【三題噺】ポイントカード

お題: ポイントカード、地下街、自然 

ショウは壁に貼られた写真に目を奪われた。
緑と水、たくさんの花が咲いている写真。自然、と呼ばれているらしい。
かつてこの景色があちこちで観られたと祖父は語っていたが、ショウには夢の世界としか思えなかった。
人類の愚かさ故に地上は放射能によって焦土と化し、残された者たちは地下へ逃げ込んだ。知恵と技術を出し合い、巨大な街や農地や機関を形成して何とか生きていた。日の光、風のそよぐ様、雨も全て機械によって管理され、それによって作物を育てて日々の糧としていた。一方で、ショウの住んでいる都市部は過度に機械化され、何もしなくても生きていける。それがショウには退屈だった。
「この景色を見たい」
綿々と受け継がれた血がそうさせるのか、ショウの脳裏に日々そんな想いが育っていたのだ。

ある日、政府はこのポスターと共にこんなキャッチコピーが付けて公表した。
『1億ポイントでこの景色があなたのものに!』それまでの貨幣は、地上での秩序の崩壊がきっかけとなってその価値を失っていた。変わって貨幣と同等の価値を持つようになったのは「ポイント」だった。
政府は全ての国民にポイントカードを配った。認証チップも内蔵されていて、個人認識カードも兼ねていた。学校に行っていたらポイントの補助を得て、それで学校で必要なものを買う。給料も全てポイントで支払われ、食料品や嗜好品などの売買もポイントで賄われていた。しかも、全世界が同じポイント制を導入したため、価値は万国共通で取引も簡単という利点があった。
しかし、まだ学生のショウにはそんなポイントはない。さっき確認した時は5000ポイントだった。遠く及ばない、とショウは肩を落とした。

かくして、政府のポスターは大反響を呼んだ。
自然への憧れから、ポイントを貯める者が続出したのだ。しかし、1年経っても3年経っても手に入れたという話は聞かなかった。人々は本当に存在するのか?と疑いだし、ポイントを貯めるのを止めてしまった。
しかし、ショウは諦めなかった。学校の傍らアルバイトに励み、無駄遣いを一切やめた。義務教育を終えるとすぐに就職し、必死で働いたのだ。
10年後、1億ポイントを貯めたショウは、政府の高官からとある場所へ案内された。
あの写真の光景が広がっていたのだ。思わず涙がこぼれた。
「あなたの情熱は素晴らしい。ぜひ、ここでこの景色を維持する仕事をしていただきたい」
ショウはもちろんです、と大きく頷いた。

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