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佐賀駅から仕事先まで

佐賀駅から仕事先まで歩くことにした。時間にして30分弱。散歩としてはほど良い距離だ。まだ昼間は日差しが暑いが、時折吹く風は涼しく心地よい。

コンビニに貼ってある「ストップ!オレオレ詐欺」のポスターに見入っているおじさんがいた。たまにある謎に豪華だがなぜそのラインなのかよくわからない芸能人が集められた警視庁の啓発ポスターである。おじさんはポスターに顔を近づけ、左上に配置された一人の女性を食い入るように見つめていた。近くを通る僕のことなどまるで気にもとめていない。

歩いていると喉が渇く。水を買おうと自販機に小銭を入れたが、あいにく売り切れていた。返却レバーを捻り、110円持って次の自販機を探す。小銭を握って歩いていると、お小遣いの100円玉を握りしめてお菓子を買いに行った子供の頃を思い出した。あの頃と比べると、100円の価値はずいぶん変わってしまった。梅トラ兄弟が4粒入りで30円だったんだ!と言っても今の子は信じないだろう。

ブティックの店先でさつまいもを売っていた。お値段は100円。握った小銭で買える値段だが、生の芋から水分を摂取するのは非常に効率が悪いのでスルーする。しかしなぜブティックでさつまいもを?もしやファッションの一環なのだろうか。さつまいもを持つことで完成するスタイルというのもあるのかもしれない。セットアップとブーツでカチッとまとめたところをさつまいもでハズす、とか。

次の自販機で無事水が買えた。よかった。あらゆる飲み物の頂点に立つキングオブドリンク「水」だが、今日は残暑と運動によってより美味しく感じられる。喉の渇きがやわらぎ、体力ゲージが一気に回復した。ありがとう水。今度改めてご挨拶させてください。

何かの看板に「鬼塚」と書いてあるのを見て、改めて強い苗字だな、と思った。なんてことのないシンプルなフォントで書いてあるにもかかわらず、見たときの圧がすごい。他の苗字とは比べ物にならない。「鬼」は言うに及ばずだが、「塚」も何気に迫力がある。鬼の塚だ。只事ではない。

巨大な探偵事務所の看板が見えてきた。「女探偵わか」という文字の横に、おそらくその「わか」であろう女性の写真がデカデカと載っている。この看板の前を通るたびに思うのだが、彼女が「女探偵わか」本人なのだとすれば、顔バレはしない方がいいのではないか。それともこの写真は全くの別人なだろうのか。そもそも最初から「わか」など存在しないのか。謎多き「女探偵わか」。是非その正体を別の探偵事務所に調べてもらいたい。

コンビニのおじさんがポスターで見ていたのが誰なのか気になったので、検索して確認してみた。どうやら演歌歌手の伍代夏子氏らしい。おじさんは周りの人気女優や人気アイドル、コロッケ等には目もくれず、伍代夏子のみを一心に見つめていたのだ。一人の人間の心をここまで掴む伍代夏子もすごいし、ここまで好きになれるおじさんもすごい。純粋な愛の形がそこにあった。

ただ、これでオレオレ詐欺の被害が減るのかというと、それはまた別の話である。

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