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僕たちの喧嘩は猫も食わない【動かないボーナス】(毎週ショートショートnote)

こんなことはよくあることだ。
彼女の口がへの字になっているのを見ると、ああ、またはじまったと心の中で天を仰ぐ。
今度はなんだ。
食器洗いを後回しにしたから?
君の話を聞いていなかったから?
今朝捨てるべきゴミ袋をまたいで出勤したから?
何を聞いても返事なし。
こんな時は放っておくに限る。
無駄なエネルギーは使わない。


君はむこうで僕はここ。
その距離が縮まることはない。
君は僕の背中越しにテレビを見ているんだろう。

シャールが尻尾をくねらせながら僕たちの中間に座る。
僕は振り返り、シャールを呼ぶ。
真っ白のお腹と背中の黒が見事なミックス猫。
むこうから彼女も呼ぶ。
おいで。
シャールは動かない。
2人と1匹。
不思議な三角関係。


僕と彼女の視線が合った。
への字だった口はもうなかった。


シャールが立ち上がりぐうっと伸びをする。
それが何かの合図かのように彼女が立ち上がる。
2人分のコーヒーを淹れるためだろう。
動かないボーナスはちゃんとある。

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