見出し画像

わたしメリー

夜、薄暗い部屋の中、手元だけを照らす光でわたしはいつものように日記を書く。
これは誰にも見せてはだめなの。
わたしの書いたものは現実になるから。読んだらきっと気味が悪くなる。
わたしだって自分で書いていて嫌になることもある。
でもやめられない。
誰にだって言えない秘密を持っていた方がいいでしょう。それって息抜きになるし、自分だけが自分を知っているってイイ気持ちになるから。
これって逃避とか言わないでね。


メリー。
それがわたしの名前。
日本人だけどメリー。時々笑われたりするけど平気。日本で生まれて育った生粋の日本人よ。
色が白くて皮膚の下の血管の青白い地図のようなものも透けているから、最初は死人のようだとビクビクされる。
ちゃんと生きてるんだけど。
わたしは可愛い服が好き。
ほんとは毎日ドレスを着たいくらい。
レースやフリル。シルクのリボン。
お姫様みたいになりたいのが夢よ。
昔、ママが買ってくれたお人形みたいに。


でもこんなこと言うとみんなが黙っちゃう。
笑ってくれたらいいのに。
まあ笑われても傷つくけど。
好きな服着て歩くのが悪いなんて思わない。
金髪でもピンクでもシルバーでも坊主でもいいじゃない。
あ、これは髪の毛の話ね。
わたしはプラチナブロンドにしてるけど、似合ってるわ。


わたしはメリー。
こうして夜に日記をいろんな思いを書いている。最近、誰かがわたしをじっと見てる気がする。わたしの勘は間違いないの。
どうしてこんなふうにじっと見られているのかわからない。
なんだかそばにいるみたい。
衣擦れの音がする。
香水かしら、バラ?ジャスミン?
とてもいい香りがするけど、わたしはこんな素敵な香水なんて持ってない。
ああ怖い怖い。
怖いけど、でも怖さを待ってる気がする。
夜の闇の中、この部屋に何かが近づいてくる。
足音だってもうすぐそこに。
花の香りがわたしに覆い被さってくる。


ねえ聞いた?
2組のあの子でしょ?
行方不明だって。家出じゃないの?
彼氏なんて絶対いないような子よ。
友達だっていなかったでしょ。誰があの子と一緒にいるっていうの。
日記の話知ってる?
なにそれ。
なんかあの子が書いていた日記が手掛かりだとか。
わたしはメリー。
誰かに見られているって書いてあったらしいよ。メリー?
誰よ、それ。
リカちゃん人形じゃなくて。さあ、なんだろね。
で、そのほかに書いてあったことは警察も絶対言わないらしいわ。緘口令が敷かれてるって。
犯人見つける為に?
うん、よほどヤバイことが書いてあったんじゃないかって。
何が書いてあるの。
誰も知らないわよ。
ていうか、さっきから言ってるあの子の名前なんだっけ?
みんな覚えてない。


友達と別れて家に帰り、自室に入った。
メリー。
たしか、あの子が言っていた。
どうしても顔も名前も思い出せないけど。
誰だっけ。
つい先日のことだったのに。
廊下ですれ違いざま、あの子の口元が動いて何か言った。ほんの一瞬だった。
あれは、なんて言っていたんだろう。
通り過ぎる時、わたしの耳元に囁くように聞こえてきた。
あれは…
あれはたしか。



わたしメリー。



わたしはいま。



あなたのうしろにいる。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?