074 『ガールズバンドクライ』、劇中曲「空の箱」
ガルクラで最初に聞く曲と言えばOPの「雑踏、僕らの街」。しかし映像の出来栄えからトゲナシトゲアリになって事務所とレコード会社が決まり、金をかけたPVと思われる。
だから劇中で考えると、桃香さんの弾き語りの「空の箱」が最初と思われる。終わった後の仁菜ちゃんとの会話から桃香さんがいたダイヤモンドダストの持ち歌であり、仁菜ちゃんが聴いたのは桃香さん自身による弾き語りバージョンと(視聴者に)明かされた。しかし後日同じ場所で、仁菜ちゃんが桃香さんを入れた即席のバンドで歌ったバージョン、桃香さんの弾き語りとは明らかに違いがある。桃香さん一人では歌いたいように歌っていると思われるが、本来のダイダスバージョンに近いと思われる即席バンド版、仁菜ちゃんの歌い方は日本語としては不自然な部分がある。
やけに白いんだ
やたら長いんだ
コタエはだいたい
カタチばかりの常識だろう *1
の出だしからすでにその片鱗がある。しかし次、
指先が震えようとも *2
は、結構自然で、また次の段落から「ひっかかり」がある。
地図にない三叉路に今ぶつかっているのですが
何を頼りに進めばいいのでしょうか
教科書通りとはよく言ったもので
難しいことばだらけ
今日あの頃から少しも変わらない *3
そしてまた「自然に」聴こえる。
この空欄を埋めれば解けますか
あなたならどうやって先へと進みますか *4
どういうことか、この「空の箱」の曲、英語の部分と日本語の部分が混在しているとしか思えないのです。音楽の授業を受けた中学までは歌うか聴くかで音楽理論を教わったことはなく、その国の言葉の抑揚や音程を逆らわないのが歌いやすい曲の作り方と知ったのはテレビかラジオか、高校を卒業した後だったはず。
そう思って聴いていた日本のロックで確かめれば、ザ・スターリンだってINUだって、まさにそれに当てはまってると気づきました。もちろん当時の流行曲も。私が例示できるのはアニソンですが、例えば「タッチ」も一音一音立て続けにつらなり、しかもあまり抑揚のないこと、正に日本語。
しかし「空の箱」の*1、日本語としては大袈裟な抑揚と伸びがある。*3は抑揚は平坦だけど、単語を連ねて歌うサビ以外の部分の洋楽の歌い方に思えて仕方ない。そして*4は無理のない日本語の歌い方。仁菜ちゃんの横で弾いて満足げな桃香さんの表情は、これが本来の「空の箱」だ、歌い方だ。
第一話、仁菜バージョン
ならば桃香さんの弾き語りバージョンはと言うと、メロディは同じでも楽器は自分が弾くエレキだけだからか、抑揚が原曲に近いはずの仁菜ちゃんバージョンほど強調されていない。多分脱退したあとだから、ダイダスの時分ほど元気に歌えないことも原因してると思う。
空の箱、桃香さんバージョン
では新ダイダスバージョン。テンポやメロディは原曲を留めてるけど、抑揚がなくなって日本語の歌い方になってる。しかし私見を言うとロックでは警告音として使える高音が目立っていない。高音は不安を掻き立てるロックの常套手段だけど、演奏の音階が全体に高音よりなので、ロックとしての高音の役割がなくなってしまってる。
「ETERNAL FLAME ~空の箱~ ダイヤモンドダスト」
新ダイダス版はもう一種類ある。設定としてはスタジオ録音盤で、上記ではまだ残っていた英語の歌い方が殆どなくなり、全編日本語のメロディ、アクセントに置き換わってる。演奏は低音もあるから高音が目立つけど、不安をあおる部分は少ない。それにあたると思われるのは、
これ以上 かき乱しても明日はない
からの間奏から、
空っぽなんだ ひとつも無いんだ
無くなったのか 始まったのか分からないけど
まで。そこに桃缶なき、新ダイダスの意地を見るのでした。
「空の箱 (ETERNAL FLAME: VOID)」
さてここまで、音楽理論を学んだわけでもないのにガルクラの一曲を何とか論じようとしたのは、「空の箱」と似たテーマの結束バンドの一曲、「忘れてやらない」を論じたかったから。最初は二曲を一セットで一本の記事にしようと思ったのですが、「空の箱」だけで手一杯と想定し、「忘れてやらない」は後回しにしたのでした。何故今回に限ってぼざろよりガルクラを先に論じたのか、それは結束バンドの曲名がガルクラのサブタイだったら面白いと思ったからで。その中でも「忘れてやらない」、ガルクラの最終回にぴったりと思えるのです。
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