る人は出てこない。コンパクトなキーボードはピアノの音色や迫力には劣るが、演奏技術はいつも通り。なのになぜか。
やはり学生服を着た高校生姿ゆえ、所詮 ”ちょっと上手い高校生が演奏してるけど、わざわざ聞き入るほどじゃないな" と、人は外見から判断してしまっているのか。
一曲目が終わっても拍手はない。

ふと気づくと離れた場所でチラ見しながら "よみぃ" の演奏を立ち止まって聞いてるサラリーマン風の男性がいた。

次の曲で音色と曲調を替えると動画を撮り始める人が出現。
この辺は人を引き付けることに長けたプロならではの腕前か。
ここからは無心になって好きな曲を弾き続ける "よみぃ"。
すると次第に足を止めて聞き入る人が増えてきた。
松任谷由実の「春よ来い」の演奏中に、さっきまで遠くで聞いていたあの男性が、何も言わずアイコンタクトすることもなく、帰りがけに "よみぃ" の前でそっと千円札の投げ銭。
カッコいい!こういう大人もいるんだね。

曲が終わると、拍手している人が一人。
さらに演奏は続く。
立ち止まって聞く人が徐々に増えてきた。
千円札の投げ銭をして声を掛ける女性も。彼女はそのあとも演奏を聴き続けている。
他の男性も千円札の投げ銭。他にもコインの投げ銭する人もいた。
この頃には立ち止まって聞き入っている人がかなり増えてきた。


僅か15分程の動画だけど、外見からの先入観ゆえに傲慢になってしまう人間の嫌な部分や、本当は価値のあるものなのにスルーしてしまう勿体なさを見てしまった気がした。
だけどそんな外見でも人の心を感動させることができる技のすごさと、外見に関係なくいいものはいいと素直に感動できる人たちの多さにもホッとした動画だった。

今回のこの企画、”無名な頃の初心を忘れないように” と、敢えて厳しい環境での演奏を自分に課したんじゃないのかなと思う。

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