あるはずのポケット
通勤のため特急列車に乗ったら、前の椅子の背もたれに本来ついているはずの切符入れのポケットがぶちとれていた。ポケットがあったはずの場所には接着の名残りだけが残っている。ポケットは透明のビニール製なので、パッと見無くなっていることに気がつかない。一瞬のタイムラグを経て「ない」と認識するに至り、その過程がより腹立たしさを増加させる。
この列車を使っているとたまにあることではあるのだが、ちょうど気分が鬱々としていたこともあり、「あーあ!切符も入れさせてもらえないのか!」と少々不貞腐れた気持ちになってしまった。自由席だし乗客も多くなかったので席を移ればいいのだけどその気力も起きず、上着のポケットに切符を突っ込んでふて寝する。あー、くそ、くそ。なんだこれ。やってられるかよ。ばーか。ばーか。
投げやりな気持ちでアラームもセットせずに眠ったのに、きっちり降りる駅の前で目を覚ました。その小ぢんまりとしたスケール感にもイラつきながら仕事に向かう。もし帰りの特急でも切符入れが取れていたら暴れてしまうかもしれない。列車で暴れる30代後半の男。なんとまあ凡庸なニュースだろうか。ああ、あのパターンね。知ってる知ってる。アナウンサーも退屈そうだ。
そんなこんなで仕事に向かい、なんやかんやで仕事を終えて帰りの特急に乗り込む。空いている席に座ると、前の背もたれにはしっかりと切符入れのポケットがついていた。どうやら神はまだ僕を見放してはいないらしい。
それが優しさなのかある種の残酷さなのかはわからないが、ひとまず明日の夕方のニュースを賑わすことにはならなそうである。
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