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おおいの特産品を守る、企業組合「うめっぽ」の食育活動

福井の梅の収穫量は1,730トンで、全国3位・日本海最大の生産地です。今回の地域おこし散歩では、そんな福井の梅をおおい町で栽培し、二次加工した商品を開発・販売している企業組合うめっぽの代表、古池洋子さん(以下、古池さん)のもとを訪ねました。

古池さんはうめっぽを創立した平成20年から、およそ15年ものあいだ本郷小学校で食育活動をしているとのこと。その授業に参加すると、おおい町の特産品である梅を次世代につなげていく姿を垣間見れたため、その様子をレポートします。

「これから6時間目の梅干しづくりをはじめます」

福井の梅をつかった梅干しづくりの授業が、本郷小学校4年生を対象に行われた。授業の内容は品種の特徴や収穫量など、福井の梅についての理解を深めたのち、実際に手を動かしながら梅干しのつくり方を学ぶというもの。梅に長年向き合われてきた古池さんのお話は、福井にある4つの品種からはじまった。

「おおい町には、紅映(べにさし)・剣先(けんさき)・福太夫(ふくだゆう)・新平太夫(しんへいだゆう)という品種があります。なかでも紅映は福井県の代表品種で、光が当たったところが名前のとおり綺麗な赤色になります。また、種が小さく、皮が薄いので果肉が分厚い。そして、トロっとした舌ざわりが特徴です」。

紅映

そんな福井の梅は今年、ほかの地域と同様に驚くほど不作だったと古池さんは言う。

「みんなもニュースで見たかもしれません。今年はいろんな農作物が不作の年です。梅の栽培に精通する若狭町の農家さんが『こんなに実がならない年ははじめてだ』と言っておられました。私も20年ほど梅を育ててきましたが、経験したことがないくらい収穫量が少ないです。

そんな状況ではありますが、肥料をあげたり、消毒をしたり、丁寧に手をかけて大事に収穫をした梅を持ってきました。梅干しができたらみんなの家に持って帰って、お母さんやお父さんに梅の話を伝えてくれたら嬉しいです」。

梅干しのつくり方は、おおきく3つに分かれる。梅の塩漬け、紫蘇と合わせる工程、そして、天日干しだ。今回の食育活動では6月20日に塩漬けし、7月4日に紫蘇と合わせる授業が行われた。そうして生徒たちが準備した梅を、うめっぽの方々が7月末に3日~4日ほど天日干しをし、秋頃に給食として提供される。

いよいよ班に分かれ、塩漬けをする準備がはじまった。まずは、梅の産毛をやさしく手で洗う。キッチンペーパーで水気と、ヘタをとる。そして、樽のなかにパラパラと塩をまぶしたら、梅を並べて、塩をかけていく。その工程を三回繰り返し、梅の水分をうまく出すために内蓋のうえに重しをのせたら、梅の塩漬けをする準備は完了する。

梅の塩漬けをしてから2週間後の授業では、梅と紫蘇を合わせる工程を体験した。紫蘇の葉を枝から摘んだあとは、塩漬けした梅からでてきた梅酢を紫蘇にかけ、丁寧に塩もみを行う。水気を切ると徐々にでてくるアクをとり、絞ってできた汁と塊となった紫蘇を樽に入れ、内蓋と重りをのせれば完成だ。天日干しをするまで一か月ほどこの状態で保存し、梅雨が明けて晴天が続く日に土用干しを行う。

二日間の授業を経て、梅干しづくりの工程を終えた生徒たちは、「紅映と南高梅はどんな違いがあるのですか?」「どうして、梅干しは腐らないんですか?」といった質問や「紫蘇と合わせることで梅干しは赤色になることを知りました」との感想を述べていた。何人もの手が挙がり、途絶えることなく質問が続いていたことに驚いた。

授業を終えたあと、15年以上も梅の食育活動をつづけている理由を古池さんに尋ねてみた。「もともと梅の値段は今よりも高値で取引されていました。20世紀後半から梅は青いダイヤと呼ばれはじめ、1粒100円で売れていた時代もあったのです。しかし、中国からの輸入が増加して梅の価格は下がり、パン食が広がった影響も受けてなのか梅離れが進みました。こうした状況への危機感から、梅の二次加工をした商品を開発して付加価値をつけたり、未来につなぐために食育活動をつづけたり、梅の魅力を広げる活動をしているのです。後継者不足などの問題は尽きないものの、おおい町の特産品である梅をこれからも守っていきたいと思っています」。
 

編集後記

うめっぽさんの食育活動を取材するにあたり、地域の食文化はどのように受け継がれるかを調べてみました。農林水産省の調査によると、食文化の継承に「子供の頃に学校で教わること」が必要だと約半数もの人(回答者2309人中44.4%)が答えていました(令和6年3月「食育に関する意識調査報告書」)。

そうした背景において、古池さんのような地域で活動されている方々が、学校で授業を継続して行うことの影響は計り知れないものだと感じました。また、自分自身が大阪の小学校で受けた授業を思い返しても、梅干しづくりなどの体験を通してふるさとを意識できるような授業があった記憶はありません。「こんな授業を受けたかったな」とうらやましさを抱くくらい、とても素敵な取り組みだと感じました。
 

執筆・撮影:張本舜奎


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