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尿酸のくすり

尿酸と痛風

”尿酸”といえば”痛風”を思い浮かべます。痛風発作は【風が吹いても痛い】というほど、耐え難いものです。

尿酸値は年間を通して適切な管理が必要なものですが、発作の起こりやすい季節として、春に発症しやすいという報告1)もあれば、夏に発症しやすいという報告2)もあります。

1)Acute Gouty Arthritis Is Seasonal.J Rheumatol,25(2):342-4,1998
 急性痛風 春:115人(32%)秋:90人(25%)夏:81人(23%)冬:73人(20%)
春と夏秋の比較では有意差あり。冬は最も少ない季節だった。急性痛風発作は春に有意に多い。急性痛風発作の患者では季節変動は認められなかった。
2)Seasonality of Gout in Korea: A Multicenter Study.J Korean Med Sci,30(3):240-4,2015
急性痛風 春:65人(25.4%)秋:53人(20.7%)夏:94人(36.7%)冬:44人(17.2%) p<0.001
夏の中でも6月が15.6%(p=0.002)で最も多く、悪化要因としてはアルコール(72.0%)が最も多かった。

  いずれにしても、寒い季節には発症しにくいことが予想されます。尿酸はその大半が腎臓から排泄され、一部腸管から排泄されると言われています。
 これから暑くなるシーズン、汗をかいて水分摂取をしないと脱水になり自然と出ていく尿酸の量も減って数値が高くなりやすいので注意が必要です。

あたらしい尿酸の薬の話

最近の話ですが、尿酸値についてはそれほど気にとめていなかった複数病院を受診している方から電話がありました。

「尿酸の薬ずっと飲んでるけど、尿酸値が8以上あって他の病院にかかったときに先生薬を出してくれた。この薬の効果どう思う?」

元々服用していた薬) フェブリク錠10mg® 1T/1×朝食後
           (フェブキソスタット)
新しく処方された薬) ユリス錠0.5mg® 1T/1×
           (ドチヌラド)

最新の薬を使ってきたなー、フェブリク錠の増量でもいいんじゃないのかな?

というのが最初の印象でした。まあ先生も新しい薬を使ってみたいという気持ちがあったのかもしれないですが。

次に思ったのが、「この方確か腎機能が低下してたな。ユリスは尿酸排泄促進薬だったはずだから腎機能が落ちすぎていたら効果があまりないかな」ということでした。

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ユリス錠®持田製薬資料より

腎臓の機能が落ちていても使えるのか?

腎機能の数値はこちらのような感じでした。
 血清クレアチニン1.62mg/dL、eGFR 32.7mL/min/1.73m2
  
 G3bA2の中等度~高度腎機能低下に該当しています。

ユリス錠®(成分名:ドチヌラド)の添付文書上では、
「本剤は腎近位尿細管において作用するため、腎機能障害の程度に応じて、有効性が減弱する可能性がある。特に、乏尿又は無尿の患者においては、有効性が期待できないことから、本剤の投与は避けること」「臨床試験では、eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者は除外されている

30mL/min/1.73m2未満では使ったことがないんだなということだけわかります。

類似薬のベンブブロマロン(ユリノーム錠®)ではどうなのか?

白鷺病院 薬剤科で作成している「透析患者に対する投薬ガイドライン」のData baseをみると以下のように書いてあります。
【透析患者】投与しない
【保存期CKD患者】eGFR30mL/min/1.73m2以下または血清Cr値2.0mg/dL以上の腎障害患者では原則アロプリノールを選択
 eGFR 30または50以下では効果が現れにくくなる。
このポケットブックの中でのユリノーム錠®(ベンズブロマロン)の記載は、
eGFR<60 減量の必要はないが少量から開始
eGFR<15 尿中への尿酸排泄促進剤のため尿量が減少した症例では効果が期待できないため原則禁忌
となっています。

ユリス錠®(ドチヌラド)の文献

ドチヌラドについての文献を探すと、第Ⅲ相の臨床試験の結果などが検索されてきますがまだ文献の数としては少ないです。その中で2つほど注目してみてみたいと思います。

①ドチヌラドとベンズブロマロンの有効性と安全性を比較する試験3)

【投与スケジュール:用量漸増法で14週間】
ベンズブロマロン:
 25mg/日(2週間)⇒50mg/日(3~14週目)
ドチヌラド:
 0.5mg/日(2週間)⇒1mg/日(4週間)⇒2mg/日(7~14週目)

【主要評価項目】
ベースラインからの血清尿酸値の変化率

血清尿酸値のベースラインから最終診察時までの変化率(平均値±SD):
 ドチヌラド群 45.9±11.9%
 ベンズブロマロン群 43.8±11.8% (p=0.224)有意差なし
両群間の変化率の差は2.0%(95%CI-1.27~5.37)ベンズブロマロン50mgと比較してドチヌラド2mgの血清尿酸降下作用の非劣性が確認されています。

副作用に関しても比較されていますが、両群間で副作用の発現頻度に有意差は認められていません。

3)Dotinurad Versus Benzbromarone in Japanese Hyperuricemic Patient With or Without Gout: A Randomized, Double-Blind, Parallel-Group, Phase 3 Study.Clin Exp Nephrol,24(Suppl 1):62-70,2020

添付文書上のドチヌラドの最大用量は4mg/日、ベンズブロマロンの最大用量は150mg/日(適宜増減あり)であり、用量依存的な効果と考えるとベンズブロマロンの方が最終的に尿酸値を下げる作用は強くなるのかな?という印象です。

尿酸の再吸収に関係するURAT1をより選択的に阻害し、尿酸分泌に働くOAT1、OAT3、ABCG2の経路阻害が弱いためより低用量で効果がでるとされていますが、その効果が目にみえて出てきてないなというのが正直な感想です。
(各種トランスポーターについては持田製薬資料の画像参照)

サブグループ解析として腎機能低下患者の尿酸低下の変化率もみています。
腎機能(正常:eGFR≧90mL/min/1.73m2、軽度:eGFR≧60~90mL/min/1.73m2、中等度:eGFR≧30~60mL/min/1.73m2)
軽度:
 ドチヌラド:45.9 ± 11.5%(95%CI 43.14–48.69)
 ベンズブロマロン:44.9 ± 11.4%(95%CI 42.12–47.72)
中等度:
 ドチヌラド: 46.8 ± 11.9%(95%CI 42.56–51.16)
 ベンズブロマロン:41.6 ± 12.7%(95%CI 36.94–46.43)
中等度であっても腎機能の低下の影響をほとんど受けなかったと締めくくられています。確かにベンズブロマロンは若干効果の減弱傾向がみられますが、ドチヌラドはほぼ変わりありません。

 ここまでみてくると、今回の件については、まず中等度の腎機能の低下があったとしてもフェブリク®(フェブキソスタット)は20mgまで安全に使用できると考えられるため、1段階増量がまずは基本であったのではないかと思います(中等度でAUCが4~6割増加するとされているが、最大用量は60mgとなっている)。
 また、効果不十分な場合には、増量ではなく尿酸産生抑制薬と尿酸排泄促進薬の併用という選択肢もあるのかなと思いました。現在の腎機能を考えると、ユリス錠®の単独使用を続けていくことはいずれ困難になることも予想されます。

ドチヌラド(ユリス錠®)にトピロキソスタット(トピロリック錠®)を併用した報告4)

【投与スケジュール】
非盲検,7日間,多剤併用の臨床薬理試験として実施(食事や生活環境を厳密に管理できる入院患者で実施されています)
「過剰分泌型」⇒ドチヌラド1mg or ドチヌラド1mg+トピロキソスタット80mg(併用)
「過少分泌型」⇒ドチヌラド1mg

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血清尿酸値の変化率をみたものになりますが、明らかに併用群の変化率が増加しています。
<最大変化率(減少率)>
過剰分泌型:56.86 ± 6.80%
過少分泌型:55.75 ± 4.48%
過剰分泌型(併用群):68.19 ± 7.70%

副作用発現率についても、ドチヌラド単剤療法とトピロキソスタット併用療法の間に臨床的に有意な差は認められていません。

4)The Effect for Hyperuricemia Inpatient of Uric Acid Overproduction Type or in Combination With Topiroxostat on the Pharmacokinetics, Pharmacodynamics and Safety of Dotinurad, a Selective Urate Reabsorption Inhibitor,Clin Exp Nephrol,24(Suppl 1):92-102,2020

さいごに

 日本人の高尿酸血症の主な原因は尿酸排泄量の減少と考えられていますが、生活習慣や環境要因によって、「過少分泌型」から「過剰分泌型」に移行する場合なども考えられ一概にその要因を限定することはできません。個々にあわせた適切な薬の選択が大切となってきます。

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