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底引き網漁の一日を、漁師歴13年の井本健太さんに尋ねてみました。

こんにちは、地域おこし協力隊の張本です。

昨年の「広報おおい11月号」では、大島漁業協同組合の中谷さんから大島では主に定置網漁や底引き網漁、延縄漁が盛んだというお話を伺いました。

それぞれの漁法について詳しく聞いてみたいと当時から思っていたため、今回、底引き網漁をされている漁師さんの井本 健太(いのもと けんた)さんにインタビューを行うことに。今回は、お話を聞いた底引き網漁の一日の流れや漁師さんの働き方について書いていきます。

 井本 健太 / 漁師
1992年生まれ、大島西村出身。父が親方を務める底引き網漁船「金録丸」の乗組員。休みの日には個人でなまこ漁や素潜り漁なども行っている。 

底引き網漁って、どんな漁?

――最初にお伺いしたいのですが、底引き網漁とはどのような漁法なのでしょうか?

底引き網漁は、海底近くにいる魚を網で獲る漁法です。網を投げ入れて、船で引っ張ります。そして、一時間ほど経ったら引き上げて、魚を揚げるのです。底引き網漁の漁期は10月から5月末までで11月には越前ガニ、もう少し寒くなればのどぐろやカレイなどがよく獲れます。

――井本さんが乗っている漁船では、何人で漁に出るのですか?

親方と乗組員を合わせて5人ですね。僕は父が親方の「金録丸」という漁船に乗っています。

――どのように漁をされるのか、一日の流れを聞いてみたいです。漁師さんの朝は相当早いイメージがあります。

そうですね。朝の3時に出航して越前沖に向かい、漁場に着くのは5時頃です。狙った魚が獲れそうな深さに網を入れて、一時間ほど経ったら網を引きます。魚を船のデッキに揚げたら、また網を仕掛けてポイントに投げては船で引っ張り、その間に魚を処理をするのです。漁の手順を大まかに言えば、その繰り返しですね。

――魚の処理とは、どういう作業を指すのですか?

魚種やサイズを選別したうえで、氷を敷いた発泡スチロールに並べていくのです。カレイを獲りにいってもアカガレイとエテガレイなど、様々な種類が混ざります。また、アカガレイを例に挙げると、小・中・大と複数のサイズがあるのです。種類やサイズが異なる魚を一緒に並べると仲買さんが困るので、その辺りはきちんと選別しています。

――網を一度入れると、どれくらい獲れるのですか?

僕らは水揚げ量を箱で測るのですが、0箱の時もあれば100箱になる時もあります。一箱と言っても、6匹入っていたり、30匹入っていたりするので具体的な量は伝えづらいですね。

――日によって、獲れる量が全然違うのですね。その後、漁が終わって帰宅するのは何時ぐらいですか?

17時や18時ぐらいの日の入りまで漁をします。網を入れて引き揚げる工程を7回ほど繰り返したら、福井県漁連小浜支所に向かい、荷揚げをします。その後、大島に戻ると21時や22時頃になっていますね。日付が変わってしまう時も多々あります。

――朝3時に出航して、日付が変わるくらいまで……かなりハードですね。

ただ、漁に出るのは毎日ではなく月に10日くらいです。だから、体力的なしんどさよりも、やりがいを感じることの方が多いですね。
 

漁師・井本さんの働き方

――そもそも、井本さんはいつ漁師になられたのでしょう。生まれは大島ですか?

大島の西村で生まれ育って、高校を卒業するまでおおい町にいました。それから美容師になるために町を出て京都にある専門学校に通ったのですが、あまりの不器用さに一年で学校をやめました。おおい町には友達も多かったですし、父親も友達も漁師をしていて身近だったので、漁師になることを決めて戻ってきたのです。当時19歳だったので、漁師になってから13年が経ちます。

――漁師の仕事は、イメージ通りでしたか?

いえ、ここまでしんどいのかと驚きました。翌日に漁があるかどうかは天気予報を見ればわかるのですが、寝る前に携帯で予報を見ては憂鬱な気分になっていました。朝は早いですし、力仕事が多くて体力的にもつらい。その上、船酔いするタイプだったのです。ただ、徐々に慣れてくると、そうした辛さにも耐えられるようになってきました。

――今でもしんどさは感じつつ、耐えられるようになる感覚なのですね。

そうですね。船が傾くくらい魚がドンっと入る時があるのですが、昔はその状況になるたびに作業量が増えるので「嫌やな。しんどいな……」と思っていました。ただ、慣れてくると、段々と見通しがつき始めるんです。しんどさを覚える前に「この作業は先にした方が効率がいいな。このぐらい先に処理していたら後が楽になる」と考えながら効率的に進められると、比較的しんどさは薄れました。

――だからこそ、やりがいの方が大きいと。

漁師はやりがい、ありますね。家を建てるときに休みの日に遊んでばかりではダメだと思って素潜りやなまこ漁を始めたのです。それを機に楽しさは増していきました。例えば、なまこ漁では自分で舵を持っています。網を入れるポイントや引っ張り方、使う道具などもすべて自分で選択できます。

自分が舵を持つと、一匹獲れるだけで嬉しさを感じるんです。そして、それらの漁も慣れてくると獲れる量も増加し、年収も上がります。底引き網漁では父が舵を持っているので、以前はそうした楽しさを知りませんでした。上手い人はたくさんいて上を見るとキリがないですが、自分でやることはやっぱり楽しいですね。

――漁が上手な人は、何が上手いのですか?

底引きであれば、魚が獲れるポイントを当てられたり、網を入れる深さが良かったり、それらの嗅覚があります。網を引き揚げて魚が獲れなかったとき、父は上手いことポイントを探し直したり、少し浅くしながら魚を獲ったりして、対策を打つことができます。僕も3日ほど父の船で舵を持たしてもらったのですが、次の打ち手に悩んでしまうのです。

父のそういう姿を見ているとやっぱりすごいなと思います。父のように、自分で網を作ることも僕にはできません。漁が上手な人に色々と学びながら、僕も今よりもっと腕を磨いていきたいと思っています。

――最後に、漁師として働いてみたいという人へのメッセージをお聞きしたいです。

おおい町の大島は他の市町と比べても若い漁師さんが多いので、若い方もなじみやすいかもしれません。漁師を始めるうえで何より大事なのは、気の合う仲間がいることだと思います。だから、事前に体験などで来られる際は、休日に遊べる人だったり、色々と教えてくれる先輩だったり、そうした人との関係性を築くことをおすすめします。

――漁師になる上での注意点はありますか?

漁師は想像よりも体力的にしんどい部分があるので、一度体験したほうがいいのではないでしょうか。また、お金面も考える必要があります。例えば、毎月30万円の給料をもらえている会社員の方が、漁師になった月に50万円稼げるとします。しかし、翌月の給料は10万円だった。そうした不安定さが生じてしまうのも漁師の仕事です。そうした面は事前に知っておいた方が良いのかなと思います。

――今日のお話とても面白かったです。漁師さんの仕事の様子が、以前より想像できるようになりました。ありがとうございました。 

編集後記

これまで漁師さんが働く現場を見たことはなく、どのように漁を行い、獲った魚を販売しているのかを詳しく知りませんでした。しかし、井本さんにお話を聞いたことで底引き網漁の流れを知ることができ、大島漁業協同組合の中谷さんからは競りに出された後にスーパーで販売されるまでの流れを教えてもらえたことで、移住前よりも遥かに漁業の理解が深まっています。

こうして漁業に関わる人がいるからこそ、家庭で魚を楽しめるのだから本当にありがたいことだと思います。今後もおおい町の海に関わる人たちのお話をもっと聞いていきたい。そう感じる取材でした。

執筆・写真:張本舜奎

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