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はいすくーるららばい 今まで生きてきて一番幸せだった日【noteで文化祭】

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ららみぃたんさんの記事を見てこんな面白い企画があることを知る。
これは是非とも参加しないと。参加することに意義があるのだ。
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文化祭。
いくつになっても心が躍る言葉だと思う。(たぶん…)



わたしは町内にあったごくごく平凡な県立高校に通っていた。
野球部が甲子園に出るでもなく、インターハイ出場する部活動が他にあるわけでもなく、偏差値は中間で、地元自転車通学組と電車通学組とがやはり半々くらいの地味な目立たない高校だった。


高校3年生だったわたしは同じクラスのナカノ君が密かに気になっていた。
その当時流行っていたテクノカットというのか、くっきりツーブロック的な髪型。(バナナマンの日村みたいな感じ)
顔はお世辞にもカッコいいとかイケメンではない。
小さな目と団子鼻。漫画でならたぶん主役の友達に出てきそうだ。
浅黒くて背が小さい。太ってもおらずガリガリに痩せているわけでなし。
山岳部だったせいなのか、肩幅がっちり、なんというかちょっとやそっとの風が吹いてもそこに真っ直ぐ立っているような人だった。
ズボンを少し短めに履くのがその当時流行っていたのか(定かでは無い)、座ると履いている靴下が丸見えになる。
たいてい校則違反の赤やグリーンの派手な色が覗いていた。


ナカノ君はたまにしか学校に来なかった。
来たとしてもお昼過ぎくらいにマックの紙袋を小脇に抱えて、自分の席でムシャムシャとマックのポテトを食べていたりした。
友達がいないかというとそうではなく、彼の姿が見えるとクラスメートのいつもつるんでいる男子や他クラスからも集まってきた悪友達の人垣の中に埋もれていた。
時々、真っ黒のおかっぱのようなテクノカットのてっぺんが見え隠れしていた。


わたしはそれまでナカノ君と話したことがなかった。圧倒的に出席する日が少ないというのもあるが、いつもつるんでいる男子達と、せっちゃんという女の子くらいしかナカノ君と話すのを見たことがなかった。
それもせっちゃんの彼氏がナカノ君と友達だったからだ。
せっちゃんとわたしはまあまあ仲良しだった。
たまたまナカノ君ていいよね、と話したことがあった。ほんの何の気なしに。
次の朝、登校してきたわたしにせっちゃんがニコニコして近寄ってきてこう言った。


オラヴちゃん、ナカノにオラヴちゃんが好きみたいよって言ってあげたよ。
でもナカノは今はまだ誰とも付き合う気がないんだって。オラヴちゃん、残念だったね。


せっちゃんはまあ仕方ないよ、どんまい、というようになぜか満面に笑顔をたたえて残念だったねを繰り返す。
どうしてそんなこと勝手に言うの。
胸ぐらをつかんでぐわんぐわんしたかった。
でもせっちゃんは悪い人じゃない。
ただ少しおせっかいなだけだ。
こうしてわたしの恋は終わった。
わたしは知らぬ所で勝手にフラれてしまったのだった。



そんなこんなで傷心の傷が癒えた頃、文化祭の季節がやってきた。
文化祭実行委員のガンちゃんが演し物をどうするか考えて〜と黒板の前で声を張り上げてる。
うちのクラスはもともと何事もあまりやる気のない人達の集まりだ。
お化け屋敷は5組がやるらしい。
迷路とかは?
ほとんどの生徒達は関係ないこと喋っている。誰も真剣に文化祭のことなんて考えていなかった。
どうせやるなら面白いものがいいよね。
わたしは手を挙げた。
ガンちゃんが指す。
オラヴさんどうぞ。

はい、女装カフェがいいと思います。


男子が一斉にブーイングの声を上げる。
気持ちわりーよ。やだよ、女装なんて。
カフェとかだってめんどくせーし。
ウェイトレスなんてやりたくねー。
ちっ。どいつもこいつも。
だったらアイデアを出せ。


そんな時、声を上げたのはナカノ君だった。
面白そうじゃない。
女装でもなんでもやれば楽しいでしょ。
いっそのことファッションショーなんていいんじゃない。
男が女装して、女の子が男装して出てきたら面白くない?


ナカノ君のこの一言で3-1の演し物はあべこべファッションショーになった。

これをきっかけに終わりにしたはずのわたしの恋心は(フラれていたけど)再燃したのであった。


その日の夜、またもわたしの心が大きく揺れる出来事があった。


ナカノ君から電話がかかってきたのだ!!!!!!!!!!



その当時はあたりまえだが携帯電話などなく、連絡を取りたければ家の固定電話にかけるしかなかった。
その電話はたまたまわたしが出た。
すると少しうわずったような低い男の子の声。


あ、あのーおれ、同じクラスのナカノですけど…わかります?おれのこと。


耳元で聞く初めての彼の声に、あの黒い重い受話器をもう少しで落としそうになった。
ナカノ君がどうしてうちの番号を知っているのか、どんな理由でかけてきたのか、いやいや、なによりわたし今、ナカノ君と電話している!!!!!!


興奮していたわたしは何を話したのか本当に朧げだったが、もちろんクラスの演し物について話したに違いない。
なぜなら当日、わたしはナカノ君の制服を着ることになったのだから。
ナカノ君はといえば、誰かが用意した白のワンピースと白のカチューシャを身につけることになった。


文化祭当日、ナカノ君から渡された制服を大切に捧げ持つような格好でトイレの個室に入り、ドキドキしながら着替える。今の今までナカノ君が着ていたものを借りて着用するというのは、なんとも言えない恥ずかしさと嬉しさが湧き上がってくる。
ファスナーを閉め、学ランの上のボタンをいくつか外してみる。
ナカノ君の制服の中にいると彼の存在がとても近くなる。


   
ちょっとだけ袖の匂いをかいでみる。
制服の生地の匂いに混じって、いつもつけている香水なのか整髪剤なのかわからないが、良い香りがふんわり立ち上ってくる。
鼻腔の奥深くまでそれを吸い込むと、『幸せ』と言う文字が脳内で手を繋いでスキップを始めた。

まさに至福の時であった。
トイレの個室で好きな男子の詰襟の制服を着て匂いを嗅ぐ女子高生。
変態である。


しかし、そんな喜びよりもわたしを困惑させたものがある。
ズボンの丈である。
ナカノ君は背があまり大きくない。
たぶんわたしと並んだら変わらないくらい。
164くらいか、下手したら小さいのかもしれない。
ウエストはベルトを閉めないと落ちるが、上げてぎゅっとするとツンツルテンになってしまい、ナカノ君の股下の短さを暗に観るものに伝えることになる。



どうしようかと悩んでいると時間だと呼びにくるみんなの声。
なんとかなると腹を括り、いざステージへ!!→(3/1の教室)
室内はカーテンを閉め切り、スポットライトがドアから入ってくるわたしたちをひとりづつ照らしていく。
わたしの学ラン姿は女子からとてもウケた。
そこらへんの男子よりカッコよかったそうだ。
トリはナカノ君。
白いワンピースに白のリボンのカチューシャを頭に着けてナカノ君が恥ずかしそうに教室に入ってくると笑いと喝采が起こった。
そして意外や可愛く見えたのだから不思議だ。



誰がいつ撮ったのか定かではないが、家にはその時に撮った写真がある。
ナカノ君とわたしが向かい合ってお互い笑い合っている。
つんつるてんのズボンからはわたしの黒い靴下が見えている。


あれから30年以上の月日が流れた。
ナカノ君はどうしているだろうか。
こうして思い出す記憶も朧げだ。


でもあの高三の文化祭でナカノ君と笑い合ったあの時のしあわせな気持ちは忘れていない。
それは今まで生きてきていちばん幸せな日だったのだ。





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