「今のままの自分でいいんだよ」
仕事帰りに、行きつけのバルに行った。一人でふらっと入っても、誰か顔見知りがいるところ。いつものメンバ-たちが、酒樽をひっくり返してテーブルにしたのを、囲んで座っている。
私はビ-ルを頼み、その日あったことなどを、適当に話している賑やかな会話に加わる。ふと「僕、(自分が)変わんなきゃいけないと思っているんだけどね、なかなか…」の声が聞こえてきたので、左を見ると、隣に座っていた一人の男性が、ちょっと思いつめたような顔をしている。
「え?どうしたの?」と私が聞くと、「だって、ほら、社会とか、世間の目とか、いろいろあるでしょ?僕こんなだし…」と恥ずかしそうにうつむく彼。小柄な体格。白髪交じりの黒い、ふわふわの巻き毛が、優しい笑顔を浮かべた小さな顔をおおっている。感情豊かな灰色の目は、こどものよう。
実は私、彼のことは、同じテ-ブルで一緒に一杯飲むときにいる人、くらいしか、知らない。ちょっと落ち着かない、というか。よく、ビール瓶を持ってあっちこっち、行ったりする。ちゃんと座っていられないタイプなのかなあ?でもなんとなく、彼の言いたいこと、わかるような気がする。きっと色々あるのだろう。自由人の雰囲気をただよわせている人。
いつもの生き生きしたのが、どっかに行ってしまった顔。彼、そんなこと考えていたんだ。ちょっと胸をつかれた私は「う-ん、確かに大人になると、ちゃんとした人であること、って期待されるものね。でも、あなた今のままでいいんじゃないかなあ?自分らしさ、って大切なことよ」って言ってみた。
そうしたら、いきなり「ほんと?」と言って瞳をウルウル。「(なんか言ったっけ)??」の私をほっておいて、やたらと感動している「あのね、僕の子供が8歳か9歳の時にね、言ったんだ。『パパ、そのままのパパでいてね』って。今、君の口から同じセリフが出てきて、僕はびっくりしてる。信じられないよ。ほら、あそこにいるのが僕の息子だよ。」指さすほうを見ると、入口の半開きのドアに、15-16歳くらいのほっそりした男の子が寄りかかってこちらを見ている。
「僕、親だからさ、もっとちゃんとしないといけないんだよ~。こんな自分じゃいけないと思って、努力はするんだけど、どうもうまくいかないんだよね。でもね、息子は、あるがままの僕を受け入れてくれてるんだよ~」
社会というのは、大勢の人たちが集まって力を合わせ、協力して何かを生み出す場、だと私は思っている。たくさんの異なる人がいるから、それをまとめるためには、規則や決まり事がある。そこにぴったり適応する人もいれば、生きにくさを感じるひともいるでしょう。いろんなタイプの人がいていいと思う。合う部分と。合わない部分と。それを両方合わせたのが、きっとそのひとらしさになる。がんばるお父さんと、それを応援する息子さん。いつまでも一緒だといいな。
#大切にしている教え
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