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頁6「入ってます!」

救命講習に参加した。
心肺蘇生法やAED の使い方など、座学と実技をそれぞれ90分みっちりと。

ずいぶん前にも受けたことがあるけれど、やり方を覚えているかすぐに自信がなくなるので定期的に受けるのがいいのだろう。

実技では4人一組になって、実習人形の命を預かった。
心臓をいい塩梅で押せているか、人工呼吸は肺まで空気を適量届けられているか……実習君の右脇腹からコードで繋げられたメータ― でそれらを計測できるのだが、教官が「やる本人はそれを見ないように! 実際の現場にメータ― はないですよ? 今日はチームメイトが見て、出来ているか教えてあげてね」と口を酸っぱくして言うのだった。

なので、実習君の心臓を、教えられるままに♪もしもしカメよカメさんよの歌に合わせて30回押し、鼻をつまんで顎を押し上げ気道を確保してむんずと空気を吹き込んでいるあいだ、他の3人のチームメイト(男男女)が「もう少し下!」「もっと強く!」などと甲斐がいしく教えてくれる。

そんななか、皆んな難儀するのが人工呼吸で、本人は頑張っているつもりでも、なかなか肺に空気がうまく入って行ってくれない。実習君の顎の角度や息を吹き込む強さが足りていなかったりして。訓練用のクリアシートを被せているので、うまく口が合わせられていないのも原因だったり。

それでも頑張るメイトたち。私も当然頑張る。いつかこの実習君が、本当の誰かになるかもしれないのだ。

一秒吹き込んで、一秒様子を見る。
また吹き込んで、様子を見る……。

「入ってます!」

チームメイトが肺にちゃんと空気が入っているか教えてくれる。

「入ってます入ってます!」

……嬉しい。
なにかを頑張って、それを誰かが見守ってくれてて、うまく出来たら、よくやった!と労わんばかりに知らせてくれる。

なんて嬉しいのだろう。こんなことって普段ないもの。

もしかしたらたぶん……遥か昔に、初めて立ったときとか? 補助輪なしで自転車乗れたときとか? 以来じゃないだろうか?


「入ってますよ!」

そう言ってもらったときのすこしこそばゆい気持ちを思い出すと、何度でも胸いっぱいになる。

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