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『ピン留めの惑星』|大島智衣

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漫画家つきはなこさんとのマガジン『ピン留めの惑星』の大島智衣編
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#マガジン

可憐

(*本編は最後まで無料でお読みいただけます) 「ねぇ中澤さん、友達にならない?」 そう後ろの席の中田さんから言われたのは、高校に入学したての春だった。 澄んだ清らかな声だった。 友達というのは、そんな風にしてなるものだったろうか? すこし違和感をおぼえたけれど、私は中田さんと友達になってみたくなった。 見るからに可憐で、育ちの良さそうな中田さんと、じぶんが合うとは思えなかったけれど、憧れがまさった。 * 中田さんの後ろの席には、中田さんが私立の中学から一緒で仲の良

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うたた寝

(*本編は最後まで無料でお読みいただけます) 隣のデスクでうたた寝を始めてしまった小田島さんを起こさないように、分厚いASKULのページをそっとめくった。寝息がここまで聞こえてくる。 ひとが本当に寝入ったかどうかは、だいたいは呼気でわかる。 「すう」と深めに吸ったあと、「すっ」と息が勢いよく吐き出されると、そのひとは眠りに落ちている。 私はそれを、こんな風に隣で居眠りをする小田島さんの寝息で知った。 今日もオフィスは午前中から人が出払っていて、この空間には小田島さんと私

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受粉

*本編すべて無料でお読みいただけます 村上くんに彼女がいることを知ったのは、ふたりとも早番上がりで「軽く飲んでく?」と寄った先のバルのカウンターで、どの動画配信サービスを契約しているかをお互いに言い合っていたときで、村上くんが「僕はアマゾンプライムと、Huluと……あとNetflix。や、Netflixは彼女のか」と言ったそのときだった。 なんだ彼女いるのか。 口には出さなかったけど、それに、全くそこには食いついたりしないでスルーしたし、なんにも気にしていないフリをした

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strawberry candy

信号待ちをしていると となりの親子連れの小さな女の子が 「青にな〜あれ! 青にな〜あれ!」 と 赤信号に向かってしきりに大きな声でさけんでいた 「こうやってると 青になるんだよ」 彼女は得意げに 嬉しそうに 母親にそう教えてあげていた そうなのか 赤信号はそうやって 青信号に変わるものだったのか──── 小さな女の子は その〈魔法の呪文〉を 懸命に 願いを込めて 唱え続けていた 私は 青になってほしく なかった 願えば届くなら ずっと赤信号のままでいて

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