逢坂

物語に関わって生きていたい人間。 書くのも好きだが、読むのはもーっと大好き。 シナリオライター・漫画原作者・作家でもあり。紙の本を出したい。

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物語に関わって生きていたい人間。 書くのも好きだが、読むのはもーっと大好き。 シナリオライター・漫画原作者・作家でもあり。紙の本を出したい。

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商業実績(他名義含む)

当方の主な商業実績です。 ■小説 ・『間諜の姫君 〜愛されない姫が、潜入先の皇子に見染められました〜】(ニャンブックス) □漫画原作 ・『しなきゃいけませんか。』(漫画:榎のと)全4巻 (スクエア・エニックス)配信元:ガンガンONLINE ・『初恋契約婚 〜年下御曹司に12年間溺愛されてました〜』 app.peep.jp/stories/0HMVy5ZVu0hQwdzO?utm_source=twitter_share%26utm_medium=web ◇シチュ

    • 忘れ物は取りに戻りましょう 【第二十一話】

       そんな理久の顔を覗き込むようにしていた泉に気づき、ぎょっとする。 「な、なに」 「本題なんだけど」 「は? 俺はむしろ今のが本題で」 「バイトをしない?」 「はあ?」 「お金に困ってるんでしょう?」 「あんた、失礼って言われないか」  思わずムッとして言い返すと、泉は心なしか身を縮こませた。なのに無表情なのは一切変わらないものだから、特に反省しているようには見えない。 「言い方が悪かった。……お金が必要なんでしょう」 「全然変わってないんだけど」 「とにかく、今のわた

      • 忘れ物は取りに戻りましょう 【第二十話】

         思わず泉を見ると、彼女は逃げるように瞼を伏せた。そして続ける。 「あなたたち兄妹がかくれんぼをしようと話していたのが、おじいさまの家の庭だった。あの子はそこにいたの。だから誘われたと思って、大喜びで参加した。あなたに見つかりそうになって、とてもわくわくしたそうだよ」 「……つか、なんで霊に……」 「それは本人も覚えてないみたい。……でもあなたは倒れて、かくれんぼはお開きになった。あの子も幼いからわけがわからなくて、ただずっと待ってたの」 「ずっとって」 「あなたにとっては

        • 忘れ物は取りに戻りましょう 【第十九話】

           だが、身を乗り出しかけた理久とは違い、泉は無表情のままだ。  バツが悪くなり一度視線を逸らすと、軽く咳払いをしてから椅子に座り直す。 「……で。なんだったんだよ昨日のアレは。説明のために呼びつけたんだろ?」 「わたしも確認したい。あなたはどこまで見えていたの」 「は?」 「異変と恐怖を感じていたことは知ってる。でも、何が見えていたの」 「何が、って……」  理久は悩んだ。どこから話せばいいのかわからない。というか、どこからが現実なのかもわかっていない。ずっと夢だと思って

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        商業実績(他名義含む)

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十八話】

           汗をかいたアイスコーヒーのカップが半分以上なくなったところで、理久は信号の向こうから一際目立つ女を見つけた。  身長がどうとか顔がどうとか、そういうことではない。全身真っ黒なのだ。正直、葬式帰りと言われたら信じてしまうほどに黒い。腰まで伸びた長い髪も黒いものだから、顔がぽっかりと白く浮かんでいるようにさえ見える。メイクが濃いという印象はなかったはずだから、地肌が白いのだろう。悲しいかな、理久はそれが悩みだ。  その女は一瞬だけ理久と視線を合わせると、1ミリたりとも表情を変え

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十八話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十七話】

             今劇団が使用している稽古場から、徒歩十分にあるカフェ・ラドリー。  理久は指定された十四時の五分前に到着し、テラス席へと案内されていた。  天気の良い日に外でコーヒーを飲むのは嫌いじゃない。とは言っても、今はとにかく待ち合わせ相手が来ることが待ち遠しく思っていて、じっくり味わう余裕はなかった。  とは言っても、楽しみで待ち遠しいわけではない。    昨日の夜、幼い子どもの手が現れて理久の手を握り、そして消えた。  次の瞬間にはよく知る理久の部屋に戻っていて、例の1.5

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十七話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十六話】

           その途端、割れんばかりに耳の奥で響いていた蝉の声が止む。波がさあっと引いていくように、かと思えば砂浜に突っ込んだ足元を波がさらっていくかのように、どこか惜しいと思ってしまう不思議な感覚が理久を襲った。  顔を上げると、漆黒がこちらに迫ってくる。迫ってきているのに、先ほどまでの寒気はすっかり引いていた。引いているのに間違いなく指先は冷えていて、冷気はそのままであることに気付く。  ざあっと音がして、自分以外のすべてがいなくなってしまったような感覚。  思わず隣を振り向くと、イ

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十六話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十五話】

           目の前の漆黒が、途端に祖父母の屋敷に戻った気がした。  蝉の声がうるさい夏、広くて長い廊下を妹を探すために自由に駆け抜ける幼い俺がチラチラと見え隠れする。そんなはずはないと思うのに、耳の奥に一際大きな蝉の声が響いた。  理久が放置していたはずの生活用品が一切取り払われてしまった漆黒の向こうに、微かに摺りガラスの存在を感じる。そんなはずはないと思うのに、現実の理久の目にも漆黒以外は何も映っていないのに、「いる」と感じるこれはなんなんだ。  冷たい手が、再び──今度は、理久の袖

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十五話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十四話】

          「……なんだよ、この声。子どもだろ、どう聞いても」  イズミを見ても、感情の見えない瞳で見つめ返される。 「なあ、どういうことだよ」 「だから早く開けてって言ってるの」  否。  感情がわからないのではなく、理久には汲み取れなかっただけらしい。彼女はドアを指さして、長い右脚を振り上げたと思ったらダンッと踏みしめた。 「ちょっここ賃貸の廊下」 「これ以上はわたしにもどうしようもできなくなる」  乱暴ともいえる振る舞いとは真逆の、努めて冷静とも聞こえる声。  気圧される

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十四話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十三話】

           理久は車を持っていない。免許は大学一年の夏休みに取ってはおいたが、使うタイミングがないまま今に至っている。劇団で移動する際にはいつ運転の順番が回ってくるかヒヤヒヤしたものの、他でもない伊丹が車好きのため、その機会はしばらくなさそうだ。  そういった理由からアパートの駐車場を契約していないのだが、そう言うとイズミの眉間に僅かに皺が寄ったのがわかった。その顔のまま近くのコインパーキングを検索し、降りる時には「貸しひとつ」と呟かれた。  迷いなくアパートへ向かうイズミのあとを追う

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十三話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十二話】

           運転席の女──自称イズミは、ただの一度も理久を見ない。  今は運転中だからということではなく、これまで出会った人間──誤解を恐れずにいえば、外見上女性に分類される相手には必ずと言っていいほどマジマジ見られるのが普通の人生を歩いてきた理久にとって、かなり違和感のあることだった。  時には億劫であり、時には物事をスムーズに進めるのには手頃な自分の顔を、理久はそこまで嫌いではない。なにせ、劇団に入れた理由でもある。  中学生の頃は面倒に巻き込まれがちだったこともあり大嫌いだったが

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十二話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十一話】

          「な、ていうかこんな時間にこんなとことかおかしむぐぅ!?」  女が目の前に迫ったと思ったら、冷たい手のひらで口を塞がれた。 「ギャアギャア喚くなと言ってる」  冷や汗が首筋を伝っていく。女は声をあげることなく、ただ静かに、呟くように落としただけだ。それでも理久はただコクコクと首肯するだけの人間となった。  いわゆる美人だとか可愛いだとかの部類に入る顔が目と鼻の先にあっても、ときめきなんてものを微塵も感じることはなかった。初めて見た時も思ったが、美術品という表現が適してい

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十一話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十話】

          「あたしが怖いなって思ったのは、おにいのソレかも」  友夏が理久を指さす。綺麗にネイルされたその指は、タオルケットを示していた。 「さっきソレに丸まってたじゃん? あの時もさ、夏休みだっつーのに、家に戻ってからもおにいってば分厚い毛布ひっぱりだしてきて、身体全部隠して震えてたんだよね。だから思い出した」 「……へー」 「おにいは覚えてないの? けっこーな事だと思ったんだけどなー」 「あー……なんとなくは?」 「ははっ、あやふやすぎ」  理久は精一杯軽口になるよう表情を作

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第十話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第九話】

             理久の顔を見た友夏は、ペロッと舌を出した。 「今おにいが考えてることわかるよ? 小学生で一緒にかくれんぼとかしてないじゃんってね」 「……ん、まあ。だってそうだろ」 「そもそもね、小学生よりちっちゃい頃のこと何にも覚えてないってわけでもなくて、でもぼんやりしてて曖昧って感じなの。てか、何にも覚えてなかったらそれはそれでホラーじゃん」 「あぁ、まあ」 「そんでね。すーごいちっちゃい時に、あのでっかい屋敷でおにいとかくれんぼしてたのだけは妙に覚えてんだよね。ピンポイントに

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第九話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第八話】

           そんな友夏が「そんなんじゃ舞台立てないよ」と言った。それほどまでに理久の顔色やクマが悪いのだろう。理久自身はそこまでの危機感を覚えていなかった。  黙ったままソファベッドに寝転んだ理久を見下ろし、友夏は小さくため息を吐いた。ベッドへ向かう足音と、座ったらしい軋んだ音が聞こえた。 「電気消すよ」  訊ねた友夏に、理久は反射的に言いかけてしまう。 「やめ――」 「は?」  その声に我に返った理久は、タオルケットを掴んで身体を包む。 「ワリ。いーよ、消して」 「………」

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第八話】

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第七話】

           何度かコールをくり返した末、数週間ぶりに聞く妹の声が返ってきた。 『なに?』 「開口一番それかよ」 『普通に怖いもん。実家でなんかあったとかないよね』 『だとしたら真っ先にかかってくんの友夏だろ』 『おにいでしょ。ていうか今の時間わかってる?』 『え?』  理久は改めてスマホ画面を確認する。 『……二時十分、だな』 『ふざけてるよね』 『悪い』 『まーいいよ。おにいが何もなくて深夜にかけてくるはずないっしょ。女にでも追い出された?』 『同棲してる彼女なんかいねぇよ』

          忘れ物は取りに戻りましょう 【第七話】