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食欲にかかわること

 高齢者の”食べられない”という話は外来でもよく聞く話ですが、最近知り合いでも病気による影響はありますが食欲が低下し体重減少がみられている方がいたので食欲について少し考えてみたいと思います。

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食欲

 食欲がなくなるということは、食べ物を摂取したいという生理的な欲求が低下、または喪失した状態を指します。【食欲低下】【食欲減退】【食欲不振】【食思不振】等様々な呼ばれ方をします。

 原因としては、生理的な問題精神的な問題病気による影響薬による影響などいくつも考えられるため、まずは急性期の疾患がないかどうかの鑑別診断が必要となってきますが、薬剤師としてはやはり薬に焦点を当ててみていきたいと思います。

”食べたいのに食べられない”のか、”食べない”のか
・例えば、嚥下機能低下により誤嚥を繰り返してしまうことは食べたいのに食べられないに該当する
・加齢による生理機能低下併存疾患精神状態によるものは食べないに該当する

口腔内環境(食べたいのに食べられない)
口の中の乾燥、味覚障害、口腔カンジダ、口内炎、嚥下機能など

疾患による食事制限(食べない)
心不全、肝硬変、慢性腎臓病、糖尿病などの慢性疾患
塩分制限、蛋白制限、糖分制限などで食事の味が低下

食事の環境(食べない)
食事の見た目、食器の提供の仕方、食事の匂いや温度、食べる姿勢、品目、食事をする周りの環境(誰とどんな環境で)
※これらを見つけるためには、実際に食事をしている状況をみるのも大切

薬剤性(食べない)
高齢者のポリファーマシーによる薬剤性の食思不振

併存疾患鑑別(食べない)
体重減少をきたす疾患の上位を占める悪性腫瘍の鑑別
(血算、肝機能、腎機能、甲状腺機能、血糖、鉄動態、炎症反応、尿検査、便潜血、胸部X線、腹部エコー)

【参考資料】食べられない高齢者のコンサルタント依頼を受けたら,medicina,vol.57,No.5,pp754-756,2020

食欲にマイナスに働く薬、プラスに働く薬

 食欲低下をきたす薬もあれば、逆に食欲を増加させる薬もあります。それぞれどういった薬があるのかみていきたいと思います。

【参考資料】特 集:高齢者の栄養管理 そのポイントとup to date,静脈経腸栄養,Vol.22,No.4,pp465-9,2007

食欲にマイナスに働く薬

こういう薬が含まれていないか考えてみることが大切です。

これらの単独服用よりも組み合わせて服用された(併用された)場合の方が上部消化管障害のリスクは高かったと記載されているものもあります。

(薬剤による消化管粘膜病変87例の検討,日本消化器内視鏡学会雑誌,Vol.38,No.5,pp.1220-1229,1996)

1) 消化管障害を起こしやすい薬

①非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS:解熱鎮痛薬)
 シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)を介するプロスタグランジンの産生が抑えられ、胃の血流低下、胃の粘膜障害がおこる。常に強い酸にさらされている胃・十二指腸においてはしばしば障害となり食欲低下につながります。
抗菌薬
 主に粘膜血流障害に伴う粘膜防御機能の低下により、粘膜障害を起こします。テトラサイクリン、クリンダマイシンなどは就寝前に水を十分にとらずに服用すると、食道潰瘍を起こすことがあります。
③ビスフォスフォネート系薬剤(骨粗鬆症治療薬)
 服用後食道にとどまると食道潰瘍のリスクがあると言われていますが、食道以外にも胃のもたれや痛みを訴える方もいるため、胃・十二指腸潰瘍の発生にも注意を要する薬です。
④経口糖尿病薬
 経口糖尿病薬に関しては、ビグアナイド薬であるメトホルミンやDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬(ビクトーザ注など)などは服用開始時に胃のもたれや悪心、下痢、便秘といった消化器症状がでることがあり、これが食欲低下につながります。
④カリウム製剤
 今は供給が不安定になっているのであまり処方量としては多くありませんが、徐放性カリウム製剤(スローケー)は小腸で放出されるよう設計されているため、粘膜への直接障害により小腸潰瘍を引き起こす可能性があります。

NSAIDSとステロイド、抗菌薬で胃粘膜障害の約8割を占めるともいわれています。

2) 悪心・嘔吐、食欲不振を起こしやすい薬

①オピオイド(痛み止め)
 延髄の最後野にある嘔吐に対するCTZ(chemoreceptor trigger zone)のドパミンD2受容体を活性化させ、CTZを直接刺激することによって悪心・嘔吐といった症状がでます。
②抗がん剤
 言うまでもなく、抗がん剤の種類によりますが、悪心・嘔吐が見られることがあります。
③選択的セロトニン再取り込み阻害薬
 うつ病だけでなく時には鎮痛補助薬としても使用される「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」であるフルボキサミン(ルボックス®)やパロキセチン(パキシル®)は、消化管の5-HT3、5-HT4受容体に作用することによって腸管の過剰な活動や、迷走神経を介した刺激により胃腸障害を引き起こすと考えられています。
④ジギタリス
 ハーフジゴキシンやジゴキシンといったジギタリス製剤を適切な量で服用している限りは胃腸症状が出ることはほとんどありません。しかし、高齢者などでは腎機能が低下している場合があり、腎臓から排泄されていくジゴキシンがきちんと排泄されなくなると過量となり、その症状として悪心、嘔吐、食欲不振、倦怠感などがみられることがあります。
⑤鉄剤
 
原因は胃内で放出された遊離鉄によるものといわれていますが、個人差がある症状になります。

 胃にやさしい鉄剤もあるので、症状が出る方は鉄剤処方の際にはそういった選択も必要となってきます。参考に鉄剤について記載したNOTE載せておきます。

3) 便秘を起こしやすい薬剤

①抗コリン作用薬
 ムスカリン受容体を遮断することで腸管蠕動運動を抑制し便秘を起こすことが知られています。抗コリン作用は他にも口の渇きや眠気、胃部不快感など様々な症状に関連してくるため特に注意が必要です。
 定型抗精神病薬(フェノチアジン誘導体)、抗パーキンソン薬、三環系抗うつ薬、抗不整脈薬、選択的ムスカリン受容体拮抗薬など他にもたくさんありその該当薬剤は多岐にわたるため、その都度確認が必要です。
②イオン交換薬(コレスチラミン)
 腸管内で膨張し、大腸において水分が吸着され内容物が硬くなることや、胆汁酸が吸着されることにより、大腸での水・電解質の吸収調節作用が阻害され便秘が起こります。
③オピオイド
④抗がん剤

4) 下痢を起こしやすい薬剤

①抗がん剤
②抗菌薬

5) 抗肥満作用のある薬剤

 防風通聖散は、少し難しい作用機序から全身代謝が長く亢進し、強い体重減少が起こると考えられています。また、小林製薬の2018年4月4日のニュースリリースの内容では、「余分な脂質を便と一緒に押し出す効果」がうたわれています。主に「糞便量を増やす」効果、「便中への脂質およびコレステロールの排泄量を増やす」効果があるとされています。

6) 味覚障害を起こしやすい薬剤

 薬剤性味覚障害の発生機序については、明らかになっていないことが多いですが、チオール基、カルボキシル基、アミノ基を有し、5員環、6員環キレートを作る構造式を持つ薬剤は、亜鉛キレートを起こしやすいと言われています。

〇亜鉛キレートを起こしやすい薬 (資料より抜粋)

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冨田 寛,薬剤と味覚・臭覚障害,臨床と薬物治療,Vol.7,pp.277-282,1988

薬剤性味覚障害については古い資料になりますが、厚生労働省より資料が出されていますので一度確認してみてください。
重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤性味覚障害:厚生労働省

これをみると、添付文書に「口腔内苦み」や「味覚障害・味覚異常」の記載がある薬はA4 11ページにわたってあり、多くの薬が該当することがわかります。

卵胞ホルモン製剤(エストロゲン)、ア リナ ミンF、ビ タミンE製剤、ビ タ ミンB12や人参の入った漢方薬の単独使用でも胃症状を訴えたとの報告もあることから、これらに含まれていないからと言って安心ということはありません。
(薬剤による急性胃粘膜病変,CYTOPROTECTIONSYMPOSIUM TAISH0-Ⅱ1987;50-70.)

食欲にプラスに働く薬

食欲を増進させる薬はいくつか報告としてありますが、補助的に使用されている一部を紹介していきたいと思います。

リハビリテーションの栄養管理における薬剤師の役割,静脈経腸栄養,Vol.26,No6,pp.1345-1350,2011

塩酸シプロヘプタジン(ペリアクチン®)

 中枢における抗ヒスタミン受容体の働きとして、食欲抑制がありますが、これに拮抗することで食欲増進につながります。

スルピリド(ドグマチール®)

 ドパミンD2受容体遮断作用によるものと考えられており、ドパミンによって作用が抑えられていたアセチルコリンの遊離により、消化管の運動が活発になります。ほかにも、メトクロプラミド(プリンペラン®)ドンペリドン(ナウゼリン®)といった薬も同様です。
 この系統の薬では、錐体外路症状がみられることがあるので、副作用の初期症状(手足の震えや身体のこわばり、ろれつがまわっていない、よだれ、食べ物や水分の飲み込みにくさがある等)の観察が必要です。

ステロイド(デカドロン®、リンデロン®)

 ステロイドには炎症をおさえる作用以外に、食欲亢進ペプチドの活性化により食欲を増加させると考えられています。疾患の状態にもよりますが、短期間でとどめるのが一般的です。

オランザピン(ジプレキサ®)

 複数のランダム化試験では、抗精神病薬のオランザピンが体重の回復に役立つことが示唆されています。セロトニン、ヒスタミン、ドパミンの作用が関連していると考えられていますが、詳細は不明です。用量としては、2.5mg~10mg/日での使用がすすめられています。

Olanzapine in the Treatment of Low Body Weight and Obsessive Thinking in Women With Anorexia Nervosa: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial,Am J Psychiatry,165(10),p.1281-8,2008
神経性食欲不振症(N = 34)の患者を無作為にオランザピンとプラセボに割り付けされました。プラセボに比べて、大きな体重増加率、目標ボディマス指数の早期達成、および強迫症状のより大きな減少率をもたらしました。副作用の発現率に違いはありませんでした。
Olanzapine Versus Placebo for Out-Patients With Anorexia Nervosa,Psychol Med,21(10),p.2177-82,2011
神経性食欲不振症(N = 23)の患者を無作為にオランザピンとプラセボに割り付けされました。プラセボに比べて、治療後のBMIは有意に高かった。副作用としての鎮静はみられました。

副作用として、高血糖(血糖値への影響)が報告されていますので注意が必要です。また錐体外路症状もみられることがあるため初期症状の発現の観察が必要になります。

リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾールなど、オランザピン以外の抗精神病薬が神経性食欲不振症の体重の回復に役立つというデータは今のところはないようです。

ここまでは薬のこと

 今後、食欲低下がみられた場合には薬剤性も疑いつつ患者さんに接してみたいと思います。ここまでは薬を中心にみてきましたが、食欲低下から派生するサルコペニア・フレイルとの関係についてもみていきたいと思います。

 食欲が低下して食べる量が減っている場合には高カロリー食品もうまく利用して体重の維持に努める必要があります。

食欲低下とサルコペニア

サルコペニアについて

 今後予想される超高齢化社会において近年、サルコペニアフレイルといった言葉を耳にする機会が増えてきました。サルコペニアは、加齢に伴い骨格筋が委縮し、筋力低下又は身体機能の低下を伴うときに診断され、転倒、骨折のリスクが高くなるだけではなく、糖尿病、腎臓病をはじめとして様々な疾患の発症・進展リスクを高め、生命予後や心血管イベント発症とも関連していると言われています。最近ではダイナペニア(Dynapenia)という言葉も登場し、「握力は弱いが筋肉量の低下がないもの (握力低下あるが、筋肉量を測定すると正常)」という方をこう呼んでいます。言い換えると、「筋肉の量」はあるが、「筋肉の質」が低いということが言えます。

サルコペニアの診断

 筋力低下を重視したEWGSのサルコペニアの診断基準が最近発表となっています(EWGSOP2)
(参照:日老医誌 2019;56:227―233
 アルゴリズムについてはリンク先の内容をみてもらえるとわかると思いますが、筋肉の質という部分まで評価する内容となっていると思います。ただし、日常外来診療においてこの内容に基づいて診断することは難しいことから、一般診療で特別の器具なく疑いの診断が可能となっている(下腿周囲径+握力など)、アジアの診断基準である「AWGS2019」が用いられることもあります。

薬局の中でのサルコペニア

 日々の仕事の中でも、年齢を重ねるとともに食事量が減り、体重が少しずつ減少していく患者さんは多くみられます。3食きちんと均等に食べることだけでなく、間食をとることで摂取カロリーを増やそうとしても「なかなか摂れない」という話もよく聞きます。

 医療の中で考えると、経腸栄養剤である「エンシュア・エンシュアH」「ラコールNF」といったもので補うという考えもあると思いますが、これが処方される時には既に食欲が落ちてしまっていることが多くあります。

 筋力を落とさないための食事方法を栄養士さんと相談しながら色々試みていますが、「これだ!」という名案は思い付かないものです。

サルコペニアを予防するために

高カロリー食品

現在薬局ではいくつか高たんぱく、高カロリー食品の取り扱いがあります(一部下画像)。

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しかしどれも+αで食べる必要があるものばかりでした。今回、いつもの食事に少量添加するだけで、エネルギーとたんぱく質を効率よく摂取できる【明治栄養アップペースト】を栄養士さんに教えてもらったので、患者さんにすすめる前にまずは自分で実際に食べてみることにしました。

明治栄養アップペースト

商品はこちらです。

おおさじ1杯(15g)で、エネルギー100kcalたんぱく質3.5gがとれます。

1本165g入っているので、100kcalを11回分とれる計算になります。

これくらいの量だと思います。

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塩分も少なく、カリウムも表示上は含有されていないため、高血圧や蛋白質制限がないCKDの方にも勧めやすい食品ではないかなと思います。

実食

そのまま食べてみると、見た目はシュガーバターがチューブに入っていたような外観で、食感は少しジャリジャリしてミルクっぽいクリーミー感と中鎖脂肪酸(MCT)が入っているためか少し脂みを感じました。

まずはコンソメスープに混ぜてみると

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左が加える前、右が加えた後です。

思っていた以上に見た目が変わったなという印象ですが、パンフレットでも大さじ1杯加えるのはハンバーグに混ぜるなど外観がわかりにくいものに限定されていました。みそ汁では大さじ1/2杯、おかゆでは小さじ1杯といった感じです。

実際に食べてみると、ややクリーミーで脂みがついたなという感じはしますが、もとの料理の味は保たれていました。見た目の問題さえ解決すればコクが増してむしろ美味しくさえ感じました。

次はもっと色見の濃い汁(コーンスープやみそ汁など)で挑戦してみたいと思います。

次に、パンフレットではおかゆでしたが、ごはんにものせてみました。

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さすがに、水気がないと「ごはん」と「ペースト」それぞれの味が個性を主張してきます。アツアツの炊き立てご飯に乗せればもしかしたら溶けていい具合になるのかもしれませんが、少し冷めたごはんでは失敗でした。

さいごに

今回実食してみて、大雑把な味の雰囲気はつかめたので、今後栄養士さんと話をしたり、患者さんにすすめていく中でどういった料理に混ぜるのが適当なのかも検討していければいいと思っています。

まずは、体重減少がみられる高齢者の方の「体重減少STOP!」を目標にしていきます。

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