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空き家のはずなのに誰かが住んでいる気配がした話

少し手に空きができたので、昔の話を書いていく。

私は昔、10年近く前、大阪の不動産屋で働いていた。仕事は賃貸の仲介で、短いながらもなかなか濃い経験をした(色々苦い経験をしたため、すぐにやめてしまった)。

私が不動産屋で働いたのは、接客と間取り図と家を見ることが大好きだからだ。接客がスムーズにいけば嬉しいし、「ココにこの家具を置いて……」などと考えることが楽しくてたまらない。

だからこそ、不動産屋で必ず必要な「物確(物件確認の略)」は、私にとってはパラダイスだった。自分では借りられないような高級物件の中を(合法的に)見られたし、デザイナーを問い詰めたくなるような意味不明なデザインの物件を見ることができた。シャワーが外にあるとかね。

いろいろな物件を見ていくと、中には問題のある物件も混ざってくる。Webサイトの「大島てる」に乗っているようなヤツだ。

しかし、こうした物件に当たることはあまりなかった。当たったとしても、真昼間なら「怖い」位で終わることがほとんどだった。

しかし、一つだけ心底怖かった物件がある。それは、幽霊が出るなどと言うものではない。「今現在、人が住んでいる」という気配があったのだ。

その物件は、大阪の北浜あたりだったと思う。おしゃれな街並みの中にある、すこし古ぼけたビルだった。

鍵を使って部屋に入る。細かな間取りは忘れたが、大き目の物件で、それなりに長い廊下の奥に、メインとなる部屋があった。キッチンを見た記憶が薄いので、オフィス用として使われていたのかもしれない。灰色に近い絨毯が敷かれていた。

奥の部屋の手前左側に、もう一つの部屋があった。扉があらかじめ空いていたのか、それとも無かったのか定かではないが、中が丸見えになっていた。私は何も考えずに覗き込んだ。

覗き込んで見えたのは、部屋の窓の下に敷かれたブルーシートと、その上に敷かれた、誰かが寝た形跡のある布団。カップラーメンか何かを食べた跡。そして、雑誌。

誰かがいたずらで忍び込んだ(鍵の管理は結構ずさんな部分があり、無いとは言えない)なら、布団はないだろう。子供の秘密基地になっているとも思えない、何だかさびれた生活感のようなものが漂っている。

理屈ではないが、何となく「誰かが住んでいる」と思った。そして、そう思ってしまうと物確どころではなくなってしまった。第一、誰もいないはずの空き家になぜ布団があるんだろう。その「誰か」が帰ってきて鉢合わせしたらどうしよう。

ものすごい勢いで物件を飛び出し、近くのコンビニで煙草を吸った。一息ついてから会社に帰り、他の物件を探して物確のノルマを果たした。

今になって、写真を撮っておけな良かったと思う。時間が経つにつれ、記憶が曖昧になっていく。

記憶の整理のため、そして、あのドキドキ感を一緒に味わってほしいため、ここに書いた。

全然怖くなかったらごめんなさい!



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