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【前編】勝つ家庭の雰囲気

はじめに

発信者として、PVを重視して短いコンテンツを世に出したい自分と、多少読みにくくとも記事の深さで勝負したい自分は、時として対立します。

この記事も最初は多くの人に届けるためにPV重視で『東大生の家には○○がある!』という内容の記事にしようと思いましたし、実際に下書きにも残しました。

しかし、そうした記事や動画とは一線を画す、“読めば読むほど味が出る”記事を書きたいと思いました。PV重視の下書きは書き直され、可能な限り読みやすくするために取材形式となり、こうしてあなたに読んでいただくことが出来ています。

自分の記事が少しでも役に立てるのであれば、これほど嬉しいことはありません。

前後編合わせて12,000字超えの相当な長文(卒論かよ)ですが、この文章を読んだ方が『学力の高い子供を育てる家庭環境』ではなく『自分で自分の人生を自分の意思で切り拓ける子供を育てる家庭環境』を構築されるのに必要な考え方を全て盛り込みました。

ぜひ最後までお読みいただければと思います。

本文

□誰もが子供の頃通る道

「中高時代に『勉強しなさい』と怒られたことはありますか?」

ーーあります。やる気になってる時に限ってこんなこと言われて嫌になるんですよね(笑)

「僕が担当した生徒の方も同じことを言っていました(笑)『はいはい』と言いつつも『そういうアンタは中学時代勉強ちゃんとしてたんか』という気持ちになるようです。」

ーー同じことを思ってました(笑)

「こうした何気ない言葉も深掘りすれば意外と面白いものです。今日は僕の家庭環境の研究から始まった成果をお見せします。」

ーー宜しくお願いします。

□「子供が家で勉強しません。どうしたらいいですか?」

「あるご家庭での家庭教師の経験を話します。」

「そのご家庭は2階建てのマイホームに住んでおり、自分は2階の子供部屋でお子様の勉強を見ていました。その後、1階に戻りご両親に成果報告をして帰る…とまあ、一般的な家庭教師の日常という感じですね。」

ーー自分も家庭教師のバイトといえばこういうイメージですね。

「これをしていたある日のこと。いつものように1階に戻りご両親とお話していた時のことです。ご両親は僕に『ウチの子は全然家で勉強しなくて…。どうしたらいいですか?』と質問されました。」

ーーどこのご家庭でも大なり小なり同じような悩みはあるかと思います。

「そうですよね。どうやら深堀って質問すると、周囲のご家庭で子供が家でもしっかり勉強していたり塾に通うペースも上がっていたりといったお話を聞いて焦りが生まれてしまったとのことでした。」

ーーこれに対してはどのように対策をしたのでしょうか?

「一般的な打ち手としては『宿題の数を増やしておきますね』ということになるでしょう。しかし、それでこのお子様の成績が上がるとは思えませんでした。」

ーーどういうことでしょうか?

表面的だという印象を受けたからです。仮に他のご家庭で学習習慣が根付いていたとしても、その表面的な行動を直接輸入したとして、果たして成果は出るでしょうか?」

「勉強の話では分かりにくいと思いますので、恋愛に例えてみましょう。自分は大学時代に、恋愛指南本に書かれているモテる男の特徴を学び、恋愛テクニックを発信しているインフルエンサーの動画を見て勉強し、モテようと必死になっていた時期がありました。しかし、モテませんでした(笑)」

ーーお気持ちは分かります(笑)”モテる”ってテクニックとかノウハウではないですよね。

「そうなんです。ここで恋愛なんて諦めて全てを部活に捧げました。そして、恋愛のことなど頭から消えるくらい夢中になって部活に取り組むと不思議なことが起こりました。女の子から声がかかるようになったんです(笑)そして僕も根本的なところがバカなので、ここで女の子と遊んで浮かれてしまいました。そして不思議なことに、またモテなくなりました(笑)」

ーーそういうもんですよね。

「ここで僕が学んだことは1つ。『モテる男はモテることなど考えていない。恋愛の優先順位が低く、夢中になっているものがあり、そこで磨かれた人間性が自然体で人を惹きつけている』ということです。だから、大学生時代の部活に夢中になっている自分が恋愛テクニックを学べば大きな効果があったでしょうが、そうではない自分がテクニックを学んだとて所詮はただの付け焼き刃だったということです。」

「この構造を家庭の学習環境に転用して考えると『お子様が自分の意志で机に向かうご家庭は子供に勉強させようと考えていない。あくまで子供が自分の意志で勝手にやっていて、勉強が家庭に自然に根付いている』ということになります。僕自身、母に『勉強しろ』『宿題やれ』なんて言われたことは1度もありませんが、結果として早稲田大学に合格しています。」

ーーたしかにこの話は理解できます。この前提を抜きにして宿題をさせようとしても、表面的な打ち手にしかならなそうですね。

「その通りです。また、こうした宿題をさせる…といった『お子様が我慢して、辛い思いをしながら一生懸命勉強する』という打ち手の1番の問題点は、お子様の中に『勉強=苦行』という方程式が完成してしまうことです。こんなモチベーションでやったって楽しくないですよね。テストなどの緊急性(それもマイナスの意味合い)がない限り、絶対にやらなくなります。そして、受験のたびに家に家庭教師呼んで、塾に行かせて…ということでしか、お子様を机に向かわせられなくなるわけです。」

ーーこれに関しては完全に同意します。このお子様にはその後どんな対策を打たれたのですか?

「やはり1対1の対話ですね。結局いつも対話してます。お子様に話を聞きに行きました。その中で出てきたことが『勉強しろと親は言うが、そういうアンタは中学時代勉強ちゃんとしてたんか』という身も蓋もない不満だったわけです。」

ーーなるほど。しかし、だからと言ってご両親に今から勉強していただくわけにもいきませんよね。

「その通りです。これをしても『勉強=苦行』の方程式が今度はご両親の中にできあがるだけですから。むしろ『自分がこんなに辛いことしてるんだから、子供もやれや』という空気感になってしまうでしょう。」

□家庭に学習習慣を根付かせる

ーー結局、どのような打ち手を打たれたのでしょうか?

日常の中に勉強を自然に根付かせようと考えたのです。そこで、僕が採用したのが『リビング勉強』でした。」

ーー詳しくお願いします。

「一般的に、家庭教師がご自宅に上がる時、①基本的に勉強は子供部屋で行い、②その後リビングにいるご両親を会話して帰る…といった場合がほとんどです。」

ーー自分もそのイメージでした。

「ここで僕はそれを崩し、リビング空間で勉強を行いました。そして、ご両親とお子様に共通の本を一冊渡しました(林修さんが受験の意義について語った『受験必要論』という本です)。すると連鎖的に起きたさまざまなことがご家庭の学習環境を良質なものにするのに役に立ちました。以下にまとめます。

  1. お母様は家庭教師が目の前のリビングにいるのに、まさかテレビなどを見るわけにもいかない。

  2. 必然的に自分も勉強する空気感となり、僕の渡した本を読む。

  3. 小学生の妹様が、今度はせっかくだからと勉強する僕らの横で宿題をやり出す(僕の担当した中学生のお子様には小学生の妹がいました)。

  4. お父様のご帰宅、自宅で家族全員が勉強しているのを目の当たりにする。

こんな感じです。ここで思わぬ副産物がありました。僕がご両親とお子様に渡した共通の本から、勉強に関する共通の話題が生まれたのです。『あの本に書かれていたこのことが…』といった感じで。すると今度は自然に『大久保さんと勉強した時にこんなことを言われてさ…』といった形でどんどん広がり、会話の質が深まっていくんです。その会話は最初に行われていた『最近勉強どうなんだ』『うーん』といった表面的なものではなくなっていました」

ーーこれいいですね。自然な形で勉強が家庭に根付く様子が伝わってきます。

「ありがとうございます。徐々にご家庭の学習環境が良質なものになっていき、テスト前にはこんなこともありました。

  1. リビングで勉強するのが定着し僕がいない間もご家庭のリビング空間で勉強が行われる。

  2. 僕がオンライン会議ツール(ZOOM)を繋いで質問への対応や雰囲気の引き締めを行う。

  3. 中学生のお子様だけでなく、小学生の妹様も加わり宿題をこなす。

  4. その時間はテレビやスマホに気を取られることもない。

  5. お父様がご帰宅しお子様たちが”家庭教師がいるわけでもないのに”勉強する様子を目の当たりにする。

  6. 次第に僕がオンラインで繋がなくともリビング空間で勉強が自発的に行われるようになる。

  7. リビングで勉強がなされる以上、机の上はキレイにしておきたくなる

  8. テーブル上が整頓され、学習環境に留まらず家庭環境もよくなっていく

いかがでしょうか?(ドヤ顔)」

ーー最後のドヤ顔余計ですね(笑)しかし、本質的な解決策だなと感じました。家庭教師にしかできないですね。僕が最もいいなと思ったのは『テスト前にお子様にさらに勉強させようとした時に、家庭教師を週に呼ぶ回数を増やす』という表面的な対策にならなかったことです。

「そうなんですよ。これが最も大きかった。『家庭教師の仕事は家庭教師が不要なご家庭を作ること』という僕の信念が実現された瞬間でもありました。その後も家庭に学習習慣が根付き、僕が担当を外れた後もしっかりと勉強を続け、無事に第一志望の高校に入学しました。その報告を聞いた時の嬉しさは今でも覚えています。偏差値が上がったのはお子様が行った塾の指導の賜物だと思います。しかし、その土台を築いたのは、学習習慣を家庭に根付かせた、ご家族の努力であったのだと思います。」

「後日談を一つ。現在高校生のそのお子様は、部活と勉強の文武両道をこなす日々ですが、今でもリビングでの勉強を続けられているそうです。『リビングで勉強、スマホは自分の部屋で』という生活サイクルを確立し、成績も上位50位以内に入っているとのこと。偏差値60を超える高校で部活の練習に追われながらこの生活を続けていく原動力は、まさに家庭にあると言えると思います。」

□東大生家庭訪問

ーー他のご家庭でも同じようにやられたと。

「そうですね。リビング空間に勉強を導入し、ご家庭に学習環境そのものを根付かせるー。これが僕の行ったことです。他のご家庭でも家庭教師を担当して、姿は違えど同じような空気感を作ることに成功しました。」

「しかし、ここで『東大生の家庭環境ってどうなってるんだ?』ということに関心を持ち始めました。自分がやったことと東大生の家庭環境が共通していれば、それなりの再現性があると見なせるのでは…と思ったからです。」

ーーたしかにそれは気になりますね。ご自分の繋がりをあたって話を聞きに行ったということでしょうか?

「正解です(笑)」

「東大生に限らず、以下のような方々を食事に誘ってお話を伺ったり、ご両親に繋いでいただいて当時のお話を聞いたり、実際にご家庭に訪問したりもしました。

  • 東大や京大、一橋などに合格した方

  • 上記大学に肉迫する成績を叩き出し“滑り止めとして”早慶に合格した方

  • 名門高校に推薦で合格しそのまま早稲田に合格した方

  • 現在進行形で名門高校に通われて現在東大や京大、海外の大学への進学を目指されている方

などなどです。」

「名門高校に推薦で行き、そこから名門の大学に入るのを世間では『エスカレーター』と(多くの場合嫉妬からくる悪意を込めて)呼んだりします。僕自身も、全く逆の浪人という一般入試の道を選んでいたこともあり、そのような認識(偏見)を持っていました。しかし、実際にご家庭を覗いてみると、お子様が自分の意思で推薦という道を選ばれたことがよく分かる家庭環境が構築されていました。こうした偏見を排除する意味でも、僕にとっては有意義な時間でした。」

ーーそうしたご家庭にはどのような特徴があったのでしょうか?

「以下に列挙します。

【日常会話面】

  • 『なんでそう思ったの?』などの日常会話に溶け込んだ思考力を育てる問いかけが多い。

  • 勉強に関する話題が素で出てくる。

  • ご両親がお子様の教科書の内容をある程度把握している。

  • リビングのテーブルでお子様が勉強してその時間はテレビを見ない…などのお子様の勉強を助ける姿勢をご両親が常に示している。

こうした対話の中で、信頼関係が醸成され、お子様が人生に関する深い話をご両親に対して自然にすることができる。

【環境面】

  • リビングに本棚がある

  • (その本も難しいものではなく『かいけつゾロリ』などの易しいものや図鑑やウルトラマン大百科などの好奇心を育てるものが多い)

  • リビングに地球儀が置いてある

  • 子供部屋の壁紙がプラネタリウム

  • トイレに化学の元素記号表が貼られている

  • 冷蔵庫に英文法のルールを簡単に書いたプリントが貼られている

※リビングに本棚を置いたから家庭に学習習慣が根付いたのではなく、家庭で日常的に行われていた対話や親子間の信頼関係が結果として環境面における行動を導いた※

このような感じです。いずれも複数のご家庭に共通して見られた要素であり、1つのご家庭にしかなかったものは勝手ながら除外しています。」

ーー一生懸命勉強したというよりは、勉強することが当たり前であり自然にやっているという印象を受けます。

「その通りです。」

□最後に補足

「1つ勘違いしてはいけないことがあります。」

ーーなんでしょうか?

「こうした環境面での特徴を安易に取り入れても上手くいく確率は極めて低いということです。例えば、僕が前述のご家庭で『東大生の家にはリビングに本棚が置いてあるんです!なのでお宅でもリビングに本棚を置きましょう!』と言って行動に移しても上手くいく確率は低いと言わざるをえません。」

ーーそれこそ先ほど話に出た『モテる男の上っ面だけをマネした非モテ男』になってしまいますよね。

「その通りです。僕がお話を伺いに突撃したご家庭でも、最初からリビングに本棚を置こうしたのではなく、ご両親とお子様の間に思考力を促す対話を通じた信頼関係が構築されていて、お子様の好奇心が勉強に向かった。それが結果的にリビングに本棚を置いたり、トイレに化学の元素記号表が貼られたりという行動として表面化しただけです。」

ーーこの順番の勘違いは発信者側も気をつけないといけませんよね。安易に『東大生の家にはこれがある!』と声高に叫んでも、PVは取れたとしてもそれを本質的な人の人生を変えうる発信とはならないでしょう。

「仰る通り。本記事を最後までご覧になられた方はこの点を勘違いすることなく、お子様の学習環境を構築していただきたいなと願うばかりです。」

おわりに

前編はこちらで終了です。

後編ではさらに深く家庭環境の研究を進めています。



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